第9話:好奇心の始まり
調子に乗ったツケでストックが無くなり今週から週刊で頑張ります。
矛盾などがありましたら報告お願いします。
それでは続きをどうぞ
俺も好奇心に負けてしまった。
元々、石橋を叩きながら渡るタイプでもないし、遊びにも行き当たりばったりが多い俺たちだ。
そんな俺たちの目の前にぶら下げられた銃声と騒乱には敵いません。
しかし、いくら好奇心に駆られ行き当たりばったりに行動しても用心に越したことはない。
『好奇心、猫をも殺す』って諺もあるくらいだ。
俺たちは2階のリビングで作成会議を始める。
と言っても、もたもたしてたら騒動が終わってしまうかもしれないから迅速に注意事項だけを確認する。
「まず、アメリカ軍か自衛隊が何に対して発砲してるかを確認しよう」
宏樹は無言で頷く。
「あれだけ大きな騒ぎになってるからゾンビが集結してるかもしれない。初めてゾンビを倒すかもしれないぞ」
宏樹は眉間に皴を寄せ少し戸惑いながらも無言で頷く。
「基本、接近戦は避けてクロスボーかパチンコで倒すけど、極力パチンコを使う」
俺の言葉に宏樹は首をかしげる。
「何で? クロスボーの方が確実だし、練習にもなるぞ」
「クロスボーは次弾発射に時間がかかるし、当たったら致命傷にもなりかねない」
宏樹はさらに頭に『?』が浮かんでるようだ。
言葉足らずだったな。
何故ボウガンではないのか、宏樹の疑問に答える。
「…ゾンビを倒すのに何で致命傷とか言うのかって?」
「うむ」
「この暗闇の中で相手が確実にゾンビかどうか分かる?」
「うむ、わからん。」
無駄に胸を張りドヤ顔する宏樹を華麗にスルーする。
「夜間外出禁止令が出てるんだから基本、夜間に外出してる=ゾンビだと思うけど、人間だった場合、走って向かってくるかもしれない」
「うむ? 何で生きた人間が襲ってくる?」
「そりゃおめー、自衛隊に強制的に避難所に集められてたら脱げだしたくなるべ? 場合によっちゃ略奪者が現れてもおかしくないだろ」
「確かに」
「って事で、禁断のこれも持っていく」
俺は倉庫から引っ張り出してきたあるものを手にする。
「…マジっすか?!」
これとは、ガスガンの黒歴史と言われている時代に存在した、6mmベアリング弾を発射可能としたトイガンだ。
なぜこんなものが我が家にあるか?
簡単に言おう、警察に持って行っても何かもらえるのか?
そんな訳で、長年メンテナンスとは無縁だったのを今回の騒動で久しぶりに日の目を見た代物だ。
オイル缶に弾とオイルを入れていたのでベアリング弾に腐食もない。
ガスだって未使用品が3本ある。
ガスと言っても小さいCo2ボンベだが。
でも、劣化してたら怖いよね。
主要箇所は金属製だが、その主要箇所を支える側はプラスチックなのだ。
暴発したらどうなる事か…因みにパチンコの弾は8mmだから使えない。
何故最終兵器的な扱いかと言うと…うるさいんですよ。
発射音が。
しかも、長年の劣化でどこがどうなるか分からない代物。暴発や破裂して怪我なんかしたら…。病院に行けって?
今、一番危険な場所に行ける訳ないだろ~!
連射が出来るってだけで飛距離も無い、暴発も考慮すればもはや弱みしかないような最終兵器なのだ。
と、簡単な宏樹との漫才は手早く終了して話を続ける。
「パチンコが当たったら普通の人は最低限声を出すでしょ。ゾンビだったら何も感じないけど」
再び無言で頷く宏樹。
「で、最終兵器を登場させたら素早く撤収。OK?」
親指と人差し指の先端を合わせ頷く。
「ここから橋までは500m無いくらい。ご近所さんは強制避難して留守だから民家の壁伝いに最短で行こうと思う。目標は橋の手前のマンションの屋上」
「よし! 行こう!」
宏樹はやる気満々で玄関のある下に向かった。
「お~い、そこから出ないから!」
そう言いながら俺は2階のベランダへ出る。
宏樹は頭を捻りながら無言で俺の後ろについてくる。
少し電動シャッターを開けて2階のベランダに出る。
そこから縄梯子を下す。
宏樹も納得がいったような顔をしている。
実は騒動が起こってから、寝るとき以外は靴を履きっぱなしだったりする。
何かが起きても対応できるようにね。
でも、足が臭くなりそう…。
この案を宏樹にした時
「欧米か!」
と突っ込んできた。
その後色々ネタが始まったがここでは割愛しよう。
猫の様な足音を立てない身軽なフットワークで民家の横をすり抜け、壁を登り、すり抜け、壁を登り…
慣れない事をするモノではないね。
こんな短い距離で息が上がる俺。
そんなおっさん化した俺に対して宏樹はさほど息が上がっていない。
流石、職人さんは基礎体力が違うね。
運動不足の30歳おっさんサラリーマンには厳しい…。
帰ったら筋トレが必要だな。
まだ腹は出ていないが筋肉は確実に衰えている。
現場ではまだ断続的ではあるが発砲音が鳴っている。
それに合わせた怒号も。
俺たちは道路を警戒するように覗いていると、明らかに歩行がおかしい人影を見た。
日が沈み夜の帳が降りても、電気は生きているから当然のように街路灯も点灯している。
そんな普段と変わらない路地だから歩いている人の様子も分かる。
暗闇で見えるシルエットはゾンビ確定だろう。
ここで宏樹の方に振り返り、人差し指を口に当て『静かに』の合図の後、指をゾンビに向ける。
宏樹は無言で頷き様子を窺っている。
小競り合いの方は照明で明るくなっている。
明かりと騒音に誘き寄せられたのかゾンビが、1人また1人と道路を歩いているのが確認できた。
住民は強制避難してはずだし、何より映画やドラマで見たまるで絵にかいたようなゾンビウォーク。
あれを見てゾンビじゃないという方がどうかしてる。
そんな連中がチラホラ増えている。
こりゃ急がないと見学どころではない!
と言う事で歩行音に気を使いながら足早に民家の裏口を駆け抜ける。
直線距離にしての500mが異様に疲れる。
息も絶え絶えとはこの事か!
程なくして目的地であるマンションの非常階段に到着した。
真横で騒音をまき散らせてるんだから、マンションの渡り廊下や階段にはゾンビは居ないと確信を持って頭を低くしたまま非常階段を上り屋上に到着する。
7階建てのマンション屋上に到着し、乱れた呼吸を整える。
ここまで来ると騒音となっている騒動の内容(住民と自衛隊の会話)も若干聞こえる。
どうやら近所の学校に避難している人たちがアメリカ軍に何かの要求をしていた所らしい。
が、自衛隊が仲裁している中、アメリカ兵は暴動の恐れありと判断し威嚇発砲をしていたようだ。
住民もアメリカ兵が自分たちを撃つとは露程に思わなかったのか、結構強気の発言をしていたらしい。
暫く聞き耳を立てていたのだが、今までで一番長い射撃音が響き渡る。
すぐさま屋上の端から顔だけを覗かせると、アメリカ兵が押し寄せる民衆に向かい水平発砲している。
暗闇に慣れた目にはその光景がはっきりと見えた。
避難民と一線を画す……その独特な歩き方はゾンビだ。
民衆の後ろからゾンビが襲っている。
パニックに陥った群衆が自衛隊に詰め寄る。
自衛隊員がアメリカ兵に何かを言うがアメリカ兵は自衛隊の話に耳を傾けずゾンビと民衆に向けて発砲している。
厚着基地での動画でもそうだったが、ゾンビを撃退するために発砲も止むを得ないと命令が出ているのだろうか?
暫くするとこちらからは確認できないが、別の方からも射撃音が聞こえる。
どうやら、応援が駆け付けたようだ。
住民は70~80人程、アメリカ兵は20人、自衛隊は20人の混同小隊。
これだけ集まるとどこかの集会場のような喧騒だ。
アメリカ兵は橋の手前の交差点付近で銃撃している。
その銃撃音を聞くに、結構な数のゾンビが来てるんじゃないのか?
その射撃音で抗議していた住民も騒ぎ立てている。
しばらく射撃をしたのち、交差点チームと橋にいたアメリカ兵チームが合流し3台の車と自衛隊員を残し装甲車で撤収を始めた。
もちろん住民はガン無視だ。
いや「ファッ〇ンジャップ」とか言ってたから無視ではないか。
ファ〇キンジャップぐらい分かるよバカ野郎! って言って撃ちたい位、良い雰囲気ではないことは確かだ。
爆破した橋の近くに幌が付いているトラックが2台。
群衆が詰めかけていた場所にパジェロの様な濃い緑の車が1台。
装甲車の様な複数の車両はアメリカ兵が乗って撤収する。
ってか、住民と自衛隊員を放置して撤収ってありなの?
宏樹が右手で車の方を指さした後、鉄砲のジェスチャーをする。
俺も頷く。
見るからに自衛隊か米軍の武器が在ると主張するトラック。
しかし、アメリカ兵が逃げた後は大惨事だった。
銃声や騒音に集まったゾンビ。
アメリカ兵が倒したというより引き寄せた感がある。
集まってきたゾンビに食われる住民。
喰われる自衛隊員。
残った自衛隊員たちは集まってくる『暴徒』に威嚇発砲と注意喚起しているが、そんな事はお構いなしにと自衛隊員に喰らい付く。
自衛隊にしてみたら守るはずの『自国民』に喰われる状況は凄惨で悲惨だ
最後まで国民を守ってくれた自衛隊員に敬意を捧げます。
「はぁ、こりゃしばらくここから動けないな…」
屋上に大の字で寝そべって煙草に火をつける。
「しっかし、アメリカ兵って何のために日本に来てるんかね? 全く意味ないどころか邪魔者だな」
宏樹もアメリカ軍の暴挙に愚痴をこぼしながら煙草に火をつける。
「しかしフ〇ッキンキンジャップってなんだよ」
マンションの下では夜空を切り裂くような悲鳴が轟いている。
横では宏樹の愚痴が止まりません。
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