第16話:はじめての生存者
連休どうお過ごしですか?
さて今回は外道二人が初めての生存者を発見します。
外道だけど悪人ではない二人の活躍に乞うご期待。
それでは続きをどうぞ
―――翌朝、と言ってもまだ日は昇っていない。
日の入りと共に寝て、日の出と共に起きる。
仕事していた頃より健全な生活になってきている。
まるでジャングルに住む原住民やサバンナで生活するブッシュマンの様な生活だ。
ブッシュマンと言っても侮蔑ではなく、人類最古の民族として尊敬の念も含めてブッシュマンである。
横を見れば宏樹は居変わらず寝てる。
俺は伸びをして学校側を監視する。
やっぱり明かりも灯っていない。
まぁ、人が居ても寝てる可能性もあるが、昨日から学校側では明かりを確認していない。
自衛隊のテントや備品は置いてありそうなのに、自衛隊の姿形も確認していない。
と言うよりは生存者と思わしき気配が無い。
何と言うのか、他の家と同じように生活感が皆無だ。
俺は避難所である学校には誰も居ないと確信している。
昨日学校を見ていた時に、校庭や教室にゾンビがチラホラ散歩していたからだ。
昨日の作戦会議で自衛隊の備品に使えそうなものが無いか調査しないか?
と言われて承諾した。
自衛隊のテントがある場所を見るに銃器は無さそうではあるが、仮にあったとして信用のおけない第三者が銃を手にするのは好ましくない結論に至る。
流石にゾンビが居るので決死の大捜索になるかもしれないが…
この辺りの静けさだったら、近隣住民も居ないだろうと思う。
目と鼻の先に避難場所があるのに隠れる意味が無いだろうから。
自衛隊による強制集合もされてるわけだし。
え? 俺ら? 俺たちは例外のボッチだから良いんです。
さすがにDQNや愚連隊も命が掛かれば避難場所に来るだろ?
定番のショッピングセンターやホームセンターとかに立てこもってる可能性があるから近づかない様にしないとね。
こちらに被害が発生したら、そりゃ戦争しますよ。
ランボー並みにゲリラ戦で大多数vs2人の戦いを繰り広げてやりますよ。
そんな訳で、宏樹が起きたら学校へ潜入する。
―――――ん?
校庭のゾンビが校舎の入り口である扉に集まりつつある…?
まさか、避難民が居る?
自衛隊も校舎に立て籠もってるのか?
それだったら、校庭に入らない様にバリケードでも築くだろ…?
校庭のゾンビは6体なんだし、訓練を積んだ自衛隊員だったら無理なく制圧できるレベルだぞ。
それに、避難民が居たらもう少し騒がしくなっても良かろうに。
あ、でも騒いだら余計にゾンビがやって来るか。
その前に、とっくに今と同じ状況になっているはず。
昨日はゾンビも校庭でお散歩状態だった。
俺は疑問に思いながら宏樹を起こす。
…起こす…。起きろ~!! 何でこいつはすぐに起きないかな~
相変わらず寝起きが悪い。
よくこれで朝の早い現場に行けるよね。
「おい! 宏樹! 現場に遅れるぞ!」
「あぁ…ああ! やっべ! 行かなきゃ!」
よし、起きた起きた。
サラリーマンで言うところの『お客さん、終電ですよ』ってところだ。
頭を掻きながら宏樹が愚痴を言う。
「…あ~も~…なんで起こすかな~?」
「緊急事態Deth」
「え?」
俺はゾンビの行動を宏樹に説明する。
宏樹はすぐさま学校に行こうと言い出す。
何気に宏樹には正義の炎が燃えているんかな。
もしかしたら、宏樹には主人公補正があるんじゃないか?
いや、勇者に目覚めつつあるのか?
と言うやり取りをすると二人して「んなわきゃない」とタモさん風に締める。
そんな訳で日が昇り始めた早朝に作戦を実行する。
「作戦を伝えます」
「おう」
「校舎の裏にある非常階段から潜入。以上!」
「お…おう?」
「何か?」
「それ、作戦じゃないよな?」
「言い忘れていた。『命を大切に』だ」
「お前は勇者か」
そんなくだらない会話をしつつ、昨日の宴会時に話した作戦通り行動する。
基本、襲われそうな場合に限り戦闘し、積極的に戦闘には参加しない方向で。
ホルスターの銃と弾薬を確認する。
銃は本当の本当に危ないとき以外は使用しない。
発砲音でゾンビが集まってしまうからな。
あと、無駄な音をたてない。
これは絶対。
全て基本に忠実に行動する。
基本とは『慌てない・騒がない・がめつく拝借・食い物優先・ルームシェアマン』のあさがくる運動のことだ。
最後はよく分からないが。
ゾンビが集まってる校舎入口を避け、裏の非常階段を昇る。
これも、良くある鉄板を溶接しただけの階段なので足音が異様に響く。
靴底の固い靴を履いていたら間違いなくゾンビが来るだろうな…。
幸い俺たちの靴はスニーカーだから、静かに昇ればそれほど音は出ない。
音は出ないが階段を昇るのが重労働になる位、気を使う。
急いでいる時には向かないのだが、生存者が居るかどうかも分からない状況で急ぐ必要性は無いのだ。
避難してる人が居るとしたら最上階の三階に居るはず。
ゾンビは一階から侵入するし、映画とか見ても大抵、最上階とかに居るでしょ。
もはやお約束となっている。
ゾンビが侵入するのに、一階に居るんだったら…そんなバカは放置だ。
階段の手すりを乗り越えて二階部の庇に降り立つ。
なぜ2階なのかと言うと二階廊下側の窓が開いていたからだ。
下の方では、恐らくゾンビであろう校舎入り口を叩いている音が微かに聞こえる。
どうやらゾンビ達は校舎に侵入出来ない無いようだ。
校舎にゾンビが居る事から鍵は掛かっていないと思うのだが、ゾンビはドアノブを回す知能さえないのか。
校庭に居たゾンビは6体。
倒そうと思えば倒せるけど、危険を冒す程じゃない。
降車に侵入し警戒しながら教室を覗く。
教室の中は避難民が寝泊りをしていたのであろうか、毛布などが散乱していた。
簡易的ではあるがダンボールで仕切りもされている。
しかし、どこを探しても避難民や自衛隊が居る気配はない。
やっぱり別の場所に移動したらしい。
らしいと言うのも、ゾンビが雪崩れ込んできたら食われた人と言うか被害者の一部が散乱しててもいいだろうし、ゾンビも大量に居てもおかしくないと言う理由だ。
三階への階段を上ると、階段から一番離れた場所だけ何故かゾンビが群がっている。
昨日、教室を彷徨っていたゾンビ達もこの角部屋の扉に集合しているようだ。
その教室は教室特有の引き戸タイプではなく少し厚めの扉だった。
あれ、完全に教室に誰かいるよね。
しかも生存者が…。
俺達はゾンビに気づかれないように静かに教室へ隠れどうするか考える。
とりあえず放置したい俺の意向に反してゾンビを倒そうと言うのは勇者宏樹。
仕方がない、勇者に従うとしましょう。
そんな俺も避難場所に逃げた人がどうなったのか、その顛末を聞きたいと言うのもあったし情報はいつの時代でも貴重なのだ。
教室の引き戸から顔を出しパチンコで狙いを定める。
ゾンビが10体居るのではないか?
一人5体倒して終了。
ゾンビは仲間が倒れるも我関せずなのか、目先の事しか考えていないようだ。
いや、考えてるのかな? 殆んど本能なんだろうね。
1発撃っては教室に頭をひっこめ見つからないようにする。
簡単にゾンビ制圧完了。
更に警戒する為に10分程様子を見る。
追加のゾンビも無い事を確認し扉の前のゾンビ達を退かす。
はっきり言ってゾンビなんて触りたくも無い。
でも、こいつらを退かさないとドアを開けられないんだから仕方がない。
粗方ゾンビを退かしドアの取っ手を回そうとしたが動かない。
鍵がかかっているようだ。
その扉に小さいガラスがあり、そこから中を窺う。
机と椅子は無く、ピアノだけが鎮座する所謂、音楽室だ。
扉正面には有名な音楽家の肖像画が5枚ほど並んでいる。
その内の1枚は不機嫌そうに楽譜を書く銀髪のおっさん。
その肖像画は夜中になると笑うらしい。
そして、あのピアノは夜な夜な勝手になり出すと言う………以上!
念のためノックをして静かな声で「誰か居るか?」と声をかけてみる。
こんな厚手の扉だし音楽室の音楽を遮断するんだ、そりゃ聞こえるはずがない。
少し考えて『タタンタタンタンタン』とリズミカルにノックしてみた。
………特に反応も無いので立ち去ろうとしたとき、視線の端で何かが動いた気がする。
確認する為にもガラスをもう一度覗き込むと、ピアノの奥にある扉が少し開かれて女の子がこちらを見ている。
YES! …生存者あり。
俺は窓を覗き込みながら再び『タタンタタンタンタン』とリズミカルにノックし顔の横で手招きをする。
女の子は扉を開き警戒しているのか少しずつこちらに歩み寄ってくる。
女の子は小学生? いや中学生くらいか?
年を取るとダメだね、小学生と中学生の見分けがつかない。
こちらに少しずつ歩きながら後ろに振り向き何かを言ってる。
どうやら生存者は他にもいるようだ…
宏樹に生存者が複数いる事を告げると、小さいガラスから覗き込む。
「どうするよ…」
宏樹が覗きながらそう呟く。
自分で助けるって言ったくせにどうするって…
俺達は救援隊ではない。
勝手気ままな世捨て人だ。
かと言って見捨てるには要救護者は幼すぎるし、しかも女の子だ。
こういう場合、男が居たら真っ先に男が確認するだろ。
大人が居たら大人が確認するはずだ。
しかし真っ先に顔を出して確認したのは女の子。
後ろに控えてるであろう生存者は同い年以下の子供の可能大だ。
その事を察しての宏樹の呟きなのだ。
確かに宏樹の読みは正しく、そんな状況を見た二人には共通の感情が湧きだす。
『『正直メンドイ』』
『『保護者はどこだ!』』
後方を確認しながらそうこう考えていると音楽室の鍵が開く音が聞こえた。
俺は扉のノブを回し音楽室に入る。
すぐさま女の子は扉の方に後ずさる。
「大丈夫。ゾンビはいない」
そう言いながら音楽室の鍵を閉めると、俺の言葉に女の子は強張った顔の緊張が少し緩まる。
「他にも誰か居るの?」
珍しく宏樹が優しい声で女の子に質問する。
宏樹はこう見えてかなり人見知りだ。
しかも相手が女性だったら尚更、人見知り属性が上がる。
事実、合コン的な飲み会の席でも宏樹が女と話してる場面を見た事が無い。
そんな宏樹が優しい声をかけてる事に、『ああ、世界の終末か』と心の中で思った。
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