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第8話 一人目

――夢を見ていた。

 古い夢だ。夢の中では俺は15歳くらいの少年。黒に近い藍色の装束を神銀のチェインメイルの上に纏い、腕と足には同じく神銀の手甲にすね当て、同じく神銀の鉢金を頭に巻き、手には片刃の直刀の形状をした神剣といった出で立ちだ。

 眼前の巨大なデスサイズを構えた黒衣に仮面の銀髪の少女――狂気の魔王と呼ばれた魔族の少女――ディメルディアと死闘を繰り広げていた。

 これは1000年前の最後の戦いだ。

 ディメルディアの周りに黒い球体が無数に生まれる。俺は神剣を腰の鞘に収め、両手を交差させ次元倉庫に入れる。球体が不規則に俺にめがけて発射される。俺は次元倉庫から苦無を取り出し魔力を走らせて投擲し迎撃をする。苦無は砕け散りながらも球体を破壊する。苦無を投擲しながら、俺は徐々に間合いを詰める。相手もそれをわかってか弾幕を増やす。俺は左手に魔力を集中させ、光線を発射する。一直線に伸びる光。ディメルディアはデスサイズで光線を受け止める。その僅かな隙を突き、俺は一気に間合いを詰める。

 神剣を腰の鞘から抜き放ち一閃。ディメルディアは咄嗟に回避をする。刃が彼女の仮面を切り裂く。はじめてその素顔を見たが、紅い瞳が銀髪に映える。そして額にはまるで第3の目のように漆黒の宝珠が埋まっていた。この宝珠こそ彼女が狂ってしまった原因、邪神の欠片と言われる邪悪なる遺物。アレに体を魂を乗っ取られ、破壊衝動に突き動かされ、人間を――同胞を――そして世界を壊すためだけに数々の魔獣を作り上げ、破壊の限りを尽くしてきた。彼女の意識はまだあるのだろうか?その紅い瞳からは涙が流れていた。自分の意思とは無関係にただただ同胞すらも壊してきたのだ。


「いい加減、お前を止めてやるよ」


 俺の言葉に彼女は無言のままだった。無言のままデスサイズを構え直し俺に飛びかかる。俺はその攻撃を避けると、カウンター気味に神剣で斬りつける。それをディメルディアは左手で受け止める。神剣が左腕に食い込み切断する。そのまま二撃目をというところで、ディルメディアの蹴りが飛んでくる。咄嗟に神剣の峰で蹴りを受け止めるが、後方へと吹き飛ばされた。


「ったく……このままじゃ埒があかねぇな」


 牽制に光球を生み出しランダムに射出しながら間合いを詰める。あちらさんも同じように黒球を生み出しこちらの光球を相殺しながら間合いを詰めてくる。


ガキーーーーン!!


 神剣とデスサイズが打ち合い、金属音がアタリに響く。何合が打ち合ったあと、間合いを開く際に左手で鎖分銅をデスサイズめがけて投げつける。鎖分銅は俺の思惑通りにデスサイズに絡みつく。


「ちょいと痺れてもらうぜ」


 鎖にかなりの出力で雷魔法の電撃を流す。魔王の体が痙攣する。電撃に耐えきれず、鎖が溶けきれた。同時に俺は魔王に突撃し、デスサイズを蹴りつける。さきほどの電撃により握りが緩んでいたのか、デスサイズが蹴った方向へと飛んで行く。

 このチャンスに俺は上段に構えると一気に神剣を振り下ろす。そして魔王ディメルディアを邪神の欠片ごと両断した。同時に胸の辺りに痛みを感じる。どうやら相手の最後っ屁とも言える黒球が俺の胸を貫いていた。意識が消える瞬間、両断されながら魔王がなにかを口走ってたことに気付いた――


 そこで俺は目が覚める。まだ少し目が醒めるには早い時間だ。寝間着とシーツ、掛け布団は俺の寝汗でぐっしょりと濡れていた。なんだって今更あんな夢を見たんだ?このクエストの体に生まれ変わって8年、いままでこんな過去を思い出すような夢は見てないのに……。

 俺は乾いた喉を水差しの水で潤すと、浄化の魔法を使って布団と寝間着の汗を綺麗にする。もう少し寝ようかとも思ったが、なんだか目が冴えてしまったので、仕方なくいつもより早いが運動着に着替える。現在は早朝のトレーニングは敷地内で認められている。さすがにこっそりと城壁を超えて森に行くのはいつ見つかるかわからなかったので、6歳になった時に、早朝に練兵場のグランドで自主トレをすることについて両親に許可を取った。そこから毎朝、朝食前に練兵場でランニングと穴掘りをしている。そんなこんなで8歳、大分体も鍛えられてきたが、いかんせん未だにステータス補正が解除されない。たぶん15歳の成人になるまで解除無しだと思っている。コレ以上の年齢で解除だと、1000年前の俺のステータスはなんだったのか?ってことになるわけだが。それでも、レベルによる補正もあり普通の8歳時の能力ではないんだけども。


 屋敷を出て裏手にある練兵所に行く。そこで、準備運動とストレッチを行い走る準備をする。今日はやや時間があるので、まずは軽くジョギングをして体を温める。その後に重さ50kgの砂袋を背負い、ペースを変更しないように、ただただ延々とグランドを周回する。1時間に何周するとかではなく、時間内をただひたすら走る。その後、休憩を入れて今度はグランドをショベルで掘る。自分の体が埋まるくらいまで掘ったら埋め直す。あんまりやり過ぎるとグランドが柔らかくなりすぎると苦情がきたので、1日1個にしている。

 日課の訓練が終わったあとは、屋敷の庭に作らせてもらった家庭菜園の野菜達に水をやる。家庭菜園と言ってもトマト、枝豆、胡瓜、茄子あたりを小さいスペースで作っている。あくまで趣味のスペースだ。

 8歳になるまでにいくつかいろいろな事があった。まず家族が1人増えた。6歳の時にかわいい妹のピュリアが生まれた。お祖父様と父上と俺で『ピュリスの旦那になりたくば俺たち3人より強くなくてはいけない』という決まりを勝手に作るくらいにみんなで溺愛だ。そんな俺達を母上は呆れたというかドン引きというか。2歳になったいま、「にいたまー」って俺によってくるのがかわいくて仕方ない。よくよく考えると燐のときも忍のときも一人っ子だったのだ。妹ができるというだけで、かなりの衝撃である。

 それから、領内視察に何度か連れて行ってもらって、漁村の方で、なんと鰹節を発見した。削ってではなく、砕いて粉にして調味料として使っていたらしい。ややテンションが上がった。領内の工房に頼んで、鰹節削りを作ってもらった。さらに大豆と麦を使い麦味噌と醤油の作成にとりかかった。いろいろ試行錯誤を繰り返しなんとか7歳になる直前くらいに完成し、現在は領地の一部農村に信頼のおける商会を通して醸造と流通をお願いしている。同時に、塩田からにがりを取り寄せて豆腐も作っていたりする。料理長のブラドにこれらを使った代表的な調理方法を教え、我が家の食卓には一部和食が出るようになった。そーするとものすごく米が欲しくなるわけだが。


 朝食を取る前に体を洗い、服を着替える。食堂に行くと既に母上が朝食を取っていた。父上とお祖父様はまだのようだ。テーブルにはパンとほうれん草のおひたし、味噌汁、目玉焼きが用意してあった。パンじゃなくて米だったっらっと思ってしまう。


「おはようございます、母上。ピュリアはまだ寝てますか?」


「おはよう、クエスト。ええ、まだまだ寝るのが仕事だからね」


 挨拶を済ませると朝食を食べる。和食ができるようになったので、箸を作った。俺が器用に箸を使っているのを見て、家族も使い始めた。今では街の方でも使っている人がいるらしい。街に出ないから詳しいことはしらないけど。


「クエスト様、お食事の後に会わせたい者がおります。よろしいでしょうか?」


 食事中にミレーネが俺にそう言ってくる。別に問題ないので了承する。ミレーネが俺に人を紹介するなんて珍しい。どんな人物なんだろうか?ちょっと楽しみにしながら朝食を終え、身支度をする。


「食堂で申し訳ありませんが、入りなさい」


 ミレーネに言われて室内に1人のメイドが入ってくる。年齢は今の俺より少し大きい程度、10歳くらいか?黒髪に紅い瞳の少女だ。10歳くらいだから胸はない。きっと将来大きくなるだろう。顔立ちがややミレーネに似ている。つまりけっこうな美人だ。


「娘のリーゼロッテです。王都でお母様にメイドとして修行を受けさせておりました。10歳になったということで、クエスト様のお付きにと王都よりこちらへ呼びました」


「リーゼロッテです。リズとお呼びください。クエスト様」


 優雅に挨拶をするリズ。この子が俺のお付きになるのか。


「よろしく、リーゼロッテ。それじゃ、遠慮なくリズと呼ばせてもらうよ」


 リズはなにか俺をじっと見つめている。なんなんだろうか?主人として値踏みしてるのか?ちょっと緊張する。


「クエスト様、いくつかふたりきりでお話をしたいことがあるんですがよろしいですか?」


「構わないよ、それじゃボクの部屋へ行こうか」


 そう言って食堂を二人で出て自室に向かう。リズは俺の斜め後ろをついてくる。


「クエスト様、まずはコレを見ていただきたいのです」


 そう言って、リズがテーブルの上に次元倉庫から取り出しておいたのは大鎌――魔王のデスサイズだった。




お読みいただきありがとうございます。


シフトに二人も休みが出ると大変です。夜勤だと家に帰ってそのまま寝てしまうくらいには(苦笑)

季節の変わり目ですので、皆さんもお体に気をつけてください。


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