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縄張り紀行「仮」  作者: 夢辺 流離
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山の中のねこ

 キャンパスの横を川が流れている。

その川の両端、堤の上をランニングのコースにしている人間は多い。


 一方で、山も身近であり、数10分も走れば山頂へと行くことができるため、こちらもランニングコースとして選ぶ人間は多い。


 2期生の佐藤和彦さとう かずひこが蛇行する山道をランニングしていると、ラスト一息のところで一匹のねこが飛び出して来る。


 大きさ的に熊はない、とわかっていてもガサガサと音がなって飛び出してくれば多少びくつくのは止むを得ないだろう。


 この辺で飼われているねこなのかな、と和彦は思った。


 思わず止めてしまった足を再び動かすと、ねこが後ろからついてくる。

しばらく走ってみるが、やはりついてきているのだ。

かわいい。かわいいが、


「悪いけど俺はアパート暮らしで君を飼ってあげられないんだ」


 屈みこんで目を合わせて言う。


 目を合わせるのは挑発になるので止めた方がいいということを知るのは後のことである。


 誰かが餌をあげて懐いてしまったのかと和彦は考える。山頂にある公園の入口までのランニングを再開する。後ろから、まだついて来ている気配はするが振り向かない。


 飼えないのだから突き放さないと。


 はぁ、はぁ、はぁ。

公園の入口の門でUターンすると足元にまださっきのねこがいる。撫でたい。


 心を鬼にして相手にしないで走ると、途中で和彦を置いて先を行く。

ようやくわかってくれたか、とわずかばかりの寂寥感とともに安堵する。


 先を行っていたねこがピタッと立ち止まると、和彦を仰ぎ見て(上目遣いかわいいなチクショウ)、顔を横へと向けて走って行く。


 ねこのいたところへと行くと、向かった先には山道がある。


「この道はなんだろう」


 いつもランニングしているのにまったく気付かなかった。舗装されていない土の道は歩きにくかった。わずかに下り、再び上りになる。


 上りきった先で思わず息をつく。

見下ろせば山を下った先の町並みが一望できて遠めには山がパノラマで一望できる。


 1年以上通っているのに全然気付かなかったそのこは遊歩道らしい。入口の辺りに小さな木の看板があったのだが、大分朽ちていて気づきづらかったのだ。


 見知らぬ土地を行くのならねこの後を追いかけてみるといい。いつもとは違う景色が見られるだろう。彼らはいい場所をよく知っている。

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