第7話 枝豆その2
いろいろあって更新遅れました。
あの後、畑を見学したが、特にほしい物もなかった。作付されてるのは小麦に大根、人参や胡瓜といった野菜だった。館での食卓にも並ぶ野菜なので特に必要ということもなく、街でも購入できるだろう。そう考えながら、村長の家へと戻った。
村長の家ではまだ父上と村長達が話し合いをしていた。アリアはどうやら治癒魔法で村人の治療をボランティアで行っているようで、老人達が群がっていた。エリックとミリスは暇そうにしていた。
「ただいま、ミリスとエリックにはおみやげ」
俺は布に包んでいた枝豆を数個、二人に差し出す。二人はなんだかわからないって顔をして枝豆を見つめる。グラントが「こーやって食うんだ、うまいぞ」っと枝豆を食べる実演をする。二人は不安そうに枝豆を口に運び咀嚼する。その後、驚いたような顔になる。
「コレはうまいな…」
「ほんと、おやつにいいわね。塩加減もいいけど豆の甘みもいい」
「酒のつまみにもいいと思うぜ」
「枝豆っていって、大豆の未成熟の豆を塩茹でしたものなんだ。もっとも流通はまだしてないだろうから街に戻っても食べられないだろうけどね」
生産者すら知らない食べ方だったんだし、ウチの食卓にも上がってこない。冒険者であるグラント達も知らないということは街でも出回ってないってことは少なくともこの辺ではこのような食べ方はしていないということだろう。
「父上や村長さんにも試食してもらって、もし可能なら街の方へ出荷してもらおうかなぁってボクは思ってるんだけどね。ただ枝豆のために大豆の生産を落とすわけにもいかないだろうけど」
「クエスト様ってホントに5歳児なの?その物の考え方とか」
あ、やばい、ちょっと歳相応じゃなかった。でもさすがに『前世の記憶がありますっていうか合計すると40歳超えた思考です』なんて言っても信じてもらえないだろうし、そーいうことはまず身内に打ち明けたいもんである。そーいえば胡瓜とか大根とかあるなら塩もあるし浅漬にするってのも手か。今度やってみよう。米がないからつけものだけもなぁと思わないでもないけど、お茶うけくらいにはなるだろうし、なによりつまみになるだろうから、父上やお祖父様が喜ぶんじゃないだろうか?
「おまたせ、クエストにみんな。何を食べてるんだい?」
「枝豆の塩茹でです、父上」
村長の家から出てきた父上と村長に枝豆を差し出す。グラント達が食べているのを見て、二人は枝豆に手をのばす。
「塩加減がよくておいしいね、これ」
「そうですね、大豆にこういう食べ方があるとは」
二人にも好評のようだ。差し出した枝豆を次々と食べていく。
「父上、村長さん。大豆の生産に支障がきたない程度に街の方に枝豆を出荷とかできませんか?グラントとも話したんですが、おつまみにいいと思いますので、酒場とかに需要があると思うんです。それに料理にも使えますし」
「たしかに大豆の栽培と一緒にというのは手では有りますなぁ。どうでしょうミリオン様」
「ふむ。ウチの料理人とグラント君たちがよく使う酒場に持って行ってみて試してみよう。その後で、好評のようだったら考えてみるということで。この味だとやる必要もないだろうけど、認知されないと売れないしね。目ざとい商人が買い付けに来るかもしれないから、買い叩かれないように注意してね。」
「この村以外の大豆の産地に買い付けに行くかもしれませんよ。街に戻ったら父上の許可があるまで枝豆を商人に売らないように通達しておいたほうがいいのでは?場合によっては根こそぎ買っていこうとする輩が出てくるかもしれませんし」
というような会話をその場で話合う。とりあえず数株譲ってもらう予定だった枝豆をかなりの量持って帰ることになる。父上に頼まれて、うちの料理人とグラントが使っている酒場兼宿に街に帰ったあとに教えることになる。料理人は帰ったらすぐ、宿の方には明日の午前中ということになった。グラント達は街に戻っても枝豆が食える、酒との相性が試せるっと喜んでいた。
帰り際に枝豆を受け取る。わざわざ豆に分けて袋に詰めておいてくれたようだ。かなりの量があるんだけど大丈夫だよね?
そのままなんの問題もなく城塞都市ラインバッハに帰り着く。なにかあっても問題だが、なにもないのもなんか面白くない。いや、無事だからいいか。
館に戻ると父上と一緒に厨房へ。料理長のブラドに枝豆を見せる。ブラドは新しい食材ということで大変興味を持ったようだ。俺は、とりあえず枝豆の塩茹での仕方をブラドに説明して作ってみせる。
「コレはいいですな。そのままでも十分美味しい。他の料理にも使えそうです」
「豆をサラダに入れたり、オムレツの具として玉子と一緒に焼いたりしても美味しいです。他にも裏ごししてポタージュスープって言うのもいいと思うよ」
米があれば枝豆ごはんとか作りたいんだけどなぁと思いながら、頭に思い浮かんだ料理を幾つかブラドに簡単に説明する。和風料理はちょっと難しいかもしれないけど、十分この世界の料理のアレンジで使えると思う。醤油や味噌が作れればそこからレパートリーも広がるだろう。
「ほう、坊っちゃんはいろいろ知ってますな。これは私も負けていられません」
「それじゃブラド君には一袋預けるからいろいろ試してみて。それから今晩、塩茹では必ず出してね。みんなにも食べて貰いたいから」
父上、自分で食べたいんでしょう?いや俺も食べたいからそれでいいんだけど。その時まさか、俺は今晩の食卓が枝豆に染まるとは思ってもいなかった。
お読みいただきありがとうございます。
今日から夜勤シフトなんで、0時更新は出来ないかと思いますが、頑張って毎日更新を続けたいと思います。