第51話:一人増えました
今回はほのぼの回、って言うか基本グウたらした物語です。
一部、未成年飲酒の表現がありますが良い子はマネしないでね。
それでは続きをどうぞ
俺達は粗方着替えなどの物資を手に入れると
「数日後にまた来ます」
と生存者の女性達に声をかけ一路帰宅の途に就く。
映画の中では定番のヒャッハ―軍団のせいで平和な環境が一転、全滅に追い込まれていたが、リアルではこちらの被害も無く洋服などの物資を手に入れてご機嫌だった。
中でもユウコりんは輪をかけてご機嫌だった。
「「………」」
ワンボックスカーの助手席にまゆゆ、後部座席に宏樹とハルちゃん、最後部座席にユウコりんと…だれ?
いや、誰かは分かってる。
生存者の女性陣の最年少でユウコりんと同い年の女の子。
ユウコりんがM4を手渡していた女の子が乗り込んでいた。
まゆゆ、ユウコりん、ハルちゃんは同意していた様で、俺と宏樹も無言の圧力と言うのか、普通に乗り込んでくる彼女と誘導する三人に何も言えず家路についている。
俺はチラチラとバックミラーを確認していると、まゆゆが小声+上目使いで「…ダメだった?」と問いかけてくる。
そんな天使の眼差しで断れる男は居ないだろ!
居たとしたらそれは邪教徒位なものだが、まゆゆの眼差しは邪教徒でさえ浄化すると思うからやっぱり抗えないと思うぞ。うん。
「いやダメじゃないよ? でも、備蓄とか大丈夫かな? どこかで仕入れた方が良いんじゃない?」
と、ケチクサイ事を言うと「実はね」と前置きをしてまゆゆが説明してくる。
「希ちゃんがこっちに来る替わりに、食材もイッパイ貰ったんだよ」
あら、女性陣に食料は持って行かないって言ってたのに。
「へ? 野菜とかも?」
「うん」
「そっか。でも、彼女…希ちゃん? は俺たちの考えに賛同してるの?」
俺は意見の食い違いを結構恐れている。
重要な場面で最終的に多数決で決めたら少数の意見を握りつぶす事になる。
大多数の意見が正しかったら良いが、少数意見が正しい場合は? それが何度か起こったら?
派閥はできるし、良い事なんか何もない。
そう言う事も含めて俺は団体行動が嫌いなんだ。
「うん、大丈夫だよ。逆に生き残る為の術を教えてくださいって頼まれちゃった」
同い年や年の近い女の子が一緒と言う事で、俺達に付いて来たくなったのかな?
まあ何にせよ、自立する事はいいことだ。
「そっか、彼女も自分で生きる道を歩けるんだね」
まゆゆは眩い笑顔を俺に向けてながら運転席側に身を乗り出し俺に耳打ちしてくる。
「あとね…希ちゃん、暴走族に乱暴されてないみたい」
「え!」と驚いてまゆゆを見つめる。
「お父さんが咄嗟に隠してくれたんだって、結局はお父さんも殺されちゃったし、希ちゃんも見つかっちゃったけど、ギリギリで助かったんだよ」
そうか、そりゃ良かった。
家の中でも変な気を使わなくて済む。
宏樹が煙を見つけてから奇襲をかけた時まで思えばそんなに時間も掛かってなかったものな。
こんな色々な事があっても1日仕事だし。
俺と宏樹に強姦された女の子を慰め癒す特殊能力も知識も無いからな。
それでも怖い思いをした事には変わりがないんだろうし、今後は先輩であり同性のまゆゆやハルちゃん、そして同い年のユウコりんが何とかしてくれると思う。
「良かったね。でも怖い思いしたのは間違いないんだからまゆゆ達が力になってあげるんだよ?」
俺はまゆゆの頭を撫でながらそう言う。
「うん! ありがと!」
と言いながら俺の頬に『チュッ』としてくる。
それを見たユウコりんが「あ~~! 麻由先輩ずるいです~!」と、人差し指で俺を指しながら頬を膨らませている。
ユウコりんは後ろの席で隣に希ちゃんが居るから前に行くに行けない状況。
宏樹もユウコりんの言葉に便乗して
「おいおい、そう言う事は家に帰ってから誰も居ない所でやってくれよ」
と言いまゆゆとユウコりんをからかってる。
が、それに負けるユウコりんでは無い。
「家でも誰も居なくてもダメです!」
ユウコりんは宏樹の言葉に反撃する。
「そ、そうだな。誰も居ない所じゃダメだ。せめてユウコりんと一緒じゃないとな?」
せめてもの反撃のつもりだった宏樹の口撃は、ユウコりんの同意を以て撃沈となる。
「そうです! 良く分かってるじゃないですか宏樹さん!」
「お、おう」
何というか、冷やかし半分で言った宏樹の言葉がユウコりんにしたら正解だったようで、それ以上宏樹も何も言えなくなる。
そんな感じで車内で騒ぎながらの道中、特にゾンビの大集団にも生存者にも遭遇せず無事に我が家へ辿り着く。
思えば今日は元同級生に会ったり元同級生退治したり、生存者を助けたり、物資を補給したりと中々にへヴィーな一日だった。
でも、今思えばクズどもをすんなり殺すより、生かして生存者に引き渡す方が見ものだったかな? なんて悪趣味な事を考えてみたりして。
俺と宏樹がソファーに項垂れ、ビールを飲もうとすると、鬼教官のユウコりんに制止された。
「今日使った銃は今日の内にメンテナンス!!」
俺と宏樹は即座に立ち上がり鬼教官に「ser Yes, Ma'am!」と言いながらビッと敬礼をする。
それを見たノンたんは「裕子ちゃんは…軍人さんなの?」と真顔で言われて苦笑いをした後、俺達の方へ鬼の形相で睨んでくる。
「ユウコりんはミリオタでアニオタで鬼軍曹です」
と俺が笑顔で言うと「ちが~う!」と言いながら首を絞めてくる。
うん。これは苦しめるとか冗談とかじゃなく、完全に脳に血液を送らないように動脈を絞めるタイプだ。
本当にこの子はどこかの特殊部隊に在籍していたんじゃない…の……か………―――
「軍曹殿! 武志が三途の川を渡ってるであります!」
「お前も言うか~」と今度は宏樹に襲い掛かる。
が、すかさずハルちゃんが宏樹を抱き締め守る。
少し引いてるノンたん。俺の事も誰か守って……(涙)
そう、言い忘れていたが彼女はこれから『ノンたん』と呼称する。
俺が敬愛してやまないスクールアイドルの名前と同じだからノンたんになった訳じゃないぞ!
人類が日本列島に辿り着き日本に農耕文化が始まる頃から『希』と言う名前のあだ名は『ノンたん』なのだ! そうなのだ! そうに決まっているのだ! それでいいのだ!
インチキ臭い関西弁で痩せてるくせにボインだったら満点なんだけど、その辺は将来に思いを馳せよう。まさに『希』である。
「希ちゃん、野菜作ってる隣の家に行こ? 水耕栽培を教えてあげる」
笑顔でまゆゆはノンたんを手招きしている。
「はい!」とまゆゆに元気な返事を返すと二人で隣の家に行く。
俺は無意識のうちに二人の姿を目で追い、アケロンと言う名の川に半分浸かった片足を引き抜くと何とか現実の世界に帰ってきた。
俺は意識が朦朧としながらも…宏樹も黙々と銃のメンテナンスをしている。
ユウコりんはニコニコと手早くメンテナンスに勤しんでいる。
思えば俺達も銃のメンテナンスは早くなったな~。
それでもユウコりんの速さには到底及ばないが。
「そういえばユウコりん。弾の在庫とか知ってる?」
「ん? 知ってますよ?」
当たり前でしょ? と言わんばかりの顔だ。
「今日も結構撃ったでしょ? 残り大丈夫?」
ユウコりんは考える間もなく
「MINIMIは弾帯が1本しかないしリンクも無いし今後使うのは控えます。あれはどちらかと言えば拠点防御用にした方が良いでしょ。でも9mmパラは1万はあるしバレット用の12.7mmも500はあったかな。5.56も7.62もまだ全然余裕」
とサラリと答える。
うん、一市民が持つ量ではないね。
そうこうしていると、まゆゆとノンたんもリビングに帰ってくる。
「凄いですね! 野菜って土が無くても育つなんて!」
「あと数ヶ月したら野菜不足の心配も多少はなくなるね」
と楽しそうに話している。
「成長は遅いけど、その分凄く楽しみです!」
とノンたんが笑顔でユウコりんのメンテナンス作業を見ると興味深げに目が釘つけになってる。
その様子にユウコりんが「希ちゃんもやってみる?」と問いかけるとノンたんはM4を手に取る。
あのM4は今日ユウコりんがノンたんにあげた物だ。
熱心に優しくノンたんにメンテナンス方法を教えている。
まゆゆも微笑ましそうにその様子を見ながら腰のホルスターからベレッタを抜き取ると分解してゆく。
皆も何気に銃器の取り扱いに慣れてきてる。
撃たない時は絶対トリガーに指を置かないし、メンテナンス中だろうと銃口は絶対人には向けない。
それに、扱う姿が様になってると言うのかな。
―――これも軍曹の教え通りだと思ったのだが、どうやら俺と宏樹が相手以外は軍曹では無かった。
俺と宏樹は一通りメンテナンスが終了し動作確認をすると空になったマガジンに弾を装填し宏樹特製壁掛けに銃を置く。
さすがにノンたんもこの壁を見たときは真顔で「凄っ」と言っていた。
誇らしげなユウコりんが「後でもっとスゴイの見せてあげる!」と鼻息を荒くしていた。
恐らく地下の自称セーフルーム(今は倉庫兼ユウコりんROOM)で銃の発表会をするのだろう。
俺と宏樹はビールを飲み一段落つく。
宏樹の横でハルちゃんも普通にビールを飲んでる事から、彼女もドランカーへ至る茨の道へ進む事にしたのだろう。
「私たちはフォレストタウンでシャワーを浴びましたけど、武志さんはお風呂に入りますか?」
とまゆゆが訊ねてきた。
酒も入ってほろ酔い状態だった為
「大丈夫、俺もシャワーで良いよ。ありがとう」と返すと、横にすり寄って「私も入ろうかな?」と上目使いで言ってくる。
30歳のおっさんはアタフタと挙動不審になり、そそくさと風呂へ逃げ込む為に階段を下りる。
一緒に入ったら、そりゃ我慢なんて出来る訳ないでしょ!
まゆゆは「もう!」と言いながら頬を膨らませている。
一緒に入ったら死ぬほど恥ずかしいくせに、俺が一緒に入らないのを分かって言ってるんだな?
全く本当に可愛いな~と思いながら、風呂場に入ろうとしたところで、地下の方から
「うわ~~! すご~~!」
「でしょ! でしょ!」
と聞こえてくる。
うん、ノンたんもミリオタ確定だね。
「ほら、バレットまだあるから希ちゃんも使ってみる?」
「え~~! こんなの私に撃てるかな~」
「大丈夫だよ! 私だって撃てるんだから! でも、心配ならこれで狙撃の練習をしても良いかもね」
「SR-25か~。私に狙撃の才能あるのかな~?」
「平気平気。武志さんだって狙撃の才能ないし」
「え? そうなの?」
「………」
うん、聞かなかった事にしよう。
うん(涙)
さてシャワーだ。
シャワーだったら涙が出てても分からないもんね。
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