第5話:終わりが始まった
サバイバルホラー…やっぱり謎解き?
いやいや俺にはそんな高度な小説書けません。
翌朝。
ドン! と轟音が響き渡り目を覚ました。
流石は職人。
宏樹は既に起きていたようで屋上で様子を窺っていたようだ。
えらい勢いで階段を駆け下りてくる。
「おお! 起きてたか!?」
「ああ、今起きた。と言うか凄い音で起こされた」
「俺、屋上で様子を見てたんだけど事故だよ! しかも、複数個所で事故や火事も起きてるみたいだな」
俺も辺りの様子を窺うべく手にはペットボトルのお茶を持ち屋上に上がる。
野次馬根性丸出しで事故のあった方を見ると…
「あ!」
宏樹が驚きの声を上げる。
先程、事故を起こした運転手が被害者? らしき人物を介護していたのだろうが、その被害者がゆっくり上体を起こすとそのまま運転手に襲い掛かった。
電車で起こった事が走馬灯のように思いだされる。
そのフラッシュバックに心臓の鼓動が激しく脈打つ。
「あ! あれ! お、ちょ…ま!」
それでも慌ててる宏樹を見ると何故か冷静さが戻ってくる。
「いや、落ち着けって」
俺は冷静さを保つために口にお茶を含む。
「う、うわ、マジかよ…やばいよ…いや、マジで、うわ、マジで!」
が宏樹の動揺しかない言葉に含んだお茶を思わず吹き出してしまった。
「何でさっきから出川のモノマネしてるの?」
こんな時に何を呑気に! と眉間に皴を寄せた宏樹だったが、宏樹は自分の言ってた言葉を頭で整理すると
「や゛は゛い゛って! リアルに!」
と、本格的にモノマネに入ったのだが二人とも声を揃えて「「似てない」」と落ちが付いた。
ネタが落ちた所で、冷静に宏樹が事故現場の方に指を向けるが動揺が隠せず絶句している。
その様子に電車で起きた出来事を再び説明する。
「だから言っただろ?」
「でもよ…」
「まぁ落ち着けって」
そう言うと俺は懐から煙草を取り出し箱から1本伸ばす。
宏樹も煙草を1本抜き取ると震える手に煙草を持ち火をつける。
ついでに俺も煙草を咥え紫煙を立ち上らせる。
宏樹は落ち着かせるためなのか頻りに煙草を吸っている。
フ~…
ハ~…
あっという間にタバコが吸い尽くされる。
余りにも短時間で吸いすぎた為、煙草の先端には長い火種を残し持つ手に熱が伝わる。
その間にも、運転手や事故を処理を手伝っていた人が複数人噛まれているようだ。
最初に噛まれた運転手は首筋を喰いちぎられていたようで早々にゾンビとなって別の人を襲い始めている。
こんな近場でゾンビが増える必要もないのにな~と心の中で呟く冷酷な俺が居た。
宏樹も落ち着いてきたのか、会話が出来るようになってきた。
「ぐ…グロいな…」
我が家はメイン通りから1本入った路地沿いに建つ。
本来は家などが立ち並ぶとメイン通りの様子なんか3階建ての屋上からも分からないのだが、ここは都下の田舎町。
しかも川沿いでもあるから未だに家よりも畑が多い。
そんなメイン通りから100m近くは離れていても、首から血を流し洋服が真っ赤に染まる光景は否応にも確認が容易だ。
「な? 慣れが必要って言っただろ?」
「ああ、俺もグロ慣れしとけばよかった…」
「だから言ったじゃん、ってなんだよグロ慣れって。ま、この世に絶対は絶対ないって」
「だからそれ矛盾してるってw」
宏樹は大分落ち着きを取り戻し、いつも通り半笑いながらツッコミを入れてくる。
「どうする? パチンコかクロスボウで倒す?」
「いや、ここから撃っても当たらないと思うし、その前にここから撃って届くのかな?」
ここから事故現場まで少なくとも100m近くはある。
正確に測った事は無いが1ブロック分と大通りを挟んでいるのだしもしかしたら100m超えているかもしれない。
スリングショットでも届くだろうが的に当てるとなると別問題。
クロスボウでも100mを直進するか分からないしあんな遠い的にスコープも無く正確な射撃なんて出来る訳も無い。
それに買ってからまだ一度も試射してないんだぞ?
それでも宏樹は目をキラキラさせながら
「クロスボウだったら、届くんじゃないか?」
と進言してくる。
確かにクロスボウだったら届くかもしれない。
しかし、初めての射撃で100mからの距離で約30cm四方の的(ゾンビの頭部)に当てるなんて射撃の才能が有っても無理だ。
主人公都合主義の映画だったら当たるかもしれないが、俺達は主役補正も無ければ射撃性能Dランク以下の村人A&Bだぞ。
普通に考えて明後日の方に飛んで終わり。
ってか宏樹はクロスボウを撃ちたいだけだろ。
「いや、やめておこう。あのパニックの中心に行くにもリスクがあるし、仮にゾンビを倒しても今度は『人殺し』とか言われそうだし」
「あ~だな…助けてやったのにそんな言われたら、殺意しか湧いてこない」
簡単に言えば見殺しを決め込んで様子を見ていた。
あれよあれよと7~8人は噛まれたんじゃないか?
事故現場がコンビニの前という事が災いした。
様子を見ていた人たちも最初はスマホとかで撮影していたが一目散に逃げ出した。
あ、1人、戦場カメラマン宛らにスマホで撮影してるぞ?
あ、後ろから来てる! 後ろ! 志村! 後ろ!!
あ~…お約束ですか?
お前が喰われたら誰がその動画を見るんだよ。
そんな誰も見ない動画の為に命を捨てるなんて…なんて奇特な人なんでしょう。
ってか、遂に家の周りにもゾンビが発生しだしたな…。
周りを見ても煙が上がってたりするし、既にコンビニとかも品薄状態っぽいな。
いよいよ混沌としだしたぞ。
なぜか先行き不安な気持ちと、混沌と化す未来への羨望にドキドキが止まらない。
そんな自分を『俺って終わってるな』と冷静な自分が評価する。
ゾンビは人間に群がりお食事に夢中。
俺は『どうかこの家に来ないで下さい』と祈る。
「…下でTVでも観ようか」
「そうだな。ネットで情報も仕入れなきゃダメだし」
「そうそう、ついでに農作の方法も調べてね」
「…どこでやるのよ?」
「この調子で何も事態が好転しなければ、どこかの山奥で…かな? もしくは無人島?」
「マジか~。ところで、太刀川基地とか縦田基地とか行かね?」
太刀川基地とは太刀川駐屯地と呼ばれる航空自衛隊の駐屯地。
縦田基地は日本最大級の航空自衛隊と米空軍の基地。
「え? まさか助けてもらいに行くの?」
俺は宏樹がそんな事を言うなんて"予想外だ!"って面持ちで宏樹を見る。
「いやいや、武器の調達だよ」
その言葉に俺は"安定な宏樹さん"で安心した。
確かに武器は欲しいのは事実。
ボウガンだのパチンコだの違法空気銃だの何の気休めにもならない。
やっぱり実銃が欲しい。
しかし…
「その事なんだけど、後2週間位経ってから行こうと思ってるんだよね」
「何故に2週間?」
「ほら、米軍輸送機がさっきから引切り無しに離着陸してるでしょ」
縦田基地はここから6km弱に位置している為、飛行機の離発着時は結構うるさい。
その昔は騒音問題などで度々世間を騒がせたこともある。
「最近、また随分飛行機の往来が激しくなったと思わない?」
「あ~…わかんね」
「そうだよね。チミは現場から帰って酒飲んですぐ寝ちゃうもんな」
「まぁ、大人の嗜みってやつ?」
宏樹は余裕ぶった表情でグラスを傾ける仕草をする。
「…まぁいいけど…最近は夜も結構飛んでたんだよ。もしかしたら、軍上層部はゾンビを知ってたんじゃない?」
「あ~ありえる」
「そう考えると、日本の政府とかも知ってた可能性があるね」
「あ~相変わらず政治家は…」
「もしかすると、報道はされないけど空母とか来てるんじゃない?」
「あ~横須賀行ったとき1度見たっけ~ありゃデカかったな~」
「んで、もしかしたら、八丈島とかあの辺の島を拠点にしてる可能性があるね」
「え? 八丈? おじさんが住んでんだよな…こんど電話してみるか」
「…だね」
そもそもその頃には世間様は大パニック状態ですから。
「って事は、八丈は無事って事か?」
「どうだろうね? 後は、離れ小島とか無人島とか、日本にも結構在るらしいよ」
「あ~最終拠点は無人島が良いな~」
「まぁ…暫く先だと思うけどね」
「無人島か~夢が広がるな~」
何の夢が広がるのか…。
当面は悪化するであろう状況を生き延びねばならんのだぞ?
「ま、殺気立った軍人のところに行っても最悪、暴徒と勘違いされて撃たれたらシャレにならんよ」
宏樹はタバコを吸いながら"うんうん"と頷く。
「それに2週間後だったら騒動も大分広がってるし、その頃には米軍も本国に逃げてるんじゃないか?」
「確かに!」
「何にせよまだまだ騒動が始まったばかりなんだし、気楽に生き残ろう」
「よし、引き籠るか」
スタスタと階段を降りるとリビングで寛ぎビールを開ける。
宏樹は完全に引きこもり準備に入った。
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