第40話:Sir Yes Sir
もう少し、もう少しだけモチベーションがあるので。。。
それでは続きをどうぞ
俺達は、右往左往しながらも何とか危険な外から少し危険な家へと帰ってきた。
朝とは別人のようにユウコりんが機嫌がいい。
それもそのはず。
中学校で手に入れたときも若干嬉しい悲鳴を上げていたユウコりんだったが、荷物を家に運び込んだ後にリビングから動かなくなってしまった。
いや、厳密には動いている。
本日手中に収めた銃を手入れしているのだが、この銃が普通じゃない。
俺が初めて見た印象は、『対戦車ライフル?』と思った代物。
ユウコりんが中学校で「M107」と叫んだ原因だった。
M107
正式名称はバレットM82
WEBサイトがどんどん潰れていく中で、ウィケッドペディアはまだ稼働しており調べる事が可能だった。
「大型セミオート狙撃銃」と命名されている通り12.7x99mm NATO弾を使用し有効射程2000mと驚異的な性能を持っている。
こんなの…どこで使用するの?
中学校でユウコりんの放った一撃でゾンビが吹き飛び壁に大穴が空いてたんだけど。
これは人間に向かって放たれるものではないと理解した。
俺はニコニコ顔で整備しているユウコりんを見ると、まるで天使でも憑依していると錯覚される程の笑顔を返してきた。
天使の笑顔で整備している武器は"鬼"のような破壊力。
整備している本人は正しく『鬼』な訳だが。
そう思っていると、殺気籠る鬼のような眼差し向けてきたので、本能的にさっと顔を逸らし残っている荷物を運びこむ。
車に積んでいた時も思ったが何だこの箱、異様に重いのだが?
宏樹と俺とで箱の端を持っているんだが重い事、重い事。
家の玄関に入れ込み箱を開けてみる。
うわ…弾だよ…これ全部弾か…。
9mm、5.56mm、7.62mm、12.7mm、道理で重いはずだ。
一体どれほどの弾が補給できたのか見当もつかない。
ん? 7.62mm? 使える銃は俺たち持っていないぞ? まだ車の中にある箱の中に適合する銃が入っているのか?
とにかく車に積んだ箱を全て降ろさないと自宅近辺は安全と思いつつも、いつゾンビが来るか分かったものではない。
油断大敵なのだ。
俺はユウコりんを呼ぶと彼女はすっ飛んできた。
ユウコりんを迅速に呼ぶ方法。
それは"弾が来ましたよ"と言えば良いのだ。
「うわ…うわ!」
ユウコりんの目が一層輝きを放ち、天使の目を通り過ぎ神の目の様な目になっている、ゴッドアイだ。
無論『破壊神』な訳だが。
「必要最低限の弾だけ上に持って行って、残りは片づけるから」
「はい」と返事はするが後半はどうやら聞こえていない様子。
持てるだけの弾を持ってリビングに上がってゆく。
ユウコりんには皆の銃の整備をしてもらう事をお願いしている。
その代り、俺たちは荷物を運び入れたりしている訳だ。
今日の夜はユウコりんに銃の整備方法を教わらなくてはいけないな。
その事をユウコりんに言うと、目をキラキラさせて頷いている。
「任せて! バッチリみっちり教えてあげるから」
そう言いながらスキップ気味で階段を上がって行く。
階段でスキップと言う荒業からしてもこの子が普通でない事を思い出し宏樹にそれとなく言っておく。
「そう言えば、ユウコりんの教えは軍曹だからな」
「ん?」
「その内"上のケツの穴から発していいのはサーだけだ!"とか言い出すかもよ」
そんな俺の言葉を聞いて失笑気味に笑う宏樹であったが、俺の言った事をこの後目の当りにする事となる。が、それはまた後程。
再び重い箱を宏樹と二人で玄関に降ろす。
ミサイルが出てきたらユウコりんはどうなるんだろう?
そもそも避難場所にミサイルなんて配備しない…とは思うが、この装備を見てると"無い"とは言い切れない。
そもそも避難場所にM107が置いてある事自体怖い。
自衛隊か米軍は何と戦おうとしていたのやら。
宏樹と手分けして車から荷を下ろすと、そのまま、家の路地を塞ぐように十字路で車を停車させる。
当然、反対側のT字路にも車を止めている。
歩いて家の前の道路に侵入する事は、ゾンビの知能では出来ないはずだ。
自然と路地を逸れ別の道路に歩いて行くことになるだろう。
逆にこの道を来れると言う事は生存者を意味している。
隣接する民家にも簡単に通れない様、一応は工夫はしている。
念の為に防犯用センサーの範囲を家の外壁から、近隣の外壁に変更してある。
これによりゾンビと生存者の両方を監視する事が出来る。
防犯用センサーのコードは工具屋さんが無いので各家庭の屋内配線を拝借した。
ついでに防犯センサーと連動する防犯カメラも設置済み。
まるで俺の家はある団体組織の親分の御屋敷並みに無人警備が整い始めている。
全ての荷物を車から降ろし終え玄関を閉める。
と同時に防犯用センサーを『ON』にした。
降ろした荷物をセーフルーム(自称シェルター)に運び込む。
武器弾薬がついに備蓄を越えた気がする。
セーフルームに置かれた箱を眺める。
何だこの家は、戦争でも始める気なのか!?
俺は箱を開けて中身を確認する。
M4A1が収められている箱。
92Fが収められている箱。
M107が収められている箱。
そして、SR-25が収められている箱。
また新しい銃が出てきたぞ…これ狙撃銃だな。
7.62mmを使用する狙撃銃だ。
ユウコりんはM107で大喜びだから俺たちはこっちを使うか。
この…何ていうんだ? この武器は? SR-25? うん、全く知らん。
ユウコりんに訊いてみよう。
コッチ系で分からない事はユウコりんに訊けば答えてくれるはず。
確信は無いが間違いではないはず。
メカボックスの外装はM4とかM16みたいなんだけど…って、電動ガンじゃないんだからメカボックスとか言わないか。
その前に、この銃たちは自衛隊で扱っていないはずと言う事は、アメリカ軍も居たのか?
その辺も含めて聞いてみようか。
早速SR-25と7.62mm弾を持ってユウコりんの所へ行く。
うわ…M107がバラバラになってる。
と思ったらメンテナンス用に最低限の分解だった。
デカいのに、結構簡単にばらけるのね。
ユウコりん、ちょっといい? と前置きし
「これについて聞きたいんだけど…」
ユウコりんはチラリとSR-25を見て「ググれカス」と言われた。
うん、今はM107がユウコりんの優先順位なのね…何か、最近、俺の扱いが酷くないか?
宏樹も同じ質問をしたが俺と同じ回答で一安心。
一安心したのでその辺はスルーしよう。
変に何か言ってまた銃を突きつけられても面倒だ。
どれどれ『SR-25 ライフル』ポチっと…ほうほう…これ、サプレッサーも付いてるのか!? 屋上で撃てるんじゃないか?
弾だってどれ位あるのか分からない程にある。ユウコりんにバカにされないように練習だな。
後で宏樹にも教えてやろう。
「お疲れ様です。もうすぐ料理も出来ますから、待ってってくださいネ」
うん、俺にはまゆゆだけだよ。
まゆゆだけがこの腐敗した世界の真の天使に見える。
なんで我が家には天使と鬼が同居しているのか…
今度布団に入って来たら『頭ナデナデ』してやろう。
そう思い感慨に浸っていると宏樹に声を掛けられる。
「おい~何してるんだよ~」
と宏樹が上がってくる。
そうだった、まだ箱の中身を確認中だった。
「すまんすまん」と下に降りる。
宏樹に文句言われたが、SR-25にサプレッサーが付いてるのを教えると、宏樹の顔が笑顔になる。
「屋上で射撃大会だな!」と言ってきた。
うん、考える事は同じだな。
ふっ負けないぜ?
本日のお食事は野菜炒めなのだが、食事中にまゆゆから報告があった。
「野菜が少なくなってます」との事だ。
幸いにも、大型冷凍庫に肉や魚類はたんまりと備蓄されているが、野菜だけはどうにも保存がきかない。
スーパーに行くにも、スーパーの野菜だってダメになってるだろ?
今日の野菜炒めで使用したキャベツも2週間前に購入したものだ。
さすがに液状化したら喰う気にはなれないが、しんなりした状態でも俺は食うつもりでいた。
冷凍すれば保存が効くとまゆゆに言われ、目から鱗が出た。
俺が今まで生活する上で、野菜を冷凍保存した事が無かったからだ。
大体、購入後1週間以内に消費できるような献立にしていた。
宏樹に至っては、料理と言うより酒の肴(一品料理)オンリーだ。
保存が効くとなれば、早速手に入れたいが…それは明日の食事の時に決めよう。
とりあえず、今日は銃のメンテ方法の勉強だ。
ここからはユウコりんの独壇場。
「最終的には、ベレッタ位は目を瞑ってでも組み立てられるようになれ!」
とか
「私が最初に見せるから真似するように! まずはマガジンを抜く。スライドさせながらスライドストッパーで止める。ここを押しながらテイクダウンストッパーを押し下げてスライドカバーを抜く、はいソコ、バネを飛ばさないように! バレルを抜いて中を掃除する。ここに弾のカスが詰まったら暴発するから念入りに!」
とか
「よし! 今度は分解した逆の手順で組み立て! 組立くらいは10秒いや3秒で出来るようになれ!」
とか
「次にP220は…」
「M4は…」
「89式だと…」
この1時間後、ユウコりんは俺達からサ-ジェントと呼ばれるようになった。
そして整備の面倒臭さも手伝い無暗やたらと屋上で遊ぶ事(射撃大会)を控えるようになった。
誤字脱字や矛盾等がありましたらご報告お願いします。
あと、こう言う風にしたら良いとかこんな展開も希望等ご意見ご感想もお待ちしております。
評価など頂けたら嬉しい限りです。