第十四話 スーハースーハー
「もう、この扉を抜けりゃ闘技場だ、気を引き締めとけよ?
闘技場の雰囲気に圧倒されちまって、何も出来なくなっちまっうこともよくある見てぇだしな。」
二人はギルドの受付があった場所から少しの間廊下を歩き、そして扉の前に立った。
「どうしよう、サリエル。
僕、ちょっと緊張してきちゃたな~・・・。」
そう言い、聖恵はサリエルの方を向き、おどけたような、笑ったような表情を見せた。
「おいおい、しっかりしてくれよぉ?」
そう言いサリエルは少し困ったような顔をした。
「あはは、大丈夫、大丈夫。
緊張も凄いしてる訳じゃないし。」
「そうか、なら、もうちょいしたら行くか?
待ってやるから、深呼吸でもしとけ。」
そう言われた聖恵は、サリエルに言われた通りに、
『スーー、ハーー、スーー、ハーー』
と、深呼吸をした。
その間サリエルは聖恵の横で少し落ち着きなさそうに待っていた。
「うん、もう大丈夫だよ。
緊張も随分軽くなったしね。」
「・・・じゃあ、行くぞ?」
聖恵がそう答えた後に、サリエルは扉に手をかけ、押し開いて行った。
『ギギギギギィーー』
そう、重厚な音と共に扉は開いていった。
「おっ、来た来た。ルーキーが来たぞ!!」
「おい、ルーキー! 少しは楽しませろよ!」
「いやいや、無茶言ってやんなって。相手はヴァン達三人組なんだぜ? 無理無理。」
「いや、あのサリエルが連れてきた奴なんだぜ? もしかしてがあるかもしれねぇぞ?」
「バーカ、言ってもさっき登録したばっかのルーキーだぜ? 賭にもなんねぇよ! ギャハハハハ!」
そんな下賎な会話と笑い声が、どこから湧いたのか、日本ではコスプレでもないとなかなか見ないような髪色や、服装の多くの冒険者たちから、聖恵達に投げ掛けられた。
「チッ、どっから来やがったんだか。
うっぜぇ奴等ばっかだぜ。」
そう言いながら、サリエルはガツガツと闘技場の中を歩いていき、聖恵はサリエルの後ろをついていった。
闘技場の中には舞台のような物があった。
簡単に言えば、プロフェッショナルレスリングのリングにロープがなく、もっとリングを広くしたような物だった。
そして、その舞台の近くにはあの三人組が立っていた。
三人組は聖恵達に気づくと聖恵達に言った。
「俺様たちから逃げなかったことは誉めてやるよ。
まぁ、この後ボコボコにしてやっけどな。ギャハハハハ!」
「まぁ、確かに。逃げなかったのは立派ですが、カクの違いと言うものを、しっかりと先輩として見せて差し上げましょう。」
「うむ、そうだな教えてやろう。」
上からヴァン、キュラソー、コアンの順で負けるなどとは一欠片も思っておらず、まさに余裕綽々と言った様子であった。
「俺が見てんだ、碌でもねぇことしやがったら、わかってんだろうな?
もし、聖恵になんかありゃ、てめぇら三人ともシメてやっからな。」
そう言いサリエルはヴァン達を睨んだ。
「サリエル、僕は大丈夫だから、ね?」
「サトエもあんま油断してんじゃねぇぞ?
ただでさえ彼奴等はサトエより断然上なんだからな。
もし、何かあったら俺が舞台から引っ張りおろしてやっからな。」
「お~うおうおう、随分とそいつを気にかけてる見てぇだな?
えぇ? サリエルよぉ?」
ヴァンはそう言いニヤニヤとした笑みをサリエルに向けた。
「チッ」
そうサリエルは聞こえるように舌打ちをして、不機嫌そうな顔をしたまま、闘技場の舞台が一番見えやすい席の場所に腰をおろした。
「で? お前ら三人のうち、どいつが試合をすんだよ。」
「こちらはリーダーのヴァンですよ、えぇ。」
「うむ、ヴァンだ。」
「つー訳で俺が相手だぜ? ルーキーよぉ?」
そう言いながらヴァンは闘技場の舞台に上り、剣を抜いた。
「大丈夫だって、殺したりなんかしねぇからよ?
だから、早くやろうぜ、な?
俺は早くてめぇをボコボコにしてぇんだよ!」
そう言ったヴァンは闘志を漲らせているようだった。
「じゃあ、行ってくるよ、サリエル。」
そう言い聖恵は笑顔でサリエルに小さく手を振った。
「ぜっってぇに無事に帰ってこいよ?
なんか策があるみてぇだしな。頑張ってこい。」
「うん、頑張ってくるよ。」
そう言って聖恵は闘技場の舞台に上がった。
今回やっと試合前まで行きました・・・あれ?
予定では戦闘シーンくらいまで行くはずだったんだけどな~・・・。
どうしよう、作者、サリエルさんにホレそうです。