第36話:出来心? 淫行? 身に覚えがありません。
今回も何気に長いです。
それでは続きをどうぞ
みんな風呂から出てリビングで寛いでいる。
風呂から上がったまゆゆと料理を作り、最後に風呂から出てきた宏樹が席に着く。
「ほ~旨そうだな~」と言いながら宏樹がビールを開ける。
今日は餃子だ。
因みに宏樹は飲んでるとき、基本的におかずだけを食う。
酒を飲んでると白米は喰わない。
そう言う事もあり米が必須な人にしたら非常に助かる。
その反面、ビールの消費が半端ない。
って事で騒動後はビールは500mlを1日3本までと取り決めている。
"それ以上飲みたかったら大量にゲットしてきなさい"と言ってあるのでそのうち酒倉庫とか行くはず。
ホットプレートの上には既に焼き上がっている餃子が羽を伴って鎮座している。
この家で生活するにも人が増えてしまった為に、結構な速度で食材が消費される。
幸いにも元々の備蓄と近所から拝借してきた食材で賄っているのだが、底を突くのは火を見るより明らかだ。
このご時世、食料品は流通していない。
当然だわな。
スーパーやデパートに調達しに行くにしても定番のように略奪者が住み込み警備をしているかも知れない。
そもそも駅前などの繁華街には人が多くいた訳で当然ゾンビの存在数もうなぎ登りだろう。
現に昨日から鳴りっぱなしのサイレンにどこから集まったか分からない位のゾンビっ子が戯れている。
あの小学校はお祭り状態だろうね。
今回の餃子にしても業務用の冷凍餃子をまゆゆなりに羽根つき餃子へと昇華してくれたおかげで美味しく頂く事が出来た。
本来であれば、鍋の具材になるかレンジでチンした賄いよりも出来の悪い一品となっていたのだから。
食事が終わり最終風呂にゆっくり浸かると明日の作戦を考える。
風呂を上がりリビングに上がると食事の時には敢えてしなかった明日の作戦を皆が寝てしまう前に話しておく。
「宏樹、屋上で監視してて気が付いたことないか?」
「…ん」
「宏樹君よ?」
「…ん」
目が半開きで頭がユラユラ揺れてるんですけど、もういっその事寝てください。
「…ハルちゃんも一緒に屋上に居たんでしょ? その時、大通りの様子どうだった?」
このポンコツは放置してハルちゃんに話を振る。
「はい、宏樹さんも言ってましたが、サイレンに惹かれて集まってる感じだと…」
「やっぱりそうか…そうだよね」
俺は眉間に皺を寄せて考える。
「武志さん、明日になると逆に中学校に行きづらくなるのでは?」
まゆゆが心配気に訊いてくる。
俺もその事を考えていた。
今回は何事も無く事が運んだが、ゾンビの集まった状態だとそもそも近所にさえいけないだろう。
そう、目的の中学校はサイレンが鳴ってる小学校の近所なのだ。
「その可能性はあるね…この静けさであそこだけ大音量だし」
現に今も小学校で座礁している消防車からサイレンが鳴り響いているのだから。
「もしかして、太刀川市中のゾンビが集まったりなんて…」
俺もそう思てる。
そうだろうなと確信している。
「まゆゆ、そんな怖いこと言わないで…でも、おかげで生存者がわざわざそんな所に来ることは無いでしょ」
誰が好き好んでゾンビが集まる場所に来たいと思う? そう思うと略奪者に銃が奪われる事も無いと安心はできる。
でも、あのサイレンは間違いなく自衛隊の駐屯地まで聞こえてるはずだ。
ヘリでもあれば飛んでくるだろうけど、屋上に居たときでもここに来る間にもヘリは見ていない。
後は明日、明るくなったら確認しよう。
みんな大分疲れてるはずだ。
宏樹なんて、中学生より先に寝てるし…
この子たちの方がよっぽどしっかりしてるよな~。
「どちらにしても、明日考えよう! 眠い時にいい考えなんて出ないよ」
俺がそう言うと、なぜか起き出す宏樹。
宏樹は気を使って眠いなりにも頑張っていたようだ。
君の頑張りは評価してあげるよ。
三階に上がって行こうとしているがフラフラで足元が覚束ない。
すかさずハルちゃんがサポートする。
おいおいハルちゃん、宏樹と一緒に寝る…の?
「私がちゃんと監視してます!」
そう言って敬礼をしながら三階へ上がって行くユウコりん。
三階にも二部屋あり、ご近所の布団を失敬しているので、ハルちゃんとユウコりんは三階で寝るそうだ。
でも、ただ寝るだけなのに、何でP220を持っていく必要があるのかな?
「はぁ…」と言いながらビールを飲むと、まゆゆと目が合う。
しっかりしてると言っても中学三年生。
無言で目が合うと、おじさんは照れてしまうよ…
その前にまゆゆの家族の事を考えると何か、気まずい…
「武志さん…本当に今日はありがとうございました」
「いや、いいって…俺のおかげとか無いからね。みんなが行動したから、その結果だよ」
「でも、両親を確認できたのは武志さんのおかげです」
「あぁ…両親の事は…残念だ…」
「でも、生きているか死んでいるのか分からない状況より、気が楽になりました…でも…でも…」
まゆゆは目に薄く涙が溜まっている。両親がゾンビになっていた事実はさぞ辛いだろう。
しかも人体を貪り食うその姿にショックが隠せないでいる。
「俺には…両親の所に連れて行ってあげる事しかできないけど…」
「それだけで十分です。私には無理でしたから…」
頭を項垂れて答えるまゆゆに居た堪れなくなって、俺はまゆゆの頭に手を乗せるとまゆゆはこちらに振り向き
「ちょっとだけ……ごめんな…さい」
と言いながら俺に抱きつき、声が漏れない様に思いっきりしがみついて泣いていた。
言っておくが"役得"とか思ってないから!
その光景を階段から見ていたユウコりんは、俺と目が合うと『ペコリ』と一礼し、静かに3階へ上がって行く。
ふむ。
ユウコりんの目が恐くなかったから、暗黙の了解、って認識で良いのかな?
ま、そこでユウコりんとお互い声を出すのも無粋だよね。
そんな事になってるとも思っていないまゆゆは俺の胸に顔を埋めて必死に堪えている姿に胸を締め付けられる思いが満たされ、俺はまゆゆを抱き締め、頭を撫でてあげる事しかできなかった。
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昨日は年甲斐もなく愛しさと切なさと心強さ等々、色々な想いをしたが夢だろう。
うん、そう。
昨日の事は夢です。
夢なはずです。
ん~…と伸びをしてベットに手を置くと小指に何かが触れる。
チラリと横を見るとまゆゆが寝ている。
「な…」と言って無理矢理出かかった声を飲み込む。
何でだ~~! と声を出したかったが声を出して今の状況を見られると非常にまずい。
マズイなんてもんじゃない、この数日で築いた俺への信頼が音をたてて崩れてゆくだろう…。
何とかしなきゃ…幸いにもまゆゆは深い眠りなのか、起きる気配はない。
俺は静かにゆっくりとベットから出ようとして視線を感じた。
「ハッ!」と後ろを振り向くと、ユウコりんと目が合う。
「お…おはよう」
寝てるまゆゆに気を使って小声で朝の挨拶をすると、一瞬の間を置き、凄まじい速さで階段を上がって行くと、これまた凄まじいスピードで階段を駆け下りてきた。
降りてきたユウコりんと再び目が合うと、無言でP220のスライドを引き、ピタリとこちらに標準を合わせる。
「わわわ! ちょ! 待った!! ストップ!! ユウコりんストップ!!」
俺は両手を前に出して必死にユウコりんを制止しようとする。
ユウコりんの目が怖い。
あの目は人を殺すことを任務と割り切って享受する目だ! 暗殺者の目だ!
「なんだなんだ?」
と騒ぎに駆け付ける宏樹とハルちゃんも、ユウコりんが銃を構えてる状況を階段から見たのだろう。
宏樹はとっさにP220を構え、静かに階段を下りてユウコりんの隣に並び立ち銃を構えて俺の部屋を見る。
「…お…おっす…」
俺は軽く右手を上げて宏樹に挨拶すると、宏樹も
「オッス」
と言いながらもP220のスライドを引く。
「待て! ちょっと待て! お前らは何か勘違いをしている!」
「そうか…お前とは随分長い長い時間一緒に、理解していたつもりだったが…おりゃお前はこんな事はしない男と思っていたが…思っていたが…俺の勘違いだったようだ」
再び銃口を正確に標準を合わせる。
分かる、その銃口が正確に俺のオデコを狙ってるのは凄く分かる。
「まて~~! ま~てって! お前ら、俺は何もしてないんだぞ!!」
「武志さん…見苦しいですよ?」
ユウコりんが、ユウコりんの笑顔が怖いよ~~!
その時だ、まゆゆがこの騒動に目を覚ます。
「ん…ん? おはよみんな…何騒いで…あ! ごめんなさい!」
ムクリと上体を起こすスッピンの美少女。
いや、若いって良いね。
変に脂ぎってないし、お肌なんてツルツルを通り越して『トゥルントゥルン』ですよ。
いや~良い朝だな~。
昨日は走り回って少し筋肉痛だが、しかしそれが良い。
俺は虚空を見ながらそういう思いに更けていた。
簡単に言えば現実逃避だ。
「おい、武志。いつまで現実逃避してるんだ? 早く上に来いよ」
宏樹はそう言うとペタペタと階段を上がって行く。
流石長年付き添った友である。
俺の心境をピタリと言い当てた。
「チッ」と舌打ちしてP220を下に降ろしユウコりんも階段を上がっていくが、未だ疑惑は解けていない訳で目だけは暗殺者の目です。
俺はまゆゆと目が合って「お…おはよ…」と精一杯の引きつり笑顔で挨拶した。
まゆゆは俯いて「おはよう…ございます」と布団の中でモジモジしている。
こんな子が俺の彼女だったら朝から一回戦が始まってしまいますよ。
俺をその気にさせるなんて大したもんですよ。うん。大したもんだ。(長州風)
「先に…上に行ってるね」
「あ、はい」
新妻とはこんな感じか!?
新婚とはこんなに朝からほっこりするモノなのか!!
さて現実に戻るとしましょうか。
俺はそ~っと、階段を上がっていくと既にみんながテーブルに座っている。
何でしょう? 反省会でしょうか? 何でテーブルの上にはコーヒーと銃が置いてあるのかな?
ユウコりんは何でP220に手を添えてるんだろう?
ああ、今日も清々しい朝だな~
「まぁ…座ろうか、な?」
「んんっ!」
ユウコりんの咳払い。
タンの絡んだ時の咳払いではなく『察しろよ!』の咳払いだ。
ユウコりんが親の仇でも見るように睨んでくる。
座るつもりですか? 良い根性ですね! と言われた気がした。
俺は腰が痛いからな、座るより立ってる方が楽な時もあるんだよ。うん。
心の中で理由を述べその場で直立不動となる。
少し遅れてまゆゆがリビングに入ってくる。
まゆゆは心なしか顔が紅潮して14歳とは思えない色気を出している。
いや14歳は既に女の子ではなく女性だ。
そのまゆゆの表情を見てユウコりんは眉を顰める。
「さてと、武志さん? 何か言い残す事はありますか?」
静かにユウコりんが口を開くとP220に添えてる手に力が入った。
俺は今日、ここで目覚めてすぐに永遠の眠りにつくのかもしれない。
ゾンビに喰われて死ぬのでは無ければ…いいか。
と思っても無い考えで再び現実から逃れるのだった。
おっさんは少女の涙には本当に弱いのよ
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あと、こう言う風にしたら良いとかこんな展開も希望等ご意見ご感想もお待ちしております。
評価など頂けたら嬉しい限りです。