第63話:フラグとは
緊急事態宣言とは何だったのであろうか?
それでは続きをどうぞ。
俺達はフォレストタウンの人たちに気づかれない様、知らない内に帰路へと付いていた。
その車内で宏樹から質問された。
「あの人達を太刀川駐屯地に連れて行く話は無くなっても、俺達は当然行くよな?」
うん、前から言ってたからね。
「そうだね、いつかは行かなきゃと思ってた計画にあの人達を連れて行くって話が割り込んで来ただけだから、当初の予定通り駐屯地の様子は見ようと思う」
それを聞いて宏樹は車内で「よし!」とガッツポーズをする。
「もしかして宏樹さんは駐屯地に行くよりもドローンとかヘリに夢中になってる?」
と聞くと、満面の笑みを返された。
室内用のラジコンヘリを何かに接触させて墜落させる宏樹の操縦テクニック…
俺の中である意味、斜め上…いや、斜め下に下方修正された。
「宏樹さんなら大丈夫っスよ!」とはキヨシの言。
何が大丈夫なのか良く分からない。
因みに、キヨシと美智子さんは後方のトラックに乗車中。
運転手は美智子さんではなくキヨシだ。
17歳で運転とか危ないっていうのは無しだ。
免許の提示を求められるわけでもないし、こんなご時世だから運転くらいできた方が良い。
しかしこの親子ほどの歳の離れた二人、何気に親密だよね…
あえてその事には触れない様にすると、後部座席のまゆゆとユウコりん、ノンたんの会話がズバリ、美智子さんとキヨシの関係となっていた。
これが女子中学生の恋バナと言うやつか…
男よりもドストレートな内容に30を超えた俺も苦笑い。
いや、ドン引きである。
当の美智子さんとキヨシもインカムで会話をしてるから表情は分からないが軽く受け流す感じ。
この受け流し方…親子と言うより完全に友達以上恋人未満って感じだぞ?
しかも相当のベテランの域だ。
これは今日の夕飯の話題独占だな。
案の定、お夕食の間は美智子さんとキヨシの関係が話題に上がり、大いに盛り上がる中、二人は華麗にスルーしていた。
なんだ、いつからここは学校になったんだ?
完全に放課後の仲良しグループの会話じゃないか。
フォレストタウン引き上げから数日後、宏樹念願の模型屋に赴く事と相成った。
しかし課題は山積み。
まず、我が家からフォレストタウンよりも距離がある事。
大通り沿いに店舗がある事。
幸いにも橋を渡る場所ではないので車で行けるとは思われるが、騒動から今まで模型屋方面へは向かった事が無いので道中何があるか分からない。
橋が自衛隊によって爆破され、初めて武器を調達した壮絶な出来事の時はそっち方面からも銃声が聞こえていた事は覚えているが、その後は何も起きていないので想像もできない。
方向的に縦田基地方面なので米軍が頑張っていれば道路も邪魔な車両は撤去されてるはずだし、そう言うことをやって頂けたと言う事は、基地に帰る米軍と一緒にゾンビも同行するはずだから多少は安心かな?
と言っても、基地内部からゾンビが発生したら内部崩壊を起こしてる可能性もあるから何とも言えないね。
未だに動いているWEBで地図を確認する。
途中にはスーパーマーケットもあるし、道路は国道と言う事で幅広だしで命がけの旅になりそう。
命がけと言えば大げさかもしれないが、今のこのご時世、人間の命なんて家畜と同じかそれ以下なんですよ。
どういう訳かゾンビは人間しか食わないからね。
野良ゾンビなら大して脅威ではないが、団体さんだと手も足も出ない。
そこに野良動物ゾンビまで登場したら生き残れるのだろうか?
人間の動きが遅くなるのだったら動物も遅くなると思うけど。
ましてや有機生命体兵器なんて出てきたら…
幸いにも出てきてないからイージーモードで生きてるんだけどね。
当然ながら大通りをそのまま走行していて生存者かゾンビの大群に遭遇したら命がいくつあっても足りないと思い裏道を色々確認する。
途中にも学校があるし避難民の状況確認がてらノンビリと向かうとする。
急いでるのは宏樹だけだし。
そもそも…模型店にドローンはあるのか?
昔から通っている模型店で現在(数か月前)まで潰れずに営業してるのは知ってる。
でも、そこは模型店と銘打っている割にプラモデルはあまり扱っておらず、ラジコンの飛行機やヘリが専門でチョロっとRCカー(エンジン仕様)が置いてある位なのだが…
一抹の不安を抱えながら道筋を考える。
模型店に行くメンバーはいつもの如く。
宏樹が率先して行くと言う事でハルちゃんも同行。
二人だけでは不安なので俺たちも同行。
美智子さんとキヨシはお留守番。
お留守番と言っても近くの避難場所(小学校)の偵察を頼んだ。
「二人だけじゃ危険じゃないか?」との質問にも、危険が無いように考えて行動するから大丈夫との事。
二人を信頼していないわけでは無いが、心許せる仲間を失うのは避けなければいけない。
くれぐれも用心してくれと伝えた。
「ありがとうございます」と答える美智子さんと、なぜか泣きそうになっているキヨシ。
あまり深く考えないようにしよう。
俺を含む模型店突撃部隊のプランを話す。
そうすると模型店まで到着するのに2週間必要な事が分かった。
理由は、道中の学校(避難所)の偵察兼確認。
道中の点在するスーパーでの物資の調達。
これを安全レベルで行うにはそれ相応の日数が必要となり結果として2週間だった。
車で真っ直ぐ行けば20分圏内なのに何とも無駄なように思える。
しかし今後もここに安全に住む事で周辺の情報は多ければ多い方が良い。
その情報は自分たちで収集したものだから虚偽でもデマでもない。
自衛隊や自治体がこの近所だけ避難させたとは到底思えない。
恐らく国全体で強制避難が行なわれたはずだから、家屋に逃げ込んでいる人はそうそう居ないだろう。
かといって全く居ないとも思えない。
その証拠に俺たちがいい例だろう。
他にもまゆゆ達の様に避難場所自体が消滅した可能性だってある。
避難誘導から取り残された人だっている。
逃げ回ってヒャッハーと大声をあげてる輩もいる。
でも、道中の家屋にも物資は多少なりともあるはず。
そこには運よく生きてるペットがまだ居る可能性もある。
そんな不運なペットを開放するのも俺達の仕事なのだ(思い込み)
未踏の家屋に入るにも相当の注意が必要な事は海外ドラマや映画を見ている人ならお分かりだろう。
突然後ろから襲い掛かってくる…
物陰から突然襲い掛かってくる…
…何て事はリアルにはあまり起こらない。
なぜならば、ドアを開ける場合、ノックすれば室内のゾンビは何らか反応する。
家屋に入る時もノックは欠かさない。
大抵、民家に残ってるゾンビは怪我を負った元住民が殆んどで、元気なゾンビにはそうそうめぐり合わない。
それに生きてる人も居るかも知れないでしょ。
ノックは挨拶の基本です。
そんな訳で、一番注意が必要なのはゾンビより生存者。
民家に押し入っている俺達の方が完全に悪者だからね。
生存者に文句を言われても、殺されても文句は言えませんよ。
実際は先手必勝いや、先手必殺な訳だけど。
無理に生存者と交流を持つ必要もないし、ましてや一緒に行動する事も無い。
と言う訳で、民家に入って『ごめんね☆』って言っても許してくれないなら…
流石の俺でもそこから先の言葉は口には言えない。
基本、日の出ている時間帯に行動し、日が沈むまでには家に帰ってくるようにする。
これを徹底する。
避難場所に避難民が居るなら居るだけを確認。
居なかったら調達できそうなものがあれば拝借する。
これが俺達の2週間のスケジュール。
その間に、美智子さんとキヨシは駐屯地方面に向けて歩を進めてもらう。
直線上には、中学生3人組が避難していた中学校と、壊滅に追い込んだ小学校がある事を伝えて、遠回りであるが安全を最優先に調査をしてもらう。
あの騒動から日数は経過したがゾンビが全くいなくなってるとは到底思えないし、居なくなる要素も無い。
駐屯地まで2週間以内に辿り着けるとは到底思えないが、周辺地域の調査をお願いする。
美智子さんとキヨシに念を押す。
「生存者に見つかって敵対したら躊躇わず撃つんだぞ!」
「見つかっていないなら慌てず冷静に逃げろよ!」
どうやら俺だけでなく、宏樹も心配しているようだ。
うん、微笑ましいね。
「美智子さん、何かあっても生き延びてくださいね」
「キヨシの事を気にして逃げ遅れないようにね!」
「美智子さんだけでも帰ってくるようにね!」
まゆゆ、ユウコりん、ノンたんのキヨシの扱いが酷い。
ノンたんはキヨシが珍走団の一味と言う事を知っているから余計だ。
「だ、大丈夫っス! 自分が全力で美智子さんを守るっス!」
キヨシは美智子さんに顔を向けると美智子さんも微笑み返す。
再びキヨシはこちらに顔を向けると
「それに、帰って来たら皆さんに報告する事があるッス!!」
何というか、その仕草だけで何を言いたいのか分かってしまうほどに分かりやすいのだが。
俺「……………」
宏樹「……………」
ユウコりん「……………」
まゆゆ「……………」
ハルちゃん「はぁ…」
ノンたん「ぁ……………」
美智子さん「―――――ッッ///」
みんなの様子にキヨシはキョトンとする。
「あ、あれ? みんなどうしたッスか?」
キヨシは誰からも返答が無い事にキョロキョロし出す。
どうやらこの世の理を理解していないようだ。
「宏樹教授こ、これは…」
宏樹はテーブルに両ひざを置き口の前で手を組む。
「ああ、始まるな…」
ユウコりんが空気を読み真剣な表情で宏樹に問いかける。
「こ、この呪縛を解除するにはどの位の時間が必要でしょうか?」
「そうだな…私の見立てでは、最初に区切った2週間は必要と思われるが…」
宏樹の回答に真剣な眼差しををまゆゆに向ける。
「そ、そうですか、麻由先生はその事に関してどうお考えでしょう?」
突然のユウコりんの問いにまゆゆはアタフタとする。
「わ、私も概ね宏樹さ、教授の仰ったことに賛成です」
まゆゆもこの空気に慣れたのか、頬が緩んだ表情をキュッと改めてユウコりんに問う。
「裕子先生はどうですか?」
振られたユウコりんは眉間に輪を寄せ宏樹の横で腕を組み仁王立ちをする。
「そうですね。非常に難しい問題です。私は安全マージンを設け宏樹教授と麻由先生の提示した2週間からさらに2、3日、場合によって1週間は様子を見たいですね」
「なるほど、晴美助教授はどうお考えですか?」
「私は美智子さんに被害が及ばないのであればどうでも良いのですが…これはどう見ても美智子さんにも降りかかる呪縛と思われます」
ユウコりんと反対側に位置するハルちゃんは同じように腕を組み仁王立ちし回答する。
俺もその回答に話をノンたんに振る。
「そ、そうですね、それは忌々しき問題です。それでは最後の有識者である希先生はどう思いますか?」
俺のフリにノンたんは"え?!"みたいな顔をするがキヨシと美智子さんを除く一同が一斉にノンたんの方へ顔を向けると
「私も晴美せん…晴美先生と同意見です。このフラ…呪縛の有効範囲が美智子さんを巻き込むだけなのか、それとも我々も含まれるのかが一番の争点です」
ノンたんの言葉に一同納得したように首を一つ縦に振る。
「なるほど、確かに今回の呪縛について有識者の皆さんを要約すると、事態収束まで長くて3週間、影響範囲は我々を含む全員と言う事ですね」
みんなが首を1回縦に振る。
「それでは改めまして、最も影響範囲の中心に近しく、当事者でもある美智子さんにお伺いしましょう。美智子さん今回の件について率直なご意見をお伺いさせて頂きます。」
「はぁ、はい。 …何でしょうか」
「単刀直入にお伺いします。キヨシと付き合ってますね?」
俺はビシッと人差し指を美智子さんに向け、キリッとした目でキヨシと美智子さんを見る。
「…ええ。」
一同「おお~!」
美智子さんはハニカミながら赤面、キヨシは口をパクパク。
「そうですか、今回の事でその事について深くは問質したり、ましてや異議を申し立てる事もありません。 …しかし、今回の呪縛について率直にご回答を頂けた事に安堵しております」
俺は腕を組み美智子さんを見る。
「はあ」
美智子さんも疲れたように返答するが、趣旨を外さない所に好感が持たれる。
俺の視線を感じ若干引き気味で美智子さんが小さく首を振る。
「しかし、それで解けるほど簡単な呪縛でもないと認識しておる次第です。ですので忌人であるキヨシと美智子さんは3週間程、3階で寝泊まりして下さい。」
「え? …はあ、分かりました」
「忌人キヨシも良いですね?」
俺は腕を組んだままキリッとキヨシに視線を送る。
「ちょ、何っスか? どうしたんっスか? 美智子さんも何でそんな簡単に答えてるッスか?!」
俺たちの視線でビクリと肩を跳ねるキヨシだったが、訳が分からんと言った感じで美智子さんに質問をする。
「どうやら、忌人キヨシはまだ事の重大さを理解していないようなので、宏樹教授から御鞭撻をお願い致します」
宏樹も俺の言葉を受けて、目を閉じ、少しの間を置く。
「うむ、…然らば私から…忌人キヨシよ『死亡フラグ』を知っておるか?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
3週間食っちゃ寝の生活が確定した。
と言うのは嘘です。
3週間で近所の未開拓なブロックの家屋に物資調達する事となる。
人数が増えた事による食料の確保や、我が家からキヨシ美智子夫婦(仮)の家屋へ橋を渡し、ついでに我が家の住居ブロックへフェンスを設ける。
フェンスと言っても大規模な開発はできない。
表立った所にフェンスとかバリケードを設けると、一目でそこに生存者が居るとバレてしまうので、出来る事と言ったら裏手である庭の方に簡易フェンスを作るくらいだ。
この住居ブロックには初期段階から侵入すると我が家のリビングで防犯用ランプが点灯するようにしてあるのだが、隣の水耕家屋とキヨシ美智子夫婦(仮)にも設置をするようにする。
3週間と言う猶予があるのでこの時に出来る事はやってしまおうと相成った。
全く、キヨシめ!
余計なフラグを立てるもんだから模型屋に行くのが先延ばしになった!
と文句を言いながら室内用ラジコンヘリで遊ぶ、いや、訓練する宏樹が愚痴っていた。
誤字脱字や矛盾等がありましたらご報告お願いします。
あと、こう言う風にしたら良いとかこんな展開も希望等ご意見ご感想もお待ちしております。
評価など頂けたら嬉しい限りです。