第3話:始まりの準備
3話連続の投稿です。
こんなに貯金を使って後が続くのか?
後が怖いです。
今までの話はどうなった?
皆さんはそう思う事でしょう。
私もそう思います。
ハイそれでは続きをどうぞ。
宏樹の作業車兼自家用車に乗り込み俺の家へと向かい車を走らせる。
道は朝の混雑が一段落したかのように、問題も無く道路をひた走る。
但し、緊急車両が高頻度で通る為、大通りはなるべく避けていたと言う理由もある。
道中、思い立ったかのように途中のホームセンターで電池と水を大人買い。
太刀川付近まで帰ってきた時だった。
宏樹は「あ、アンガス行こう!」と言い出した。
アンガスとは、昔は猟銃などを扱っていたのだが、最近は電動ガン主体の銃砲店だ。
生憎と俺たちは電動ガンや規制前の凶悪ガスガンは持っているが、銃砲所持許可状や猟銃免許なんて持っていない。
スタンガンなんて持ってても意味ないし、まぁ持ってるけど。
ナイフだって…持ってるから今さら感はある。
ナイフの使い道なんて今までは海釣り行った時に捌く用だったけどね。
あるとすれば、パチンコかクロスボウ辺りだけど…まだ売ってるのかな?
一抹の不安をもってアンガスの前に到着した。
ここに来たのなんて、何年振りだろう?
俺達は少し凝り性なところがある。
特に宏樹は俺の上を行く凝り性だ。
ガスガンを買えば威力を最大限まで上げる為のカスタムを行い、電動ガンを買えば威力を最大限まで上げる為のカスタムを行う。
当然、外観用カスタムも同時進行な訳だ。
レーザーサイトにスコープにライトにと…カスタム出来る所はトコトン弄る。
それを人に向けて撃つことをしないのは俺達に残された良心。
規制なんて何のその。
1ジュールってなに? 美味しいの? ってな感じですよ。
そんな電動ガンを買ったのって…もう10年近くなる。
そんな訳で久しぶりの入店だったのだが
あ! パチンコもボウガンも売ってるよ…
あ、俺?
あ、はい、買います。
こんな簡単に買えちゃうの?
公園の鳥や猫たちに向けて撃つ輩だって買えちゃう世の中って…でもトイ銃はダメって?
何か、イマイチ意味が分からない。
銃刀法って何気にザルだよね。
どちらも人を殺せる武器に替りは無いんだがね?
とりあえず、矢はイッパイいっぱい買いましたよ。
ええ、パチンコの玉も買いました。
大人買いです。
紙幣がケツ拭く紙にもならない時代がすぐそこまでやってきてるかもしれないのに、ケチってどうするんですか。
身の危険が、命が金で買えるなら安いものです!
ああ、支払いはカードで。
店を出て俺の家に向かう間に、パトカーや消防車、救急車を頻繁に見かけるようになってきた。
大通りでは既に渋滞が発生している。
何故か近所の裏道に詳しい宏樹に運転を任せ帰宅の途に就く。
え? 私たちの親兄弟ですか?
私の親兄弟親戚一同みんな北海道民です。
俺が21歳の時、親と妹は北海道に移住した。
元々親は北海道民だったし、妹も高校を卒業してすぐの頃だし北海道生活に憧れていたからさっさと引っ越して行った。
しかも道民と言うよりは無人島かと疑いたくなるような島への移住。
東京を離れるとき「田舎生活がこれからのトレンド」とか豪語してたな。
そして俺だけがなぜか東京に家を買ったのであります。
それも23歳の時に。
え? 嫁? 居ますよ。α'sってアイドルグループの希って…え?
アニオタ? なにそれ、美味しいの?
因みに宏樹は同じグループのニコが嫁です。
どうやら彼はチッパイが好きなようで、でもロリコンじゃないらしい。
そして親は青森に住んでるのです。
五所川原の方に。
宏樹の親も同じように宏樹の弟の高校卒業と同時に引っ越して行った。
その頃の宏樹は親のペンキ屋さんを手伝ってたのだが、なぜか俺が経理とか発注用プログラムを作ってからは、宏樹がペンキ屋を切り盛りしてある意味、独立していた。
宏樹に殆んど仕事を任せ、弟が高校を卒業すると同時に青森に行くことにしたそうで…。
んで宏樹の親たちも一度は五所川原に移ったのだが僅か半年で俺の親が住む島に移住した。
五所川原を離れるとき「田舎生活がこれからのトレンド」とか豪語してた。
一見、貧乏そうに思えるのだが実は小金持ち。
俺と宏樹がある程度、高給取りとなったおかげで優雅な仕送り生活をしている。
子供に纏った金を貰ったら田舎に帰るって流行ってるんでしょうか?
まあ、贅沢な事は一切していないようで自分たちの食材は貰いモノと自分たちが育てたもので賄ってるらしい。
因みに俺の親と宏樹の親は仲がいい。
父親が共に塗装業という事もあり互いの現場で作業していたし、古い仲でもある。
そんな訳で東京では衣食住には困らない気楽な独身貴族であり、親兄弟も金に困らない生活を送っている。
今回の騒動に対して事前に危機感を覚えたので念のため、家族や親戚には気を付けるように連絡はしておいた。
しかし仕事を休んだのを咎められ、半ば説教を切り上げるように電話を切ったのだったが。
宏樹の方も同じような感じだった。
当たり前だよな、まだパニックは起きてないんだし。
しかも、北海道の離れ小島の田舎だったら、パニック自体起こらないかもしれない。
そんな中で、ゾンビが登場するから逃げろとか、避難してって強く言っても、ついに頭がおかしくなったか…と思われるのがオチだ。
でも、パニックが起きてから行動しても遅いんだけどね。
例えゾンビが発生したとしてもあの離れ小島であれば島民数も数十世帯。
観光で島に来る奇特な人も居ない。
ゾンビが泳げるとか海底を歩くとかなければある意味俺たちより比較にならない程に安全だろう。
そして、他の友達をどうしようとなった時、俺は残酷な決定を下す事となる。
簡単に言えば放置プレイだ。
お互いの友人を集めてコミュニティを形成する事だって出来る程度に知り合いはいるが、これから起こるであろう極限状態で大人数。
全員が同じ意見になる訳がなく、自ずと衝突が起きるだろう。
しかも各々が主義主張とか癖とか強いし。
そう言った場合、極限状態になった時に足の引っ張り合いで全滅も考えられる。
その事を宏樹に言うと妙に納得していた。
確かに人数が多ければ役割分担も出来て楽になるのは分かるが、違う危険も孕んでくる。
俺たちは小学生のころからの腐れ縁で、言葉に出さずとも大体お互いの言いたい事や、やりたい事は想像つく。
そして、俺たちは基本、『良い人』ではない。
かと言って『悪い人』なのかと言えば、そうでもない。
進んで良い行いをするわけでもないが、進んで悪い行いをするバカとも違う。
まぁ、簡単に言えば、『やりたい事』に善悪は関係はないだけで『極悪外道』とは違うとだけ言っておこう。
女が好きで風俗には行くがレイプはしない。
そんな、当たり前の常識人って程度だがね。
家に帰ってきて、クロスボウの説明書を見ながら、お昼のワイドショーを見る為にTVの電源を入れる。
放送されている内容はと言えば、メインは芸能ニュースだったり国会での与野党の言い争いの論点だったりと、まだ大きく扱ってい無いようだ。
時折、暴漢が複数個所で暴れているとか、電車内のトラブルで病院に搬送されたとかを放送していた。
暴漢はヒステリーを起こしているらしく、しかも、各地で多発しているという。
襲われた被害者も搬送先の病院で錯乱状態に陥り、医師や外来患者を襲ったとかも放送しだした。
これ、もう完全にゾンビが襲ってるんだよね。
うん、間違いない。
しかし、ここ日本は世界で有数の法治国家。
病人を殺す発想はまずない。
例え、『狂って』いても、『人間』ではなくても。
人間の定義は分からんが、『人の形』をしていれば人間とみなされ保護される。
「相手はゾンビだから発見次第、射殺するように!」
なんて政治家が発言する訳でも、幕僚や高官が言う訳がない。
そんな思い切った指導者が国のトップに居るのなら、この国は世界を凌駕する理想郷となっているか、荒廃一歩手前のどちらかなはずだ。
ある意味荒廃に近い面もあるが荒廃はしていない…と思う。
そも、目の前で動いている人間をどうやって「死んでる」って判断するのか?
そんな事は誰にも出来ないだろう。
動画サイトには噛まれた後の様子を撮影した動画も配信されていた。
故意なのか、偶然なのかは不明だが、その動画では2日後にゾンビとなったようだ。
他にも、処刑動画には、強引に噛ませている動画もあったが、その動画では噛まれてから最短で1~2分ほどでゾンビ化していた。
俺の見たのは数十秒程。
と考えれば、心停止か脳死に至るとゾンビになるようだ。
それらの動画から推測するに恐らく、あと1日で病院は壊滅する。
警察が動いて1日~2日は辛うじて常識が通用するだろうが確実に全滅して混沌とするはず。
しかし、緊急災害派遣で自衛隊が派遣されたとして…既に、崩壊の序章は食い止められないだろう。と俺は予想した。
すでに事が、各所で起きているからだ。
警察官が25万人。
陸上自衛隊が10万人。
海上自衛隊が4万人。
航空自衛隊が4万人。
他に予備自衛官、即応予備自衛官、防衛大生などが居るが9万人程。
防衛省職員や幕僚などは数に入れないとして実質、現場での初動は10万人も居ないだろう。
居たとしても、災害の元凶は人間と見分けがつかないゾンビ軍団。
その中には顔見知りから友人から親族も居るだろう。
物語の主人公のように主人公補正を持っていたら生き残る可能性大だが、一般人にゾンビを倒す心構えなんかある訳がない。
もしかしたら、自衛隊の幕僚や政府高官たちは事前にゾンビを知っていて、既に避難と言う名の「逃げ」を完了しているのかもしれない。
日本の警察が優秀で、自衛隊の強さが世界4位であっても…1億人をどうやって救う?
しかも日本各地で、襲っているのは武装していない元一般市民だ。
そりゃ当然『無理』な話だわ。
当然、警察内部、自衛隊内部からもゾンビは発生する。
その事を踏まえると1週間で日本は完全に無法国家となるはずだ。
「今のうちにアインズホームで必要な物資を集めちゃおう! できればコスココとかで、大量購入したいけど…」
「そうだな。でも、コスココまで行くのは無理があるだろ。遠いし、途中でパニックが広がって大渋滞とか。……こんなに事を重く見てるのって俺たち位かな?」
意気揚々と話していた宏樹が苦笑いで俺に問いかける。
「どうなんだろうね? まぁ、少なくともあんな動画を好き好んで観る人なんて少数だし、そこから更に本物と判断できた人は日本で何人いるんだろうね?」
「そんな確率か。まぁ、ワイドショー観てゾンビパニックが起きてるとも誰も思ってないだろうしな。よし、騒動になってない内にアインズ行こう」
「まずは、ポリタンクと水と、そう言えば、雨水とか川の水を飲める水に濾過するのもあったよね」
「ああ、有ったな。後は携行缶だな。」
「あと大ハンマーとワイヤーカッターと…」
「大ハンマーなんている? ゾンビ倒すにしては大げさすぎないか?」
「いや、対ゾンビじゃなく、自販機とかガソリンスタンドとか色々とね」
「なるほど~。さすが先生だ」
「そんな事は良いから、早く!」
「おう!」
俺達は、これから起こるであろうパニックと人類崩壊の序章に少し興奮と不安が入交りいつもより饒舌になっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アインズに着いても平日の昼過ぎだし、人はそんなに居なかった。
「これなら、イスパに行って食料も買い込めるね」
本当はフォレストタウンと言う名の複合商業施設内のスーパーマーケットの名称なのだが。
「そうだな。あ、俺ミス・ドーナッツ喰いたい」
「はいはい。買い物が終わった後でね」
隣にアインズに隣接しているイスパにも、主婦がちらほら買い物をしている程度だった。
思った以上に閑散として、平日の昼間とはこんなに買い物が楽なのか! と思った。
買い物が終了したら、軽トラに必要物資で満載となった。
水に保存食に缶詰に…2人で生活するのに何年分あるんだよ?!
恐らく、人類史上初となる(かもしれない)未曾有の大惨事に少し変なスイッチが入ってしまい、金の事なんて何にも考えて無かった。
ご意見やご感想もお待ちしております。
あと、矛盾とかあったら教えてね。