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後編




 あの日から自分は隠れることをやめた。自分も努力しようと思ったのだ。いつかまた彼と会ったとき、胸を張れるように。頑張ったなと、褒めてもらえるように。


 しかしマリアナは残念ながらあまり元がよくなかった。容姿にしても、頭にしても。どうあがいたって平均並の令嬢にしかなれなかった。


 その悔しさがなおさら彼女の言われっ放しにさせたくないという負けん気を増長し、思ってもいないことまで言ってしまう今の彼女に繋がったのだった。


 自分の弱いところを知られて、見られて、突かれたくない。だから虚勢を張って自分を強く見せようとする。

 初恋の人との再会は酷かった。


『ああ、あのとき上から目線でありがたーいお説教をくれたあの男の子ね』


 ━━そんなこと思っていない。むしろ彼のおかげで変わろうと思えたのに。せっかく自分のためを思って言ってくれたのに変われていない自分が嫌で、幻滅されたくなくて、気の強さを盾にした。


 あなたの言葉など心に響いてなんかいないし、気にも留めてない。だから、私が変わっていなくたって関係ない。そう合理化させるために。


 実際、そんな言い訳(・・・)は通用しないし、なんの意味もない。ただ、相手に不快な思いをさせるだけだというのに。私はそのとき色々なことに必死で気づけなかった。


『……随分お変わりのようで』


 そう、彼からしたら、十分な変化はあるのだ。もちろん、悪い方に。

 驚いたように目を見張ってマリアナを凝視した後、彼は冷えきった様子でマリアナの嫌味に嫌味を返した。

 まさに、今の一触即発な二人の関係の始まりだった。




「ちがうの……本当は……」


 覚束ない意識の中で必死に手を伸ばす。

 アラン様。アラン。ごめんなさい。いつも嫌なことばっかり言ってごめんなさい。私、変われなかった。どうやっても自分に自信が持てなくて。あなたに嫌われたくないのに━━


「マリアナさん」


 誰かがマリアナの手を優しく握った。マリアナはハッとして横を見る。一瞬、息をのんだ。


「アラン」


 その人がはらはらと涙を流すマリアナの目元に、治りかけの右手でそっとハンカチを当てながら、困ったように笑った。

 ……ちがう。アランは、こんな風に笑わない。


「ウィル……?」


 私、どうしていたのかしら。夜会で、バルコニーに逃げた辺りから記憶がないわ。夢を見ていた。子どもの頃の、初めてアランと会ったときの夢。だから間違えてしまったのだろうか。


「マリアナさん、バルコニーで倒れてたんだって。アランさんが見つけて送ってくれて、高熱で丸一日寝込んでたんだよ」

「そう、なの」

「体調が悪いことに気付けなくて悪かったって。お見舞いに来るってさ」

「お見舞いに……」


 ぼんやりとウィルの顔を眺めながら復唱する。アランが、お見舞いに?

 マリアナはあわてて体を起こした。しかし、くらりと目眩がして、すぐにベッドに倒れこむ。


「着替えなきゃ。こんな格好で……」


 元々良くない容姿だ。少しでもきれいに繕わなければ。

 ウィルが呆れたようにため息をついた。左手はマリアナが起き上がらないように、布団の上から押さえ付けている。


「だーめ。まだ良くなってないし。病人は大人しくしてて」

「……はい」

「ふっ、なんか、立場逆だね、俺が拾われたときと」


 吹き出したウィルに、マリアナも弱々しく微笑んだ。

 ウィルになら、言ってもいいだろうか。自分なんかがおこがましいと思って誰にも言えなかった自分の胸の内を。私がすぐにウィルを信用した理由を。安心感すら抱いてしまったその理由を。


「私、アランが好きなの」


 真剣な表情で告げたマリアナの告白に、ウィルはひとつも表情を変えなかった。

 気付いていたのかもしれない。もしかしたら、私に素直になれと諭したあのときからずっと。


「幼い頃、内気でいつも誰かの後ろに隠れてばかりだった私に、変わるためのきっかけをくれた彼が、本当に好きなのよ。自分に自信がある、持てるほどの努力をしてきた彼に、本当に憧れているの」

「うん」

「でも私、こんなでしょう。全然自信が持てなくて。そんな自分を見せて失望されるのが嫌で、それを隠すために余計なことを言ってしまうの」

「うん……」


 ゆったりとした口調で話すマリアナに、うたれる相づち。

 知ってるよ、と言っている気がして、マリアナは少し不思議に思えた。ウィルは本当に、何者なんだろう……?


「ねえ、私ね、あなたのこと最初から信用していたのよ。なんでだと思う?」


 試しに聞いてみた。でもさっき間違ってしまったものね。きっと分かってるでしょうね。


「俺が、マリアナさんが一番信用しているアランさんに似ているからだろ?」


 その通りだ。そっくりってわけじゃない。でも、どこか似ているのだ。雰囲気か、顔立ちか……目の色は私と一緒なのに、おかしいよね。

 アランに似ているウィルは、あっさりと私の中に馴染んだ。勝手な思い込みだと分かっているけれど、実際、ウィルはそれだけの信用に値する人だった。


「本当……ウィルにはお見通しなのね」

「そりゃあね」

「なんでそんなに自信満々なのよ」


 クスクスと笑みをこぼす。

 少しだけスッキリした。やっと、アランへの思いを誰かに言うことが出来て。恋する気持ちを人に言えるって、とても幸せなことだわ━━


「マリアナ、起きてるのか?」


 そんなときだった。見舞いに来ると言っていたらしいアランの声が聞こえたのは。

 あっと思う間もなく、扉が開いた。


「アラン」


 今好きだと打ち明けたばかりだったその本人に、心構えも無しに会うのはマリアナにとって完全に予想外だった。

 いつもならいきなり入ってくるなぐらいの憎まれ口を叩くところだが、無性に恥ずかしくなり、ぽわぽわと熱を発する顔を伏せる。

 そして、自分がまだウィルに起き抜けに手を握ってもらったままだったことに気がつく。


「━━へえ、そこまで得体の知れない男に手懐けられたか」


 手をほどくより先に、アランの冷たく低い声が響いた。ピシリと空気が凍って、一瞬、なにを言われたか理解できなかった。今、自分は。


「ちが……っ!」

「別に俺だって構わない。お前が誰とどうなろうとな。ただ、公爵家の夫人となったとき、無様な噂だけは流させるなよ」

「おい!」


 否定の言葉すら聞いてもらえなかった。なんの感情も読み取れない声と無表情で言い切ったアランは、ウィルの止める声も聞かず部屋から出ていってしまった。

 ウィルがあわててその後を追いかけていく。マリアナはついていけず呆然として開けっ放しのドアを見つめた。


 ……うそ。なんで。私今、浮気してたと思われたんだ。ちがう、ウィルとは、絶対にそんなんじゃない。私が好きなのは、アランなのに。でも今のはそう取られてもしょうがない状況だった?浮気なんてそんな簡単に認めないでよ。ああちがう、先に言ったのは私の方だ……


 ぼんやりした思考で、次々と考えていく。今のは全面的に私が悪かったのだと結論に至るまで、しばらくかかった。


「ど……しよう、ウィル……」


 私はやっぱり子どもなのだ。自分で道を示せずに、どうしていいか分からず答えを求めることしかできない幼稚な子ども。


 難しい顔で戻ってきたウィルに、掠れた声ですがるように問い掛ける。ウィルはマリアナのベッドの横に膝立ちになって目線を合わせ、決心したように意思のこもった強い瞳を見せた。


「ねえ、マリアナさん。今が、素直になるときじゃないの」


 黒い瞳。すべてを見透かしているような、私と同じなのに違うウィルの目を、マリアナはじっと見つめた。


「思ってること言わないから、どんどんすれ違っていくんだよ。このままでいいの?こっちが素直にならなきゃ、あっちが素直になんてなるわけないよ。待ってればいつか、なんて思ってたら大間違いだから。言ったでしょ。今治さなきゃ、死ぬまで変わらないよ、その癖」


 少しきつめの声に、ビリビリと体が震えた。


 そうだ、私は待っていたのだ。いつか、アランが。いつか、いつか、と。そしたら私も、と。それは、自分の勝手な都合。勝手に高く積み上げたプライドのせい。

 自分の手の内を見せないで相手の手の内を知ろうだなんてそんなずるいこと、本当はうまくいかないって分かってたのに。


 ウィルの言うとおりだ。歩み寄ってくれるのを待ってたんじゃ、私たちはきっとなにかのきっかけがない限り、それこそ死ぬまでこのままになってしまう。


 それでいいの?マリアナ。


「……いいわけ、ない、よね」


 そんなの嫌。恋の気持ちを人に伝えるのって、幸せなこと。辛いことがあっても、それを本人に言えたら。きっともっとそれは幸せなことだわ。


 そしてこれが、私たちが変わるための、きっかけなんだ。


「私、言わなきゃ」


 ちゃんと謝らなきゃ。好きって言わなきゃ。あなたのことが、大好きなんだって。浮気なんてしないで。私を好きになって。私、もっと頑張るから。好きになってもらえるように頑張るから。可愛いって思ってもらえるように、たくさん努力するから。


 ウィルはもう私が起きるのを咎めたりせず、逆に私が歩くのに手を貸してくれた。


「じいじが足止めしてるから、行っておいで」


 玄関につき、外に出る前、そんなことを言って押し出される。

 待って、今あなた、なんて……


「マリアナ」


 考え込みそうになったところを、先ほどより柔らかくなった愛しい人の声に引き戻された。

 目があって、途端に恥ずかしさが押し寄せる。


 そうだった、私、寝ていたままの格好で。顔だって洗っていないし、寝込んでいてお風呂にも入ってないのに。また、アランになにか言われるかもしれない。うっかり言い返してしまったらどうしよう?それじゃだめよ、なにも変わらない。


 アランがゆっくりと近付いてくる。手を伸ばしてきて、自分の格好を気にしていたマリアナはついその手を払った。


「っ……」

「あっ……」


 ばか。やっぱり私はどんなに頑張ってもバカなんだわ。

 わずかに傷付いたような顔をしたアランに、自分を叩いてしまいたくなった。

 今まで色々言い合ってきた。本当は傷付いていた。それは、アランだって同じ。傷付かない人間なんていない。


「……誤解だって話はあいつから聞いた。体調が悪いくせにこんなとこまで、なにしにきた」


 柔らかさが消えて、少し苛立ちの混じった声に怯みそうになる。でも、自分はもう後がないのだ。今じゃなきゃ、ダメだ。言え。たった二文字の、その言葉を。


「おい、聞いてるのか。大体おまえな、夜会のときも、具合が悪いならそうと」

「すき」

「言……」

「好きよ」

「…………」


 ほろりと目から涙がこぼれ落ちる。たった二文字の言葉だったのに、感情が昂って声を出すと一緒に涙がこぼれた。

 ずっとつっかえて固まり続けていた私の気持ちが、溶けて溢れだしたようだった。


「アランのことが、好きよ……」


 言葉をなくして硬直している彼の綺麗な赤の瞳をしっかりと見つめて、言葉を紡ぐ。滲む視界の中だって、あなたはいつも輝いている。


「大好きなの」


 もっと言わなきゃいけないことがあるのに。それしか出てこなかった。もうどうなってもいいから。どうか、私の気持ちが伝わりますように。


「……アラン様」


 そう呼んだ、瞬間だった。ふわりとよく知った香りが間近でして。


「……!」


 気付けば唇が触れていた。ハッとマリアナが目を見開くと、その瞳はじっとマリアナを見下ろしていた。今までに見せたことのない、熱を秘めて。


 一度唇を離して、角度を変えてまた合わせる。奪われるようなキスに、マリアナは目を閉じて答えた。痛いぐらいに抱き締めてくる腕が熱い。撫でるように頬に触れてくる指先が優しくて、また涙があふれた。


「好きだ」

「……アラン、様」

「あの日からずっとずっと、お前だけを思っていたよ」

「……っ!」


 まさか。まさか、アランも同じように私のことを好きでいてくれたなんて、思ってもいなかった。あんなに喧嘩していたのに。信じられないよ。

 でも、今自分を見つめている目が、なによりの証拠になっていた。


「愛してる、マリアナ」


 囁くような甘い声に、思考がとろとろに溶かされていく。

 首に腕を回して抱き着けば、嬉しそうにあのキラキラの笑顔を見せたアランがもう一度唇を落とした。




 ◇◆◇




 あのあと興奮して熱を見事にぶり返したマリアナは、甘々な雰囲気を撒き散らすアランに見舞われてベッドに逆戻りした。


「あのね」


 うっすらと残っている意識で、優しく自分の手を握る心を通じ合わせた恋人に語り掛ける。


「嘘なの。今までアランに酷いこと言ってきたけど、全部」

「……ああ」

「ごめんなさい」

「俺も言ってきた。おあいこだろう」


 気にするな、と額を軽く叩かれる。そんなちょっとした返しにも親しみと嬉しさを感じて、マリアナはふんわりと柔く微笑んだ。


「それから、ドレス、ありがとう。とっても可愛かった。アラン、私ね、もっと可愛いって思ってもらえるように頑張るから。目移りしないでね……」


 眠りに落ちる寸前に落とされた言葉に、アランは絶句した。そして、過去の自分を呪いたくなるほどに後悔した。まさか、そこまで気にしているとは思わなかった。見事に自分はマリアナの強がりに騙されていたのだ。


 素直じゃなかったのは、自分の方だ。嫌われたのかと思ってたんだ。あまりにも、反応が違いすぎて。嫌われてるかもしれないのに、思いを伝えることが出来なかった。自分の気持ちを必死に隠した。

 それなのに、婚約だけはどうしても解消できなかった。自分のものにならなくてもいいから、側に置いておきたかった。他の男のものになるなんて、許せなくて。


 可愛くないなんて、思ってもないことを言った。

 たしかに平均並みかもしれない。それでも、俺にとっては、あの日からずっと、俺だけの天使なのだ。

 自分の言葉に目を輝かせ、内気なくせにしっかりと見返してきた。あの強い意志のある目がずっと、忘れられなかった。

 赤茶色の癖の強い髪も、他と並べば埋もれてしまうその姿も、自分にとっては一番で、どこにいたって見つけ出せる自信がある。


「俺はお前が可愛くてたまらないよ、マリアナ」


 でもきっと自分のために必死に努力するお前も可愛いんだろうな。アランはどっぷりとハマりきっている自分に苦笑して、愛しい彼女の目尻をそっと撫でた。




 ◇◆◇




「ねえ、どういうこと?」


 腰に手を当てて仁王立ちをする。目の前には、気まずそうに顔を歪める仮の使用人、隣には、風邪が治るまでの間、毎日見舞いに来た愛しい人。

 ちなみに風邪はうつらなかった。「俺はバカじゃないからな」とほざいていた。


「今の今まで忘れていたけど。ウィル、あなた私を送り出すとき、なんて言ったか覚えている?」

「さあー、なんだったかなー」

「じいじ、って言ったのよ!」


 この家にじいじと呼べて、怒って帰ろうとするアランを足止め出来る人間なんて一人しかいないわ!


「ウィル、あなた、何者なの!?」


 最初からおかしかったのだ。自分が席を離れた少しの間で、あそこまでお父様と打ち解けるだなんて!私だって、信用していたけれど!


 それになんでもお見通しな感じもあるし、そういえばウィル、結構広いうちで一度も迷ったことがなかった……よく考えてみれば、逆に怪しいぐらい馴染んでた!?


「まさか、お父様の隠し子の子ども……!?」

「いや、それはちがうだろ」


 顎に手を当てて呟いたマリアナに、冷静な突っ込みが入った。やっぱり違うか。お父様は早くにして亡くなったおかあさま一筋だものね。

 どちらにしても、家で見たことはなかったのだからウィルが馴染む理由には繋がらない。そしてさらに言うと、お父様は断じて私たちより年上の男にじいじと呼ばれるような年齢ではない。


「……まあ、いっか」


 マリアナが観察するようにじろじろと眺めると、ウィルは開き直ったように満面の笑みを浮かべた。ああやっぱり、アランと似ているわ、なんて。


「俺結構頑張ったんだから、ちゃんと幸せになってよ、二人とも」

「……それは……なるよ?」


 照れたように目を反らして答えたマリアナに、にやけるのをこらえるように口を歪めるアラン。


 全く、すれ違い続けていた二人がくっつくとこうなるものなのか。ウィルは疲れたようにため息をついた。

 やっと見れたのだ。二人の思いが通じ合い、幸せそうに並ぶ姿を。一生見ることのできないままだと思っていた、その光景を。


 二人を見ていて少し潤んだ目を隠すように、階段の下で待ち構えているリデルト家の馬車を指差す。


「ほら、待たせるの悪いから、行かないと。アランさん」

「あ?おい」

「ちょっと、ウィル」


 明らかに話を反らしたウィルに、アランが眉を潜め、マリアナが詰め寄る。ウィルは逃げるように後退りする。

 ━━その瞬間、その体が傾いた。足を踏み外し、ぐらり、下のほうへ倒れていく。


「え……」

「っウィル!」


 マリアナとアラン、二人の焦った声が響いて、手を伸ばすも届かなかった。青ざめる二人に対して、ウィルは笑顔で喜びを滲ませた。


「父さん、母さん━━」


 一粒、ウィルの目から離れた涙が宙に浮かんで弾けた。

 マリアナとアランが驚愕して目を見開き、瞬きをしたそのときには、そこにあるはずの姿はどこにも見当たらなかった。




 ◇◆◇ 




「あっ、今動いたわ」

「どこ?」


 膨らんだお腹に、アランの手をとってそっと誘導する。元気な子だ。ぽこぽことお腹を蹴ってくる。


「楽しみね」

「生まれてきたら嫌ってほど可愛がってやらないとな?」


 意地悪そうな笑みを浮かべるアラン。こっちは散々好きな女の近くに得たいの知れない男がいて悶々とさせられたのだ。少しくらいその仕返しもしたっていいだろう、という心情が丸見えである。


「お姉様~!」


 マリアナが苦笑していると、パタパタと足音をたてながら妹のリデアが部屋に入ってきた。ノックもしないで走ってくるなんて珍しい。マリアナは何事かと目を丸めて可愛らしい妹を見る。


 頬が上気していて、どうやら興奮しているらしい。先日決まった婚約者となにかいいことでもあったのかしら?

 アランも気になったのか、片眉をあげてリデアを見下ろしている。リデアはキラキラと目を輝かせる。


「お父様から聞きました!子どもの名前、もう決まっているのですってね!」

「あら。言っていなかったかしら」

「聞いてませんわ!でも、性別は生まれてくるまで分からないのに」


 マリアナとアランが顔を見合わせる。そして、同時にふっと頬をゆるめた。

 たしかに性別はわからない。でも、私たちの子どもは絶対に、決まっているのだ。その名前も。


「なんて名前なのですか?」


 ベッドの端に腰を下ろし、マリアナのお腹を見つめながらリデアがたずねる。

 マリアナがいとおしそうにお腹を撫でながら子の名前を呼ぶと、返事をするようにぽこりと赤子がお腹を蹴った。

 マリアナとアランの笑い声が、揃ってこぼれた。





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