第12話:始めての偵察
今回は少し短いです。
だもんですぐに次を投稿しようと思います。
銃を手に入れてから毎日屋上で警備をしていた。
文字通りまさに引きこもりの最上位ジョブである自宅警備だ。
屋上から眺める静まり返った風景。
平時であれば幹線道路には乗用車やトラックが往来し、朝であれば登校する中学生の生徒や自転車に乗った高校生。
スーツ姿のサラリーマンや近くの工場へ向かう作業着姿の人々を目にする事があるのだが。
目にするのはシャツを血に染めた元サラリーマンや高校生や中学生だ。
その姿たるや何とも惨たらしい。
その姿を見て何度、射撃の的にしたいと思った事か。
そしてその度に何度"我慢だ、銃声を聞きゾンビが集まって来る"と言い聞かせた事か。
そんな静まり返った街にも人の息吹が帰ってきた。
案の定、3日後には彼方から喧噪が聞こえ出した。
主に食料調達の人々がメインだが。
しかしその喧騒もゾンビ達の唸り声にかき消されてゆき、いつしか悲鳴も聞こえなくなる。
空腹の子供の為、嫁の為、旦那の為、恋人の為、そして自分の為に食料を漁る強制避難を免れた民衆。
その民衆を漁るゾンビ、ゾンビ、ゾンビ。
気が付いたらゾンビの数が大分増しているな。
静まり返った街の彼方から悲鳴も銃撃の音さえ聞こえない。
発砲してるのが軍なのか警察なのか分からんが一時は銃声も聞こえた。
そう言えば避難を促していた防災無線も停止した。
それでも電源が生きている為、夕方の16時には決まって防災無線(テスト放送)の音楽が流れている。
避難所はどうなっているのか?
ちんけなバリケードならゾンビの大群の圧力によって倒されてしまうだろうけど。
そもそも音をたてずに1週間も人間は生活できるのだろうか?
避難所には子供だっているだろうにそれは半端じゃないストレスだろう。
狂う人間が出てもおかしくない。
俺たちは別だよ?
好き勝手に生きてるから。
そんな皆さんが居るであろう避難場所とされる学校の方向を遠目に見て溜息を一つつきながら階段を下りる。
宏樹がリビングでモンスターを狩ってる。
嵐龍討伐クエに白熱してるようだ。
あ、死んだ。
何故かそんな古いゲームをやってるかって?
新しいのはおじさんには操作が大変なのだよ。
しかも普段からゲームをやってるわけでは無いからね。
自ずと古いゲームの方が性に合ってる訳なのだ。
仕方がないな~…と、すかさず温泉に入って参加する。
宏樹は大画面なのに俺はPSPPの小さい画面ですか…まぁ良いけどね。
因みにPSPPは電源を切る必要が無いのでセーブポイントでセーブしたらそのまま放置してたりする。
もちろんAC電源を挿した状態だ。
ふっ、さすがの嵐龍も2人には難儀してる模様。
よっしゃ! 討伐完了!!
おっ、龍玉でた! ムフフこれで、嵐龍装備が揃うぜ!
おっ宏樹さん、次は煌黒龍ですか?!
こいつ強いんだよね~属性変るし。
あれ? さっきまでシリアスだったんだけど…まぁいいか。
宏樹は夢中で煌黒龍を切りつけている。
俺は気楽にガンナーだから遠距離支援。
そんな宏樹にさっきの状況を話す。
「さっき屋上で周りの様子見てたんだけどさ~」
「うん」
「もうそろそろ周りも落ち着きそうだよ」
「うん」
「…頑張って!」
「うん」
ダメだこりゃ。
宏樹は狩に熱中して聞いてね~。
「…明日辺りに外出てみようと思うんだけど」
「なに~!」
「聞こえとるやないかい!」
にわか関西人を演じつつツッコむ。
流石に1週間も気楽な生活とは言え、外に出れないのはキツイものがあった。
と言うより、宏樹は『外出=銃の試射』という図式なのだろうが。
「よし! そうと決まればこんな奴、すぐに狩ってやる!」
確かに狩れるよ。
何匹倒したと思ってるの。
これでまだ苦戦していたら煌黒龍装備なんて揃えられませんて。
その前に、未だに3rdやってる俺達って…
「よし! 狩ったぞ! 行こうか!!」
人の話聞いてないやないか!!
エセ関西人が再び登場。
「明日だよ! あ・し・た」
「え~今日じゃないの?」
俺は剥ぎ取ったアイテムで煌黒龍装備を作る。
「まだ、チラホラとゾンビが徘徊してる。明日になれば別の場所の生肉を求めてどこかに行くだろうから待ってなさい」
「は~…やっと撃てると思ったのに」
案の定、宏樹は騒動で掠め取ったベレッタを愛おしそうに撫でる。
「初めての射撃目標が生きてる人間なんて嫌でしょ」
「まぁ、そりゃそうだ」
再びモンスター討伐でフィールドに行くために温泉に入る。
「宏樹はどこに行きたいよ?」
「そうだな~。試射もしたいけど、一応近くの避難場所も気になるな」
な! なんだと!? あの宏樹からマトモな答えが来たぞ!?
何だ? 明日は戦争なのか? 開戦なのか!
ってちが~う!
俺は何を狩るか聞いたんだよ。
でも、宏樹からマトモな回答が来たからさりげなくスルーする。
「なるほど、近くの避難場所って事はそこの中学校に行ってみようか」
徒歩数分の所に中学校がある。
校門の看板には緊急避難場所とか書いてあるし、住民がそこに集められてるのは確実だ。
「でも、危なくないかな?」
「危ないと思う。だから、避難場所の様子が一望できる建物にまずは行こうと思う」
生憎と近くの『避難場所=近所の中学校』は周りが全て一戸建てで中を窺い知る事が出来ない。
少し離れていれば比較的高層マンションがある。と言っても12階だが。
そこから避難場所を見るには望遠鏡が必要だろ…。
この避難場所、橋の爆破の際、自衛隊とアメ公へ詰め寄っていた一般人たちが避難していた場所と後に知る事となる。
残念ながら高層マンションからの偵察は却下となった。
仕方がないので、学校校庭側に3階建ての一戸建があるので、まずはそこに侵入する手はずを模索する。
ここなら、LIVEの時にも役に立たなかったオペラグラスが多少は役に立つ…か?
倍率で言ったらM4TAKESHIカスタムのスコープの方が…いやいや、一般人がどこかに隠れているかも知れない状況にそんな長物を持っているとどうなる事か。
それに片目でしか見れないんじゃチョッチね。
狙撃に慣れた人ならまだしも、ついこの前までサラリーマンをやっていた一般人には不慣れなのだ。
一番の懸念材料は学校に隣接する場所なだけにゾンビも確実に居ると思われる。
サイレンサーの無い銃を撃っただけでゾンビも寄って来るし、何より生存者にも知られてしまう。
少なからず避難場所には自衛隊か警察関係者も居るはずだし、一般市民が銃を持ってる事がばれたらどうなるか分かったものではない。
そうでなくとも、ゾンビと一般市民を一緒に駆除するアメリカ兵もある意味、武装化した暴徒と変わりない。
なまじ訓練を積んでいる分、武装暴徒の最上位だ。
予定地点の学校は距離にして300m程だが、用心して学校の死角になる民家の庭より侵入する予定とする。
と言っても、住民が居ない事が前提だが、その辺は心配していない。
目の前が避難場所と言う事もあるから、俺達みたいな流離の自宅警備員でなければ住民は避難場所に行ってるはず。
だって、目の前が避難場所だし。
自衛隊なのか警察なのか自警団なのか良く分からないが強制的に避難所送りの為のローラー作戦になってたしな。
念のためホルスターにP220を入れる。
しかし、今のメインウェポンはパチンコだ。
入り口を確保する為、ガスバーナーとハンマーを持っていく。
決して強盗をやりに行くわけでも、ましてや強盗なんてした事はないと言っておく。
学校周辺をゾンビが徘徊しているのは許容範囲。
しかしゾンビが学校全体を取り囲んでいたら偵察終了。
生存者の居る場所にゾンビが溜まってるのは定番だもんな。
だからと言って、外の情報が無いのも不安がよぎる。
率先して避難場所にいる人たちに接触するのも躊躇うが、世間がどうなってるかも知りたい。
2人で装備を確認してお互い頷く。
さぁ、嬉し恐ろしお出かけの時間だ。
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