第58話:モテキ到来
さてさて、毎度おなじみ作者願望のお時間です。
あ、帰らないで下さい。
では続きをどうぞ
「お疲れ様です!」
小走りで駆け寄ってきたのは元珍走屋のキヨシだ。
先輩後輩の仲でもないのに律儀に腰を折る。
まぁ、年功序列で言ったら俺たちの方が全然年上で17歳の少年にしたらおっさんな訳だが。
「そう堅苦しくなるなよ」
そう言いながらキヨシの肩を軽く叩く。
そうすると「押忍」と言いながら再び腰を折る。
どうしたこの子は? 何か変なモノでも食ったのか?
それとも変な薬でも始めたのか?
硬派の応援団って訳でも無いだろう?
俺は引きつった苦笑いを浮かべながら怪訝な眼差しでキヨシを見る。
キヨシの目は俺と後ろの宏樹を交互に見た後、再び深く腰を折る。
「自分、武志さんと宏樹さんに出会い、ここの人たちに出会い生まれ変わったッス!」
うん、良く分からん。
後ろからは最長老(美智子さん)がお礼を言ってくる。
別に最長老って言うほどお年を召した方ではないのだけれど、このグループの中では最年長。
「この度は、大変危険なところをお助け頂きありがとうございました」
美智子さんもキヨシ同様に深々と腰を折り丁寧に俺を述べてくる。
「ああ、そんな堅苦しくならなくても良いですよ。助けられるときに助けただけですから」
「それでもありがとうございます。」と再び腰を深く折る。
「そういえば、此処から移動する場所を探しているとか? どこか目処の立つような場所はありましたか?」
そう言われて深く目を瞑り左右に首を振る最長老。
「ゾンビが蔓延し移動距離もそれほど稼げない為、どうしても近距離での場所を探す羽目になってしまい…」
疲れ切った苦笑いを浮かべる最長老42歳。
俺達の一回りも上なのだが、結構な若作りである。
若作りと言うと語弊があるかもしれないので、敢えて言っておこう。
結構な美人さんである。
美人さんで童顔なのだから、20年前はさぞかしモテたであろう。
いや、こんな状況でなければ、間違いなく現役でモテていただろう。
場合によっては美容系の通販のCMに出てても驚かない。
若い時はブイブイ言わせてたんじゃないの?
って言葉が現在進行形でも間違いではない程に美魔女なのだ。
肌のきめ細かさ、顔の小じわ、明らかに20代でもまかり通る程に、若さが定着している。
俺が思うに、美智子さんの家系はどこかの星の戦闘民族なんだと思う。
本気で。
そんな美智子さんが俯き加減で苦言を呈する。
「どうしても遠征して新天地を目指すのは無理があるんです」
確かに、いつ何処に居るか想像もできないゾンビの大群に囲まれてしまったら、それは死の宣告だ。
俺たちでさえそんな大群に出くわしたらどうしたらいいものか…
広範囲に攻撃できる武器って言ったらチェーンガンやガトリング砲に代表される機関銃の類だが、生憎と日本にそんな簡単に置いては居ない。
ましてや手榴弾なんて代物もそう簡単に手に入らない。
アサルトライフルなどの自動小銃では大量なゾンビの頭をピンポイントで打ち抜く事は不可能だ。
フルオートではどうしても弾道が上に逸れてしまい高速で弾は撒けるが大量に殲滅はできない。
こうなってしまうと空から救護されるか喰われる他ない。
そんなこんなで俺と宏樹も協力者として色々考えていたのだが、妙案は思い浮かばなかった。
そんな中、ノンたんがまゆゆに耳打ちをして頷いたり、難しい顔をしたり、驚いたりと一人百面相をしている。
いや、実際には百面相なんてして無い訳だがそこはツッコんだら負けだぞ。
そんなまゆゆの百面相をホッコリと堪能した所でまゆゆと目が合う。
目の合ったまゆゆは少し思案顔を浮かべた後、意を表して「少しいいですか?」と俺と宏樹を手招きする。
まゆゆは「ほんの少しの間、失礼します」と最長老の美智子さんへお辞儀をすると、俺の手を引き別室へ移る。
そこには俺、宏樹、まゆゆはもちろん、ユウコりんにハルちゃんとノンたんまで入って来る。
みんなが入室してノンたんが扉を閉めるが、一向に思案顔のまゆゆ。
その表情は難しい表情と言うよりも、何と言って切り出して良いのか分からない顔だ。
それを察したのか、ノンたんも申し訳ないような泣き出しそうな顔になっている。
俺と宏樹は頭に『?』が見え隠れしている。
ここで変に冗談を言えばユウコりんの般若が目を覚ましそうで、言うに言えない雰囲気。
流石にユウコりんも痺れを切らしたのか、それとも、これ以上まゆゆに訳が分からないプレッシャーを与え続けるのが忍びないからなのか、ユウコりんがまゆゆの手を握ると口を開く。
「麻由先輩?」
そのユウコりんの泣く赤子をも黙らせるような優しい声を聴くと、まゆゆも意を決したのか力強く首を縦に振る。
「武志さん、宏樹さん、晴美ちゃん、裕子ちゃん…」
そこでまゆゆ声が止まってしまうが、それも束の間、意を決して申し訳なさそうに
「ここの人たち…私たちの住んでる近くに住まわせてあげる事は…出来ませんか?」
俺は今まで、自分の身は自分で守れと言う信条を掲げていた。
その為にはある時は冷酷に、ある時は非難されるような事もしてきた。
自分にも自覚はあるしその為の準備もしてきた。
その信条をまゆゆとユウコりんとハルちゃんにも課せ、それによってハルちゃんを捨てる決断もしてきた。
そして、もう一つ。
俺と宏樹は群れる事を良しとしない事もまゆゆは理解している。
群れる事により意見の対立が生まれ、派閥が生まれ、結果的に生きる岐路を絶つ行為につながる。
平和な世の中で国が、政府が、行政が動いていた時代なら、そんな考えを持つ異端の存在を知る由も無かったであろう。
いや、知っていたとしても相手にしなかったであろう。
現に中学生活の中で仲間外れや団体で行動する事が苦手な生徒もいたが、余程、正義感に囚われている人でなければ気にも留めなかったと言うのが本音だろうし、常識だ。
寧ろ子供の世界は大人の世界よりもダイレクトなのだ。
気に入らなければ皆で無視もするし、みんなで直接、間接を含み危害を加えるのだ。
それは正常な時代だった時の話。
今は頭部を破壊しなくては殺せない人食いが溢れている破滅した世界だ。
こんな世界に団体で行動していたら、それだけで足枷が出来る事も理解はしている。
それ以前に、彼女たちは俺の元同級生(現在ゾンビの腹の中)に犯された経緯もある。
そんな女性たちが男の近くに住むと言うのは如何なものだろう。
現にノンたん以外を置いて家に帰ったのも、そんな考えがあっての事だし。
俺と宏樹の行動理念を理解しているまゆゆだから、俺と宏樹にこの提案をするのを躊躇ったのだろう。
その発案者のノンたんもその事を理解しているから、今にも泣きそうな顔をして俯いている。
それは俺たちが否定すれば、発案者のノンたんと否定せず意見具申してきたまゆゆが捨てられると思っているんだろう。
俺は宏樹に目を向けると、まるでエスコートするように掌を差出し『お好きなように』とジェスチャーする。
俺は宏樹の表情を見て『ズルい』と思いながら、両肩を気持ち上げると「ふ~」と軽く息を吐きまゆゆに向き直る。
俺と目が合うとまゆゆは今にも泣き出しそうな表情へと変わって行く。
ノンたんに至っては床に数滴の滴が落ちた跡がある。
それを見て再び「は~っ…」と息を吐き後頭部を掻くと
「まぁ…仕方ないか…」と声を発する。
その声に「え?」って表情をするまゆゆ。
俺はそんなまゆゆの頭に手を乗せ、軽くクシャクシャと撫でる。
少し呆けた表情のまゆゆは、今の状況を理解したのか「ありがとうございます!」と言いながら俺の胸に顔を埋めてきた。
極度の緊張から解放されたからなのか、俺の胸にまゆゆの涙が染み込んできた。
何故かユウコりんも俺のわき腹にパチキ…じゃなく顔を埋めて来た。
ノンたんも「ありがとうございます」とクシャクシャな顔で言って来たから、まゆゆにしたみたいに頭に手を置いてクシャクシャしてやった。
何故かユウコりんも「私にも!(さっさと撫でんかい!)」と鬼が憑依したような声で催促してきた。
おいユウコりん。
さっきまゆゆにかけた優しい声色はどうした? と思わずツッコみたかったが、更なる恐怖が未来視出来たので黙ってユウコりんの頭も撫でておいた。
当然、髪型を崩すような撫で方では無く、髪を整える手櫛で梳き流す。
その俺の手櫛で目を細め満足そうにするユウコりんにまゆゆも大きな反論ではないがただ一言「ズルい」と小さく嘆く。
但し、顔は満面の笑顔だったので本心からの文句ではないようだ。
そしてノンたんも誰にも聞こえない程小さく「いいな~」と言葉を飲み込んだ。
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