第43話:農家始めます
飲んだら乗るな・乗るなら飲むな。
未成年の飲酒もダメです。
それでは続きをどうぞ
『ラブストーリーは突然に…』
俺は打ち付けた鼻を押えると、脳内にその言葉が浮かび上がる。
「はっ!!」と我に返ったユウコりんはそのまま階段を下りて行った。
呆然としていた俺達も徐々に現実に起きた事を思い出し、まゆゆと顔を合わせると互いに赤面する。
おっさんの赤面なんて何の絵にもならないが、対するまゆゆの赤面はまさに芸術であり至高だ。
俺はまゆゆと目が合うとどちらともなく顔が近づく。
再び軽くキスし、笑顔を交わし下に降りる。
何だろうね、ゾンビが居なかったら起こり得ないラブコメと言うか、ハーレムイベント。
俺は心の中でゾンビに感謝した。
不謹慎だが感謝した。
只々感謝した。
神が目の前に居たらこんな世にした神の脳天に一発かまし、その後に強烈なハグをし感謝したいと思う。
リビングに戻るとユウコりんは昨日の飲み残しを飲んでる。
その様子にまゆゆはオドオドしながらもユウコりんに質問を投げる。
「…裕子ちゃん…酔ってたの?」
まゆゆの質問に口を尖らせる。
「飲んでますけど、酔ってないですよ~」と見た感じ酔っぱらいのユウコりんは、酔っぱらい特有のセリフを言う。
それは宏樹の口癖だ。
俺は知っている。大抵の酔っぱらいは酔っていないと口にする事を。
「…そっか、裕子ちゃんは酔ってたんだね」
とまゆゆは一人納得し安堵の笑みを浮かべるが、ユウコりんの一言でぶち壊される。
「さっきのは私の本心です…」
「え?!」
ユウコりんが俯きながらボソッと言うと、まゆゆは鬼でもなく天使でもない顔で「そっか」とだけ言ってまゆゆの頭を抱き寄せている。
その後のまゆゆとユウコりんの会話は聞いていない。
俺が聴いてはダメな気がしたから。
「んんん…?」と宏樹が起きだし、合わせるかのようにハルちゃんも起きる。
俺は起きた宏樹に「宏樹さん? ここ↓」と下半身を指さす。
「おおぉ!!!」
と宏樹は雄叫びを上げると慌てて3階のトイレに駆け込む。
暫くして着替えが終了した宏樹が降りてくる。
その後は、お漏らし宏樹の話題で大盛り上がりだった。
そして、そのままの流れで『第2回チキチキ酔いどれ焼肉パーティー』が始まる事となった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日早朝。
宴会が始まったのが昼過ぎと言う事もあり、割と早い時間にパーティは終了=就寝した事もあって、みんな日が昇る早朝には起きていた。
それぞれ風呂に入り酒を抜くと、外出用の服に着替える。
その頃にはみんな目が真剣になっていた。
宏樹も現場に向かう時の顔になっている。
外出にも命を懸けないといけない事にみんな自覚しているようだ。
今日は野菜を収穫する為に畑に繰り出そうとしている。
幸いにもこの辺は、自称『都会』と言ってもそれは駅前だけ。
最近では税金対策なのか相続問題なのか、元々畑の場所が新興住宅地と変貌しているが、それでも駅を少し離れると畑がチラホラ散見される。
野菜の収穫なら宏樹の作業用自家用車である軽トラが活躍するのだが、あれは2人乗車、荷台に乗るにも危険だ。
ゾンビが居る世界と言う意味もあるが、宏樹のテンション的にも。
何を隠そう、こいつは一度荷台から人を振り落した事がある。
酒に酔い、荷台に人を乗せて騒いでいたのだが、片輪走行(あわや転倒の危機)で荷台に乗った人を振り落した。
飲酒で運転する宏樹もアホだが、それを煽って荷台に乗り込むバカ者たち。
あ、俺は参加してないよ。
何でも宏樹のバイト仲間の飲み会だそうで…飲み会って分かってるなら車で行くなよと。
全員纏めて小一時間ほど説教してやった覚えがある。
そんな訳で荷台に人が乗るのは禁止。
そこで、いつものワンボックスの出番なわけだが、この車にも燃料と言うモノが必要で、それを調達する為にはガソリンスタンドと言う場所に行かなければならない。
さて、そこで活躍するのが『元ガソリンスタンドアルバイトリーダー』宏樹さんだ。
アルバイトの時に危険物取り扱いの免許を取得し、店長の勧めで社員に昇格した宏樹さん。
塗装業を営みながら深夜にスタンドで仕事をするって、あなたは疲れ知らずですか!?
セルフサービス店舗が拡大すると人件費問題でリストラ、される前に退職し塗装業に専念。
と言う、何ともオモシロ経歴を持つ宏樹さん。
スタンドのセキュリティから操作までお任せなのだ。
まずは車で5分もかからないガソリンスタンドに到着する。
このガソリンスタンドは略奪にあったのか、ガラスが割れまくっており、中の自動販売機も壊されている。
宏樹先生は「ガソリン残ってるかな?」と言いながら、建物の中に入り鍵を持ってくる。
その鍵でガソリンスタンドのキーを開けると何か操作している。
「ガスはありそう?」と聞くと、手でOKを表した。
どうやら略奪者は自販機やオイル、タイヤなどの備品は持って行ったのに肝心のガソリンに関して入手する方法が分からなかった様である。
ガソリンスタンドを無暗に壊し火でも出たら自分たちも死んでしまうと言う事なのか、事務所しか荒らされていなかった。
俺とまゆゆ、ユウコりんはゾンビに備え道路を監視している。
ハルちゃんは宏樹に付き添っている。
あれも守っている事になるのか? そんな所で銃を撃って爆発とかシャレになりませんよ。
程なくすると、宏樹が「キャップロックおっけ~!」と言う。
バッカ! ゾンビに聞こえたらこっちに来るだろが!
と咎めると「ゾンビが居た方が盗まれなくていいでしょ」とあっけらかんと言い放ちやがった。
確かに、ゾンビが居たら生存者は来にくいか。
宏樹はポケットから鍵を出すと
「これで普通の人がガソリンを入れようとしても出てこない。まぁ、機械を壊して手動で入れるなら別だけど、そんな事してたらデカい音にゾンビも集まってくるね」
そう言って爽やかな笑顔を振りまく宏樹はサムズアップする。
「なるほど、今度は携行缶も持って来ようか」
「それには黄色い帽子とかのカー用品店か大型のディスカウントストア行かないとダメだろ」
確かに我が家の携行缶は既に使用中で予備のストックなんて無い。
しかしカー用品店だったら良いが、生存者が居そうな店舗に行くとか、極力避けたい。
はぁドラム缶が欲しいですね。
そう考えていた所で、ユウコりんがナイスアイデアを言ってくれた。
「家の周りの車全部にガソリンを入れたらダメでしょうか?」
「「それだ!」」
俺と宏樹は声をハモらせユウコりんにビシッと人差し指を向けた。
畑に行く最中にもゾンビは居た。
音で分かるのか見えているのか車に向かって体当たりしてくる。
横からだったら何の問題も無いが、正面から来るゾンビに対しては仕留めないといけない。
しかも仕留めた後に車で轢く訳にもいかず道の端に移動させなくてはいけないが、これが何とも…正直やりたくない。
大通りだったら避ければいいけど畑が在るのは生憎と狭い路地だ。
ゾンビ化して約1ヶ月近く経過したゾンビを掴んだ時、肉が『ズルン』剥けて骨がむき出しになると思って、手をビニール袋で包んだのに、掴んだ腕は血の通わない肉を掴んだように柔らかく、冷たいだけだった。
そして、俺は以前考えていた事が確信となった事に少し落胆する。
まゆゆが俺の表情を見て「何かあったんですか?」と聞いてきたので、その落胆した原因を話す。
普通、死体を1ヶ月も放置していたら、筋組織は崩れグズグズになる。
虫などが湧き骨だけになり、最終的にはゾンビも全滅すると思っていたのに、ゾンビを触ったら冷たい肉だった。
それは単に『ゾンビ=腐った死体』ではなく『腐らないもしくは腐りにくい死体』と言う事に他ならない。
新陳代謝していないのだから、何で死体が腐らないのか甚だ疑問である。
ゾンビを撮影した動画を見たとき、ゾンビは力が凄まじく腕を握られた人は骨が折れているような感じだった。
ゾンビは単に人間だった頃に機能していたリミッターが無くなった状態の怪力だったので、その怪力を都度、発揮出来る物ではない。
自身の筋力に負けて骨が折れる事もある。
筋肉の筋や腱が切れて使い物にならなくなる事もある。
痛みの無いゾンビには関係のない事だが、痛みは無くともダメージは着実に溜まっている…はず。
その為、酷使すれば筋組織にダメージが蓄積され力も弱くなるかもしれないと打算する。
尤も、ゾンビに自己治癒があったらこの考えも意味がないけどね。
実際には少しずつ腐敗は進んでいるのかもしれないが、恐らく1年や2年経ってもゾンビの現状は変わらないと推測できる。
俺の考えを聞いて、否定も肯定も出来ず、みんなが唸る。
「まぁ、俺たちは研究者じゃないし、当面は生き残る事だけだ」
確かに宏樹の言う通りだと、みんな納得する。
そんな話をしていたら左側に小さいながらも畑がある。
家庭用の野菜を賄っているだけの家庭菜園規模だが、収穫も終わっていないようで、玉ねぎが栽培されているが残念ながらキャベツは収穫時期が早すぎる。
奥の小さいビニールハウスにはトマトとキュウリが実っている。
うん。サラダにするにはレタスが欲しい所だな…。
その前に、これから先も定期的に野菜を求めるのであれば自分たちで栽培する必要がある。
そして栽培するには土地とゾンビが入り込めないような柵が必要になる。
何よりも種が必要になる訳で…やっぱり大型のディスカウントストアとか菜園を扱う店に行かないとダメだ。
俺達は他にも畑を周ったが、収穫出来る物はどれも同じで玉ねぎメインだ。
ハウスを完備している家庭菜園とか中々ある訳もなく、玉ねぎだけが鞄を膨らませている。
夏になる頃には収穫可能な野菜も増えてくるだろう。
しかし、それを管理するには素人同然の俺達に出来るのか?
少しのトマトとキュウリ、大量の玉ねぎを持って帰宅する。
早速、ネットで家庭菜園や農業のススメを調て水耕栽培なるものを初めて知った。
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