第1話:始まりは突然に、でもない。
ハイ始まりました。
新章です。
ここからしばらくは主人公が変わります。
チートも出てきません。
…しばらくは。
それでは第3章の開幕です。
俺はかつて幾人もの勇者が思いを馳せ憧れた大空を呆然と眺めている。
その空は、今まで生きてきた内で何度も見た事がある空なのだが、今まで生きてきた内で目にした空とは明らかに別物だ。
そう、明らかに色が違う。
人類の息吹が感じられないと、空とはこうも蒼いものなのかと溜息が出る。
人類。
嘗て進化の最高位の種して万物の霊長と豪語し、神が自身を似せて人間を作ったと思い上がった思考を持った愚かな種。
実際、脳の進化と長距離移動以外に人類が他の生物に勝る個所は無い。(適当)
「はぁ、人類は空も飛べないくせに進化の最終到達点ってよく言ったもんだよな~」
「おっと? 先生はまた難しい事を考えておりますね?」
ここには以前と変わらず安心があり不安があり笑いがある。
俺たちは、どんな状況でも最終的に笑って死ねたらいいと思う。
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毎朝の光景
9時頃の電車に乗る為、いつもの昇降口で電車を待っている。
俺が務める会社は10時出勤と比較的遅い時間のおかげで、ラッシュ時間が落ち着き比較的乗客が少ない時間帯であり座席にも座れる(場合もある)。
いつもの乗車位置で待っていると、挨拶こそ交さないが見知った顔が横に並ぶ。
いつもの電車でいつもの座席に座る。
約10年も過ごしてきた、ごく有触れた日常だった。
この日までは…
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―――事の始まりは約1か月前に遡る。
嘘か本当か見分けがつかない怪しい動画サイトの一つ。
ある過激派組織の残酷な処刑動画の並びにその動画のサムネイルがあった。
普通の人があまり見ないであろうグロ系な動画まとめサイトだ。
何でこんな動画サイトを見ているのか。
正直自分にもよく分からないし、このような動画サイトを見ていると時々自分でも鬱になる。
友人であり同居人に「うわ、キモ! 何でそんなサイト見てるんよ?」と言われて即答するのは大体決まっている。
「いざと言う時の為に慣れとかないとな」
半ば呆れるような口調で「で、そのいざって時はどんな時よ?」
「…ん~…戦争が起こった時とか、ゾンビが出たときとか?」
「いや、両方とも起きないし!」
「いやいや両方とも起きないとも限らんだろ」
「いやいやいや絶対起きないって!!」
「いやいやいやいや、この世に絶対なんて絶対無いんだぞ?」
「いやいやいやいやいや、既に矛盾してるしw」
って笑いあう訳だ。
こんな会話を30歳も過ぎて笑い合っている俺たちは、恐らく中学生の頃から全く変わってないんだろうな。
変わっていないと言うか成長していない―――精神的に。
そんな30歳でも無駄知識だけは豊富にある俺(武志)と悪友(宏樹)の友情物語。
いや、違った。
残酷物語…友情物語でもない。
自由奔放スローライフって言えば良いのか?
異世界だったら何てファンタジーでロマンあふれるのだろうと思うが、リアル世界でもロマンあふれる世界になった。
話を戻そう。
そう、そのグロ系まとめサイトで見つけたある動画。
そこに映ってるのは、死体になりきれてない死体を解体している動画。
黒人の首から下を人体解剖模型の様に切開していく動画だった。
俺の率直な感想は「良くできてるな~」だった。
俺は基本的にゾンビ映画を見ながらステーキを喰えるほどグロに耐性がある。
本物のグロ動画だったら流石に何かを食しながらは閲覧できないが映画と言う作り物と認識しているのならグロとも思わない程に。
その動画は、四肢を切断し臓器を摘出し、簡易なテーブルに並べられていく様を映していた。
そして、血液は殆んど赤黒く、静脈血よりも黒い。
臓器も殆んど白色化もしくは黒化しており、専門家が見ればうっ血、もしくは貧血、もしくは機能不全と分かるような。
だからか、鮮血とは程遠いほどに黒い血液のせいで逆に作り物っぽく見えていた。
しかし、最後の方で顔面の解体が始まると、とても作り物に見えなくて一生懸命に粗を探そうとする。
空洞となった腹部から覗く背骨が微かに動く。
切開されながらも動く眼球。
硝子体が濁っているのか黒目の部分が白く濁っている。
下顎が既に取り除かれており、切除されていない眼球が縦横に動き、頬の辺りがかすかに動く。
見ていて「あ、やっぱりこれは作り物か」と思った。
ホラー映画の宣伝用なのかな? ってね。
だって、動画の中盤辺りで内臓が全て摘出されてるんだよ?
当然、心臓だって摘出済な訳だが…摘出時には既に心臓は鼓動を止めていた。
まぁ、演出だろうか摘出前の心臓と動いている顔を何度か交互に映してたっけ。
医者じゃないから専門的な事は分からないが、麻酔で痛みを止めれば臓器摘出も可能だろうし、四肢切断も可能だろう。
しかし、現実には全身麻酔を行うのが通例なはず。
局部麻酔をいちいちやっていたのでは、患部によっては術中に麻酔が切れる事もある。
当然、麻酔の切れた状態で、臓器も四肢も無い状態であれば御臨終確定。
しかも、局部麻酔で心臓も停止している状態で何で顔が動くのよ?
そんな動画を見ながら、同時に不安がよぎる。
―――本物だったら?
そう思わせるのが、こう言った嘘か本物か分からない動画の本質だし、そういったまとめサイトでもある。
それは、グロに留まらず、心霊物やUFOやUMA等、超常現象を題材にする動画は全て嘘か本物か分からない動画だ。
精巧に出来てる場合はCGをまず疑う。
何十年も前の映像だったら人形か? と疑い、何年も前のCG技術だったらそれこそ金と時間を大量に消費してすぐにばれてしまう代物だったが、最近の技術力……と言うよりは、CGを作るソフトが進歩して多少の知識と技術があれば作れる。
しかも、多少3DCGソフトの扱いが出来ればそれなりのものが作れてしまうのも事実。
そして、嘘か本当か分からないそれを楽しみで見ている人もいる。
しかし、1週間後。
アフリカ方面から初出し動画で同様の動画が増えてきた。
フラフラと病的に彷徨い歩く人をライフルで撃つ動画や、首だけの動画など。
中には噛みつかれ、喰われる人の動画まで出始める始末。
元々、事故現場や虐殺などのグロ系が多いまとめサイトだっただけに、あまり見向きはしなかったのだけれど…
他のまとめサイトにも上がってくるようになった。
この手の動画は最後にどっきりで終了するのが定番なのだが、それらの動画は落ちが無い。
流すだけ流して動画時間が終了するのが殆ど。
それでも昨今のゾンビブームに乗っかり、明らかにCGと分かるものから特殊メイクを駆使した昔懐かし動画まで散乱する。
当然、誰もが本物と思わず、動画の粗を見つけては「〇〇だから偽物」とか「○○の場合はこうなるから嘘」と結論付けた。
しかし、2週間もすると、朝や昼のワイドショーでも全世界規模で新種の狂犬病が流行と放送しだした。
これだけなら世界規模で狂犬病が流行って事で終わるのだが…
幸いにも俺は以前、CSのある番組で『ゾンビ現象は狂犬病』という番組を見た事があった。
その事から、以前見た『ゾンビ系グロ動画』は本物なのでは? と考えるようになったんだ。
いや、言い方がおかしいな。
偽物の中にも本物が混じっているのではないか? と考えるようになった。
俺は普段から『ゾンビが出現したら的妄想』に憑りつかれている。
それはある意味病的なほどにドキドキしながらワクワクしている自分が居る。
幼少期に見たゾンビ映画でトラウマになり、そのトラウマを刺激しながらもワクワクするそんな子供だった。
そんな子供も成人して大人になったら…基本変わらない。
近くの大型ショッピングセンターに行っては、従業員以外立ち入り禁止のバックヤードだったり、階段や通路、果ては天井などを眺めてどのように逃げ出すか、もしくは立て籠もる方法を妄想する。
妄想はあくまでも一瞬なので、立ち止まり考えたりはしない。
本気で考えていたら頭が逝っちゃってる人だからね。
それでも、田舎者丸出しのように建造物をキョロキョロ見渡す癖は抜けない。
そんな訳で、俺が本物なのでは? と半信半疑となっている動画を悪友の宏樹にも見せてゾンビが蔓延するかもしれないと忠告した。
当然、その時の宏樹は本気にもしなかった訳だがな。
今までの剣と魔法のファンタジーから一転。
謎解きはしませんがサバイバルアクションホラーとなります。
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