第114話:破滅の魔王(中)
遅くなりまして申し訳ない。
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死ぬかと思った特訓も終わり、何だかんだでまだ生きてる。
これを奇跡と言わず何と呼べばいいのか。
第一の奇跡は何と言っても槍で刺された事だろう。
刺されたと言って生きてるのも不思議だと思う。
だから奇跡なのだ。
しかも指先に針を刺したというレベルではなく、完全に心臓を貫かれた致命傷なのだ。
でも生きてる。
二度目だがこれを奇跡と言わず何と呼べばいいのか。
アル曰く、肉体的には死んでるらしい。
そう言われてミーシャは"は?"って顔で俺の頬を抓りやがった。
あのバカ猫!
痛みで確認するなら自分の頬を抓れば良いものを、滅茶苦茶痛かった。
その様子をみてバカ猫…ミーシャは半信半疑だったのだが、この痛みは"名残"だそうで。
本当は精神生命体に痛みは無いらしい。
それでも見習い精神生命体だから痛みが感じられるという事の様だ。
ま、他の世界に飛ぶにも肉体がある方が都合が良いらしい。
他の世界に飛んでもやることは同じ。
今まではアリスが魔王をやっていたが今度は俺たちがその世界での魔王になるという事だ。
精神生命体が肉体に依存せず生きていられる世界は決まってるらしく、この世界に留まっていたら精神が拡散してしまうらしい。
それでも死ぬわけでは無く、精神だけで生存できる世界に拡散した精神が辿り着けば復活するらしい。
それでも運が良ければ数百年、普通は何千年もかかるらしい。
しかも精神生命体と言っても見習い?なのでその世界で生きるのも大変らしい。
詳しくは聞かなかったが、とにかく大変らしい。
で、そんな死なないという都合の良い状態だから早速、死なない特訓。
これが第二の奇跡。
本来だったら死んでもおかしくない攻撃を何度受けても本当に死なない。
精神が定着している肉体が復活すればどんな状態でも生き返る。
生き返るって表現は正しくないな。
何だろう。
寝てるのに起きてる感覚と言うのか。
体は動かないが意識はある。
簡単に言えば金縛り状態と言えば良いのだろうか。
しかも肉体を治すのは自分の意思一つ。
だから手足が欠損しても治せる。
最悪、頭が無くなっても意識はあるから治せる。
三度目だがこれを奇跡と言わず何と呼べばいいのか。
そんな状況だから文字通り死なないような特訓ではなく"死なない特訓"なのだ。
そんな状況に置かれれば成長しない方がおかしい。
筋力や反応は短時間に鍛えるのは難しいが、精神は鍛えられる。
そりゃ何度も死を経験すれば鍛えられるか。
常人だったら精神が崩壊しそうだろうが、アルが言うには、このくらいの特訓で精神崩壊する精神は精神生命体に成れないという事だ。
本来は何度も生と死を繰り返し成長し熟成された|精神(魂)が成れる境地という事みたいだ。
ついでに言えば特訓した環境も奇跡と言えるだろう。
ただ単に魔力の防御壁と思っていたスフィアにあんな使い方があったなんて…
アルに原理を教えてもらったが遂ぞ理解できなかった。
重力を強くすると時間の流れが遅くなるってどういう事だ。
スージーやイーサ、ノルンは理解してるようだった。
当然、アイリスとアリスも。
俺を含めてハッシュやミーシャは頷いているだけだったが。
そんな訳で精神も肉体も限界以上に鍛えられたのだ。
アイリスに出会い、何度限界を超えたか分からぬほどだったが今回の特訓で完全に自分の限界を知ったつもりだった。
でもその限界と思った状態でもスタートラインにギリギリ立てた段階らしい。
神が降ろす勇者に対抗するには十分だが、神を相手にするにはアイリスやアリスのレベルでも足元にも及ばない。
アルやカインに特訓を教授してもらった時は二人の足元にも及ばず、カノンに至っては遊び相手にもなっていない。
カノンは文字通り化物だ。
アイリス曰く"あいつは化物"と言っていたのだから俺の印象は間違っていない。
そんなアイリスも転生する前はアル達と同じ強さだったと言う事だし、俺たちも強くなるらしいから自分が限界と感じた所は全然限界じゃないと知った。
俺一人では限界と思った所で俺の成長は止まるが、仲間が居ることで俺の限界は遥か彼方の頂きとなる。
アイリスとアリスがその頂きに導いてくれる。
これが本当の奇跡だ。
だからなのだろうか。
精神的困難と感じることも乗り越えられる。
例え全人類と敵対する事になっても。
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仮想世界が賑わっていたとだけ言っておこう。
俺たちが最初に行ったときは彼方まで広がる大草原だったのに、今じゃ普通の世界でした。
俺たちは仮想世界って分かっているが、この世界に来た人たちには分からないだろう。
自分たちが一度死んだことも理解できないのも無理はない。
魂は浄化され争いのない世界。
正に理想郷であり桃源郷だ。
この世界で殺生は無い。
人間も動物たちでさえ争う事は無い。
アスラ(仮)によれば、魂の状態での消滅は本当の無に等しい。
だから今現在では魂の消滅を招く争いは起きないようにしてるとの事。
この世界の人は魂が勘違いを起こすように操作している。
肉を食べてもそれは生物を殺して得た肉ではなくアスラが用意した食べ物らしい。
野菜も果物も全て仮想食料。
魂が衰えなければ問題ない。
しかし心に染み付いた食欲と言う本能には逆らえない。
食べなくても良いのだが心が委縮してしまうので食欲と言う依存した物に対しての対策。
傍から見たらあまり気持ちの良いものではないが…
うん、ここはアスラに任せて俺の仕事をしよう。
俺の仕事?
魔王様の側近に決まってるでしょう。
アル、カイン、カノンはみんなの状況把握とオーリオン対策で忙しい。
で俺たちはキャノンの居る世界で魔王様と側近として日々戦っている。
主な敵対者はオーリオンの部下。
簡単に言うとこの世界に堕天した部下であり勇者。
あの日、一国を一瞬のうちに蒸発させた張本人。
にも拘らず何故か人間の味方と言うか最後の希望とか言われてる。
人間狂ったか? と思ったら本当に狂っていたようだ。
この堕天した勇者を中心としてオーリオンの加護が撒き散らされている。
その庇護下にある人間は無条件にオーリオンを信仰する。
最早オーリオンを強くする為の電池と化してる。
ってか、こんな大々的にやったら上の世界でも大問題になるだろう?
って思ってたら案の定、大問題になっていた。
簡単に言うとオーリオンの派閥が台頭して来てるらしい。
んで、元々上の世界を統治していた親父が嵌められて今じゃオーリオンの好き放題らしい。
そりゃ宇宙を統合しようとしたりで人間を苦しめれば苦しませる程、オーリオンに信仰が集まる。
信仰を集めりゃ力じゃ誰も敵わなくなって親父でさえ太刀打ちできない程の立場になったと。
完全にマッチポンプじゃねーか!
そんなオーリオンの加護を受けた堕天勇者はそりゃ強いです。
俺とアリスが本気を出しても撃退は出来るが倒せないレベルだ。
アルやカインだったら余裕だろうけど、全ての力も戻ってない俺たちには強敵なんですよ。
そう言うのも含めてハッシュたちではなく俺たちが残った訳だけど、いつぞやの勇者が可愛く思える。
ああ、その勇者ですけど今ではアスラ(仮)の世界でポカポカしてるみたいです。
短いうえに週刊になってしまいスマン。
こう見えて仕事に追われております。
いつもなら忙しくなると執筆に逃げるのですが今回は逃げられなかったです。