第103話:アケミ物語(下)
前回までのあらすじ
私は異世界に転生した。
私の前世、それは決して語る事はない。
私の存在自体がお父さんとお母さんに迷惑をかけているのだから。
私は生来、病弱で入退院を繰り返していた。
そのせいでお父さんとお母さんには気苦労と疲労と経済的貧窮を与えた。
お父さんとお母さんは「あなたが生きているだけで私たちは幸せなの」と言ってくれるが、それを受け入れる程、私は太々しくなかった。
毎日、感謝と懺悔の日々に終焉が来る。
思いのほか死はあっさり訪れた。
最後にお父さんとお母さんに「ごめんね」と謝れたことが何よりかな。
生んでくれたのに元気じゃなくてごめんね。
苦労ばかりかけてごめんね。
お父さんとお母さんより先に旅立ってごめんね。
色々な"ごめんね"を含んだたった一言の"ごめんね"。
そして、最後に「ありがとう」を言える時間をくれた女神に感謝した。
この女神さま、私が旅立つ刹那の時間。
私の横に居たんだけど、最初"死神"と思ってしまってごめんなさい。
最後に私の願いを聞くと言ってくれた女神様に願った内容は
"お父さんとお母さんに感謝の気持ちをくれる時間が欲しい"と願った。
で、何をどう間違ったのか与えられた力は時空間操作。
確かにお父さんとお母さんに感謝は言えたから願いが叶ったのだけれど、何か違う。
生前の姿のままで転生させられてるし"この力で無双するわよ!"って意味で空間操作を願った訳じゃないんだけど。
でも、前世では数えるほどしか出来なかった外出。
しかもこんな何もない大平原に立ってるのが嬉しくて。
走り回れるし胸も苦しくない。
女神様ありがとうって本当に大声出して感謝したっけ。
いや~転生か。
本で読んだことが現実になるなんて!
なんて楽観的にもお気楽にも思えなかった。
だって、夢の中の話だと思ってたんだもん~!
現代っ子の中学生が見知らぬ土地に放り込まれるって想像したことがありますか?
毎日勉強に部活にそしてサッカー部の男子を3階の窓から眺めながら友達と恋バナに騒ぐそんな美少女ですよ。
多少はゲームやアニメが好きなだけの、どこにでもいる普通の美少女なんですよ。
え? 美少女って自分で言うな? あ? ああぁ!
今言った奴、ちょっと後で話がある。
あ、言っておくけど妄想だから。
どの話が妄想なのかって?
そんなの女の子に聞くものでは無いわよ?
じゃないと…まぁ、前回の語りで実際視聴者が減ったが今回も減る事は是非とも避けたいわね。
でも、いきなり異世界に放り込まれて私も少しヤサグレテるのよ
確かに空間操作って能力はチートよね。
私に向けられる全ての攻撃を相手に返却できるんだから。
それにしても、ここどこなのよ?!
モンスターが現れて倒したらお金が出るって、完全にドラ〇エじゃない!
ゲームの世界じゃない!!
本当に異世界なの?
これが現実なの?
本当の私はベッドに寝かされて頭とかにコードが一杯繋がれてる植物状態なのか。
それとも、無断で何かのテストの被験者にされてるとか?
でも、痛みがあるって事は、脳が痛みとして認識してると言う事は、当然死もありうるわけでしょ?
こんな見知らぬところで、実際はベッドに寝かされてるだけかもしれない状態で死ぬなんて絶対いや!!
頭を一気に切り替えてこのゲームになじむ必要があると判断して、私はある場所に向かったの。
冒険物ゲームで生き抜くためには必要不可欠なもの。
そう、回復系のアイテムよ!
そう思って私は道具屋を探したの。
でも紹介されたのは一軒家みたいな建物。
道具屋に行って膝と肘の擦り傷を見せたらここに行った方が安上がりと案内されたんだけど
中から出てきたのはメガネをかけたおばさんと言うよりはお姉さんな感じ。
何でも学校で魔法を教えているのだとか。
おおぉ! 忘れていたよ! 魔法だよ! 剣と魔法の世界!!
冒険物って言ったら魔法よね
私も覚えられるかしら?
おねえさんは私を家の中に入れてソファーに座らせてくれたの。
そして傷口に手を翳して目を閉じたと思ったら掌が薄緑色に光ってるの。
あったかい感覚と痛みの引いて行く感覚。
ホントに回復魔法だ! 思わず感動してしまった。
お礼を言いながら、ふてぶてしくも回復魔法のやり方を聞いたんだけど良く分からなかった…。
レベルは足りてるのかとかMPが足りないのかとか。
完全にゲーム脳な訳だけど。
もう一度、簡易的な魔法をお姉さんに見せて貰って何か違和感を感じた。
おねえさんの体の中で何かが螺旋を描くように動いている。
そして、その螺旋を手のひらに移動して放出すると魔法として顕著するような。
もう少し見ていたかったんだけど
おねえさんに「教えてあげたいんだけど魔力が無くなってしまうし、学校来れば教えてあげる」って言われてしまった。
お礼と少しのお金を渡して串焼きを食べてた広場に戻ってきた。
もう一本串焼きを買って食べながらさっきのお姉さんを真似てみた。
幸い、私には愛読書のドラゴ〇ボールで気を学んでたし、まぁ嘘なんだけど。
目を瞑り、お姉さんと同じ螺旋を思い描きながら意識をしてみた。
おいおい、私ってば魔法少女として才能があるのかしら?
って思うほど、簡単に右手から回復魔法が出た。
この螺旋をもっと強く、もっと綿密に細かく螺旋を描くと最初より強い緑色の光が右手から出ている事が確認できた。
最初のがホイミで今のがベホイミくらいかしら?
って勝手に脳内で納得しておいた。
あとは冒険者に必要なのは剣ね。
そう思い武器屋に突撃する。
…なに? 剣ってこんなに重いの? 私に無理じゃね?
え? 軽いのもある? 真剣風木刀?
まぁ、それでいいか、私は空間操作と魔法で生き抜いてやる!
最初の落ち込みはどうしたって?
私は頭の固い爺婆じゃなく、箸が転がっても笑ってしまう花の乙女よ?
考え方も柔軟なのよ!
こんな死ぬかもしれないゲームみたいな世界なんだったら、必死に生き抜いて楽しまにゃ損でしょ?
って思ってたら、突然脳内にどこかの戦闘が映し出される。
え? 何これ? これは…イベント発生?
随分突然にイベントが発生するのね。
もしかして、私が魔法を覚えた事がきっかけになってるのかしら?
そんな事を考えながら脳内のムービーを見てたんだけど。
これが勇者? これが私の先輩なの? 随分弱いわね…。
って事はあれが魔王ね? その隣にいるのは、恐らく側近とか?
あ、魔王が挑発してる。
おお! これが勇者の必殺技?
奥義ファントムメナスとか奥義メテオクラッシャーなんて随分ベタな名前ね
凄い演出。
確かに必殺技にふさわしい演出だわ。
あれ? 魔王はノーダメージ?
違う意味で魔王様が大魔神みたいになってるんだけど、予想以上の勇者の弱さに激オコなのね。
ってあれ? 魔王様って女の子なんだ?
私と同じくらいかな?
ってか、顔が出てた時の魔王様ってあれが素なのね。
あ、魔王様が側近に怒られてる~
魔王様、何か顔が赤くなってて可愛い~
勇者も再戦の約束とかしてるし、側近アタフタしてるし
魔王様ってかわいいし何か優しい世界って感じね
普通は「人間の絶望が我の喜び」とか言う筈なのに。
何か、本当に異世界と言うよりVRみたいね
本当にゲームなんじゃないの?
やっぱり死なない程度に楽しまなきゃ損よね。
いや、もしかしたら死んだらやり直せるんじゃないの?
試さないけどね。
そうだ! 魔王様に会いに行こうかな~!
あの魔王様なら問答無用で殺しに来ることも無いでしょ。
そんなこんなで、アイリスとアリスに会い、真実を教えてもらった。
この世界が地球とは別の宇宙の現実なのだと…。
そして、地球への帰り方も今のところないとも言われた。
この世界に来て2度目の絶望…はしてないかな。
でも、もしかしたら悪い神を倒すことが出来たら帰る事が可能かもしれないとも言っていた。
この世界に来て初めての希望。
これはマジ。
悪い神を倒したらゲームクリアとしてベッドで目が覚めるかもしれないしネ
いや~しかし、良かったわ~剣と魔法の世界で。
ゾンビと謎解きの世界だったら私、詰んでたわ。
そんなこんなで、アイリスとアリスに協力して頑張って地球に帰ってみせるわ!
そして今度こそお父さんとお母さんにもう1回"ありがとう"って言うんだ!
アイリスとアリスが腹黒く裏で動いていた時にアケミは真っ直ぐ生きているんです。
ってお話でした。