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縄張り紀行「仮」  作者: 夢辺 流離
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落水 那帆


 那帆こと、落水おちみず 那帆なほと出会ったのは一年前のことである。

昔は時間やお金といった、自分達で定めた概念に囚われているのを滑稽だ、などと思ったものであるが、振り返ってみるならば、やはり基準となるものがあるのは助かるものである。


 感慨深いと思うのは、那帆と出会ってからもう1年も経ったということか、それとも那帆が無事進級できたことに対してかは甚だ疑問であったが。


 一言彼女の名誉のために言っておくならば、

彼女がアホな娘だと言っているのではない。

むしろ賢いと言って差し支えないのだが、

ただ出会ったときの印象が強すぎて、親ならざらぬ身であるが、いやむしろねこのごとき身であってさえと言うべきか、どうにも心配でならぬのだ。



■□■□ 回 想 □■ □■


 四月を前にして、那帆は浮かれていた。

無事大学に合格し、一人暮らしをすることには家族で揉めに揉めたが、なんとかアパートも契約して荷物を入れ終わったところである。


 本当ならば、段ボール箱を開封して、

何もかも片付けてしまいたいのは那帆自身そう思っているのだが、そこは新天地に来たのである、

これから住む場所を見て廻りたいと思うのは仕方ないだろう。


 ひとまず、お昼ご飯にして周りの地理やキャンパスの位置を確認しないとという建前で、外出することにした。


「取りあえず今日寝る場所だけは確保、と」


 後々カーペットを敷いたりすることを思えば二度手間であるが、彼女のこの行動は正に英断であった。

日中の暖かさとは裏腹に、朝晩の冷え込みは地元とは段違いだったからだ。

四月も間近でさえ深夜を過ぎると氷点下ということもあるのだ。

お布団の恩恵と魅力を実感し、堕落しそうになるのはもう少し後のことである。


 ふんふんふーん♪と鼻唄でも聞こえてきそうなテンポで、スキップでもしていそうな歩調で那帆は入り組んだ町並みを歩いていた。

実際にそうしていたわけでもないのにそう見られるのはどういうわけか、余程研究の対象としては楽しそうっだった。

 細かい路地が乱立していて、迷いながらも2次試験で訪れたキャンパスへとたどり着いた。

門などがあるわけでもなく、入ろうと思えば誰でも入れるのだが、那帆は入口の前で立ち止まっていた。


「春からここに通うんだ」


 自然と心が高揚するのを感じずにはいられなかった。


「学食ってやってるのかなぁ?」


 続いて口から出たのがそんな言葉だったから、

同行している者があれば、ガックリとしたかもしれないが、幸いに那帆は一人だった。

横切る人が立ち尽くす那帆に目をやるが、それだけである。


 しかしながら、那帆は入学前である。

当然ながらキャンパス内の施設の位置まで網羅しているわけがなく、知っているのは経済学部棟だけだ。


 キャンパス内を散歩してみよう!と思いたって歩き出す那帆はやはり楽しそうで、してもいないのにクルクルと回っているように見えるのは不思議であった。


「お、かわいい娘いるぞ」


 サークル活動だろうか、チラホラと人が散見されるものの閑散としていて、周囲には那帆しかいなかった。

話し掛けられたのが自分だろうか、と振り返った先にいたのは昼間にも関わらず、酒気を帯びた男3人だった。


「こんな娘、見たことないよな」

「何、君見学か何かかい?なんだったら俺達が案内してあげよっか?近くのいい店とかも教えてあげるよ?」


 那帆は突然の展開に身動きができなかった。


「えっと、結構です。その、ちょっと散歩しているだけですので。」


 なんとかその場を逃れようとするが、

酔っ払った男達もしつこく食い下がってきて、

男の一人が手を伸ばしてきた。


 


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