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縄張り紀行「仮」  作者: 夢辺 流離
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一期一会

 ねこによる出会いってのもいいですよね。

 大学生活が本格的に始まる前に”ケチ”がついた気がして、

気落ちした敬一であったが、試しにカタログ(講義目録)を見てみるが、

思ったほど、というか全く汚れていなかったのだ。


「一体、どうなって・・・?」


 思わずそう呟いてしまったのも無理はないだろう。


「ん・・・?」


 しかし、ようよう気を配って見てみれば至るところに傷がついている。


   ―――綺麗に講義の内容を囲むように。


 そして、その印のついた講義のコマ(授業の単位)の時間に、

空白だった時間割のところに跡がついている。

1つ、2つなら偶然で済ませられるだろうが、

ゆうに予定の3割分・・・つまり前期の専門分野でる経済学の講義がうまっているのだ。

 流石にそれをそのまま鵜呑みにはしなかったものの、確認してみたものの、

問題はなさそうだ。

どこか狐に摘ままれたようで、首を傾げていると、


「新入生?何か困ったことでもあったかい?」


 そんな声が聞こえた。


「ああ、別に怪しい者じゃないよ。って大抵怪しい人物もそう言うのかな。僕は菊池正平きくち しょうへい。春からここの2期生になる。合格おめでとう」


「あ、ありがとうございます。お、私は鳴瀬敬一です。実は・・・」


 敬一は起こったことを順に話した。

菊池は小さく頷きながら、話を聞いてくれた。


「鳴瀬君、君は運がいいよ。ちょっとカタログを見せてくれるかな。」


 敬一は言われるままにカタログを渡した。


「うんうん、流石は教授だ。いい選択だね」


 一人で納得している菊池に、敬一は反応に困っていたが、

確認し終わった菊池がカタログを開き、

時間割のところを指しながら言った。


「入学後の試験で外国語のクラス分けがされるからまだはっきりと言えるわけじゃないけど、ここにマークされてる講義は受けといたほうがいいと思うよ。ところで、鳴瀬君、君、もしかしてここ(S大学の経済学部)が第一志望じゃなかったんじゃない?」


 鳴瀬はドキリとした。

この人、心が読めるのか?と思った。


     「言っとくけど、エスパーとかじゃないからね」


 いや、エスパーだろ。


「これ、やったの独特の白いアクセントが入った黒いねこでしょ?彼、”教授”ってみんなから呼ばれてるんだけどね。キャンパス内で、本当に困ってる人のところにだけ現れるんだよ」


 んな馬鹿な、と思わなくもないけれど、カタログに証拠があるのだ。


「講義を選ぶ中で必要なことってわかるかい?」


「時間とか、必須科目かどうかとかですか?」


「うん、それも大事だね。だけどそれよりも、特に経済学を学ぼうと思って来たのじゃないなら大事なのは講義の教授だね。ミクロ経済学とマクロ経済学、経済学のスタンダードというか基礎なんだけど、この講義を受け持つ教授は毎回変わるんだけど、今年は六塚教授と石坂教授だね。お二人の講義内容は面白いから興味を持つにはもってこいだ。」


 なるほど、そうかもしれない。

高校時代の歴史の授業はひたすら教科書を読むだけの内容で毎回眠気を催していたのだ。とは言え、普通はすこしづつ教授のことなんかを知っていくことで慣れていくのだろうから、事前にそえが知れたと言うのは大きいかもしれない。


「後はそうだな。中には講義に出る日を固めておいて、空いた日に纏めてバイトを入れたりサークル活動をしたりっていう子らもいるけど、始めのうちは毎日出席するようにしたほうがいいと思うよ。~」



 この日から、敬一は菊池とよく関わるようになっていく。

同じサークルに入ったり、バイト先を紹介してもらったり。

あの時会ったねこ、”教授”が本当に菊池さんのいうようなねこだと信じるのは難しいが、感謝はしている。

講義の予定表の助言を貰ったことはまぁ信じきれないにしろもとより、

菊池との出会いの機会をくれたからだ。


 飼えない以上、餌付けはするべきではないとわかってはいるが、

こんどツマカン(おつまみ缶詰め)でも差し入れてみようか、そう思った敬一だった。

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