第10話:不謹慎な収穫祭
一応注意はしておきます。
今回はグロ属性が高いです。
ですが今さらグロ耐性の無い人は見ないでなんて言いません。
それでは続きをどうぞ。
アメリカ軍が住民や自衛隊員を見捨てて撤収し、自衛隊や避難民にとっては最悪な、ゾンビにとっては甘美な食事が終わる頃、夜が明け始めた。
ゾンビは生肉を喰い散らかすと、温もりの無い冷たい肉には興味が無くなったのか、その満たされる事のない無限の空腹感と遠くで聞こえる発砲音に誘われたかのように音の聞こえる方へフラフラと歩き出している。
下を眺めると凄惨な殺戮劇が行なわれた現場を目の当たりにする。
喰われた住民や自衛隊員もゾンビ化が完了したのか、痛ましいほどの状態で地面を這いずり回っている。
四肢が欠損して歩けない元住民は体をくねらせて何とか移動しようとしている。
その姿は、達磨であったり、車に轢かれた猫の様でもある。
当然皆さん内臓なんてものは無かったり飛び出していたり…はっきり言ってグロい。
何だ、ゾンビって内臓が好きなのか?
まるでカラスだな。
あいつらも最初に目玉と内臓から手を付けるもんな。
骨に多少の肉が付いた腕や足が散乱し、内臓が収められていた箇所が空洞になっているのに動いていたり。
内臓を命綱のように垂れ流しながら這いずりまわったり…
消化器官が無くなっているのに食欲旺盛なのは何なのか?
そんな状態で獲物を食して意味があるのか?
何のために生きてる? いや、存在しているんだ?
今のこの世の中『ゾンビの謎』と言う本を執筆したらバカ売れだろう。
人が生きていればの話だが。
辺り一面の路上はまさに血の池だ。
流れ落ちた血液は道路の側溝へ流れ、集水桝の金網に滴り落ちている。
あまり近づきたくない光景だが…これも武器入手の為、気合を入れて体を起こす。
何時間屋上に居たのか分からない。
凄惨な光景に吸う本数が異様に多かったのか、タバコも残り少ない。
それでも心を落ち着かせるためなのかタバコを口にする。
喉が渇いているはずなのに水分をとったら胃から逆流しそうな臭気が屋上にも漂う。
マンションの非常階段を足早に駆け下り、先程の惨状現場に辿り着く。
上から見ていた景色より更にグロい光景と…それに追い打ちをかけるように酷い悪臭が漂う。
この匂い…忘れていたトラウマを思い出させる。
俺がまだ中学生だった頃、買い物をするため電車に乗って太刀川駅に行ったとき。
目の前のサラリーマンが特急列車に飛び降り自殺をした。
その惨状たるや…どこがどの部位なのか分からず弾け飛び…
その時の匂いと同じだ…
血と鉄が混じった様な匂いと、糞尿のような匂いと生臭さ。
目を覆いたくなる惨状と臭気でクラクラする視界に飛び込んだのはこちらに這いずり近づくボロボロの元住民。
その顔からは肉が剥ぎ取られ表情と呼べるような顔面では無く、ただ単に肉の付いた骸骨と言った方が正しいだろう。
「はぁ…ウッ…」
短い溜息をついた後に、胸がムカムカする。
溜息なんてしなければよかった。
いや、呼吸を止めたい。
この惨状が現実と映画の差なんだな。
どんなグロ画像を見て『慣れた』と思っていても映像だけでは情報は少ない。
得られる情報は五感の内の1つである視覚だけ。
しかし、リアルである現実は五感全てで受信する。
そして自覚する。
これが『現実』と言う事に。
涙目になりながらもスリングショットを準備する。
ポケットから8mm鉛弾を弾受けにセットしゴムを引っ張る。
頭がゆらゆら揺れているが距離は5mも無い。
ゴムが引っ張られると手首付近にリストロックが引っかかる。
ゴムの力で手に持つグリップが後方に逸らされるのを防いでくれる。
意味があるか分からないサイトを頭に合わせ右手の力を開放する。
弾受けから放たれる8mmの鉛弾は標的の側頭部に当たったが掠めただけの様で、アスファルトに跳弾し『ピュン』と火花と音を発生させ、どこかに飛んで行った。
慌てず次弾を準備し先程と同様に8mm弾を発射する。
余りの咽かえる臭気に深呼吸は出来ないが深呼吸をしたように気分を落ち着かせる。
今度は頭頂部に着弾したようで、そのままゾンビは活動を停止する。
手が震えて5mの距離を外した?
頭って意外と固いのか?
いや、丸みを帯びてるから多少当たったくらいでは頭蓋を砕くことは出来ないのか?
予想外の展開に脳内で反省会を開始しそうになるが、横に居た宏樹に肩を叩かれ『ハッ』と我に返る。
もしもの為に後方で待機していた宏樹。
こんな惨状で俺より"慣れている"こいつに、俺は素直に"ヤダこのイケメン///"と赤面…いや、感心した。
俺よりもグロ耐性を持っているなんて…と思ったが、この凄惨な状況より武器があるかもしれない事にテンションMAXなだけで周りが見れてないだけなのかもしれない。
だって視線は絶えずトラックの荷台をキラキラした眼差しで見てるし。
俺は冷静さを辛うじて取り戻し指示を出す。
「宏樹はそっち! 俺はこっちを調べる!」
「おう」
答えるよりも早くすでに行動を移していた宏樹。
負けじと足早にトラックの荷台に登り中身を調べる。
荷台の両脇にベンチの様な簡易シートがあり、人員輸送用だと言うのが分かる。
奥に金物の箱が重なっていくつか置かれている。
幌があるので薄明りだが開けてみたら9mm弾がいっぱいある!
テンション上がってきた~ぁ!
すぐに降ろせるように荷台の端っこに移動させておく。
もう一台の方は? と荷台を降りると宏樹がハイテンションで走ってきた。
背中には89式を背負ってる。
宏樹は俺の目の前で立ち止まるとビシッと両足を揃え指先を伸ばし敬礼をしてくる。
宏樹の敬礼には苦笑いだが視線は後ろの89式に。
俺の視線を感じたのか宏樹も背の89式を手に取り構える。
俺と宏樹の視線が合わさり二人して無言でニヤリと笑い合う。
「そっちの車はそれだけ?」
宏樹の調べた車には銃器が無く、無線しかなかった様で、道路に転がっている89式をGETしたらしい。
「車にキーは付いてた?」
「それはあった」
「じゃこっちに車を回して積み込んじゃおう」
宏樹が俺が調べたトラックの方へ視線を送る。
「お? そっちは何か収穫があったのか?」
俺はズッシリと重量感たっぷりな1箱を荷台から降ろすと蓋を開ける。
中には9mm弾が満載されている。
「おおぉ!!」
宏樹のテンションもMAXを超過した。
俺もボルテージは最高潮! もう一台のトラックにも期待が募る。
匂いも惨状もなんのその!
「宏樹は車を頼む!」
テンション上がりまくりでスキップしながら車に向かう宏樹をみて、お前はセクシー大下か! と心の中で突っ込む。
何分、顔は良い宏樹だけに冗談も冗談にならない。
俺は気を取り直し願いを込めてもう一台のトラックの荷台に乗り絶句。
「ハウ~~~~」
俄然やる気が出てきた。
漲ってきた!!
車を近くに止め収穫を宏樹に見せる。
箱の中には『ベレッタ92F』が綺麗に並べられて満載されている。
別の長い箱には『M4A1』と『89式』が満載。
そして、驚く事に『MINIMI』が3挺。
9mm弾を収納している箱と5.56mm弾が満載の箱と5.56mmがベルトに繋がれている束が入った箱が4個。
もうそれだけで結構な重量になる。
運の良いことに補給隊だったのか?
俺にはチームの編成や任務の事は知らない。
橋を爆破したダイナマイトや爆弾の類は残念ながら見つからなかった。
それでもこれだけの収穫に文句は無い。
今の仕事は手当たり次第に箱をパジェロの荷台に詰め込むと言う事だ。
見れば宏樹のテンションもMAXだ。
その笑顔を見ればバカでもわかる。
道路に転がっている元自衛官達の腰からホルダーを外し、ジャケットの弾倉やP220も抜き車に積む。
生憎と迷彩服や防弾チョッキは血や何だかかわからない体液でべっとりだったので諦めた。
しかし、銃器は洗えば何とでもなる。
この頃には、転がっている手足だろうが、内臓と思わしきモノだろうが、上半身だけ、下半身だけの死体を眺めても込上げてくるものはなくなっている。
匂いはキツイが、人間慣れれば何にでも順応できるものだ。
積込みが完了し、車に乗り込む前に自衛隊員と撃たれたか食われた住民に黙祷と合掌、そして一礼。
早々に車発進させ帰路につく。
帰路と言っても車で数秒の距離。
家の周りにゾンビが居ないか確かめるために周囲を1週する。
ゾンビが居ないことを確かめると家の前に車を止めて速攻で荷を下ろすと、そのまま踵を返し、荷物を家の中に搬入する前に車を処分する。
さすがに自衛隊車両が家の前に停まっていたら嫌でも目立ってしょうがない。
勿体ないが河原沿いの道路からパジェロを落す。
帰り際、遠目にゾンビが歩いているのが確認できたので速攻で民家の庭を突っ切り退散する。
本当は拾得した銃で仕留めようとしたんだけどグッと我慢する。
宏樹も銃を構えるが「やめとけ」と忠告した。
銃声でゾンビが集まったらシャレにならん。
一目散に我が家に到着。
宏樹は途中のゾンビを仕留めたかったようで
「せっかく射撃練習しようとしたのに」
とか言ってるから、逃げ出した理由を説明した。
「銃を撃ってゾンビを倒すのは賛成だが、その音に惹かれてゾンビが集まったら練習じゃ済まないんだぞ?」
と言ったら「ああ、ナルホドな!」と妙に納得していた。
とりあえず玄関から武器弾薬を入れると鍵をかけ一段落。
…する前に、俺は二階に駆け上がり縄梯子を引き揚げシャッターを閉める。
シャッターを閉めると未だ昼前にもなっていないと言うのに部屋は夜間のように暗くなる。
それもそのはずで、隙間と言う隙間を埋めて光が漏れないようにしているからだ。
夜間に光が漏れてたら"生存者が居ますよ"と知らせてるようなもんだし。
でもまだ電気も通ってるし周りの民家も電気が点いてる家があるからあまり意味は無い。
重い箱を二人で持ち二階に置く。
全ての箱を二階に持ってきてくたびれたがニヤニヤしてる宏樹と目が合い、ハイタッチする。
今日の収穫はデカかった!!
その日は自衛隊と避難住民のご冥福を祈りながら、笑顔でビール片手に久しぶりの乾杯をした。
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