第27話:出発準備
前回は嘘つきましたがもうそろそろチートの片鱗を見せる人が?
それでは続きをどうぞ。
俺ははっきり言って避難所に行きたくない。
人が集まる場所には必ず意見の衝突が起こる事は目に見えている。
何でも他人任せで都合が悪くなると言い訳ばかりし、挙句の果てには守って貰ってる自衛隊にも文句を言う。
自分たちのした事と言えば、強く言い返して来ない人に対する罵声だけ。
しかも抑制された人間ほどその傾向が顕著だ。
俺は1週間ほど前、それを目の当りにしていた。
守るべき住民を置いて逃げるアメリカ兵。
住民は好き勝手に文句を言う。
住民の文句を聞いていた自衛隊は国民を守りつつ喰われていった。
あの時、自衛隊員だって文句を言われる筋合いなんか無いんだ。
自衛隊員だって家族だっているだろう。
住人を守る前に自分の家族を守りたかったはずだ。
でも、国民を守って死んでいった。
いや、死ぬだけならまだしもゾンビとなっていた。
人なんて集まったら、集団になったら碌なことにならない。
民主主義とは、大多数が少数意見を聞き入れない考えとなる。
では少数意見はどうなるのか? 間違った考えを押し付けられ黙っていないといけないのか? いつの時代も大多数と少数意見の軋轢は存在していた。
もしも大人数が間違っている場合は? 責任の擦り合いが始まる。
それは平時でもよく見られる光景だった。
結局、人間とは醜い生き物だ。
生物としての進化は万物の霊長と言っているが、何てことない。
中途半端に知恵をつけ進化を諦めた妥協の種だ。
中途半端なんだから醜くもなる。
人は結局のところ、人に頼らず、人を頼らず、自分の力で、自分の意思で生きなければダメだ。
人に頼り、他人の力で生きてるのは生きてるのではなく、生かされているだけだ。
そんな状態だと、自分の命を軽く見てしまう。
いや、生きている事さえ考えなくなってしまう。
生きる意思が無ければ、生きている実感など湧くはずもない。
今までは国が大人が他人が守ってくれた。
しかしこれからは生き抜くために自分に頼らなければ生きては行けない。
その事にいち早く気が付いた人間のみが生き残れる時代だ。
ハルちゃんは生きている間にその事に気が付くべきだ。
でなければ、死んでも気が付かない。
死ぬだけならばいいが、死んだ後に残っているのは『ゾンビ』だ。
しかしハルちゃんが他人に頼るのも自分の意思であるならば、俺たちが自分たちの考えを押し付ける事は無い。
ただ単に進む道が違うだけだ。
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本当に生存者の居る避難場所なんか行きたくない。
でも仕方がない。
約束しちゃったから。
その辺は適当な大人を演じればこんな事に巻き込まれずに済んだのに。
俺と宏樹はまだまだ子供の様で。
嘘が付けないお子様のままだ。
「さて、恐らく近くの避難場所に移動していると思う…多分、この小学校かな」
俺はネットの地図画面を見ながらみんなに説明する。
第一に三人が避難していた避難所を訪れる。
第二に最寄りの避難所を訪れる。
三人も黙って頷く。
「俺は今回の作戦は賛成しない。でも約束だから避難所に連れて行く」
苦々しい面持でハルちゃんを見る。
ハルちゃんは「はい」と小さく返事をする。
その返事に悪びれた感情は無く、ただ単に俺たちではない、守ってくれる大人が居る希望に満ちている。
「もし生存者が居た場合、相手が誰であれハルちゃんはその人たちに付いて行くんだね」
「誰であれ…ですか?」
まゆゆが険しい顔をこちらに向ける。
「それがハルちゃんの意思でしょ?」
俺は初対面の人間に対してその人が善人か悪人かなんて判断付かない。
そもそも人を見る目があるとも思ってない。
だからハルちゃんを受け入れる人に丸投げする。
例え心の中で涎を垂らした獣でも。
「俺はそれ以降、ノータッチを貫く。引き渡した後にハルちゃんが保護されようが、強姦されようが、殺されようが俺には関係ない」
ハルちゃんは押し黙る。
まゆゆもユウコりんも言いたい事はあるのだろうが黙っている。
「で、生存者が居たとして…」
俺が話をしていると静かに宏樹が言葉を出す。
「…撃てるかな?」
「…撃てるだろ?」
ぼそりと宏樹が呟き、俺がぼそりと言葉を返す。。
それを聞いて中学生トリオは『ギョッ』とした表情をする。
俺と宏樹の主語も無い会話についてこれない3人。
言葉だけを聞けばなんて不穏な言葉なのだろう。
しかし宏樹は自分の発言に対して俺の答えの意味を理解している。
俺の答えを聞いて宏樹はスクッと立ち上がり、颯爽と下に降りて行く。
どこかウキウキとしてハツラツとして…怖い!
あれ絶対撃ちまくる気だ!
くっそ~! 俺も行きたい!!
まゆゆとユウコりんは今回の作戦についてどうするか考えさせる。
誰か一人でも残るのなら俺も残る。
逆に全員が行くなら、俺も行くことになるだろう。
宏樹が「んしょ、んしょ」と言いながら、階段を一段一段上がってくる。
その姿を見た中三トリオは空いた口が塞がらず目が見開いている。
その様子に俺は思わず鼻で笑ってしまった。
「すごい…」
そう言っていたのはユウコりんだ。
何故かユウコりんは目を輝かせている。
その眼はMINIMIに注がれている。
「ほい!」と言って俺にM4A1タケシカスタムを渡してくる。
「まゆゆは…どっちがいい?」と言いながらM4A1か89式を差し出す。
「あ…」
そりゃ迷うよね。
いきなりアサルトライフルや軽機関銃を見せられてこっちがいいとか言わないだろ? 普通。
「私こっちが良い!」
言ったよ。
ユウコりんは宏樹が肩に背負っているMINIMIを指さす。
ユウコりん…やっぱり普通じゃなかった。
「…ほい」
宏樹はMINIMIを肩から降ろすとユウコりんに渡す。
「うっほ!」と言いながら受け取ると「うわ~」と言いながら頬ずりしている。
その光景を見て俺達4人は呆気に取られている。
尚もユウコりんは俺たちの視線をガン無視し、弾倉上部カバーを開きコッキングハンドルをスライドさせる。
弾帯やマガジンは装填されていないので弾がチャンバーに入る事はない。
フムフムと何か納得した様子でグリップ側のピンを手際よく外すとグリップ部と上部の機関部を開閉しコイル・スプリングを取り出す。
その流れでコッキング・ハンドルを引きボルトとボルト・キャリアを取り出す。
今度は銃身固定のレバーを引いて銃身を抜きバレルの中を確認する。
バレルを覗くユウコりんの目と呆気に取られてる俺の目が合う。
俺たちのその様子にユウコりんは我に返ったようで
「あ、私の家族みんな自衛官なんですよ~」
と苦し紛れの言い訳をするがその一言になぜか一同納得してしまった。
「へぇ~…なるほどね~そう言う事か。じゃ、これの装填方法も知ってる?」
宏樹はそう言いながら弾帯の入っている箱をユウコりんに渡す。
「うわうわ! 本物だ!!! おっも~い! この重量感、最っ高ぉ~」
大興奮のユウコりんは分解時とは逆の手順でシャカシャカとMINIMIを組み立てると箱をMINIMIにセットする。
その流れで弾帯の端っこを引っ張り出しMINIMI上蓋を開けると弾帯をセットする。
「これで準備完了!」
と意気揚々に構える。
俺達より扱いが慣れている…。
この中で一番逞しいのはユウコりんだった。
ユウコりんは『出発』の掛け声がかかるまで放置していて大丈夫そうだな。
と言うか、ユウコりんは有無を言わさず行く方向だ。
ってか、何も言わずにまた分解を始めた…あ、メンテナンスしてるのね。
宏樹は「…じゃ、まゆゆはこっちね」と言って俺と同じM4A1を渡す。
自分が89式の方が良かったからだろ?
まゆゆはM4A1を渡されてどうしていいのか分からないのかM4を手に持って固まっている。
「あ、あとこれね」
そう言ってユウコりんとまゆゆにP220を渡す。
P220を受け取ったユウコりんは相変わらずテンション高めに「おお~!」と声を上げる。
受け渡された銃器を手に呆然としているまゆゆを見たユウコりんが一生懸命扱い方を教えている。
宏樹はハルちゃんと目が合うと
「残念だけどハルちゃんに武器は渡せないから」と言い切る。
宏樹には珍しく少し冷たい言葉だ。
ま、俺でもハルちゃんに武器は渡さないけどな。
武器を渡さない代わりに何としてでも最優先に守ると宣言する。
その言葉にまゆゆとユウコりんも「私も」と続くのであった。
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