第4話 視察のお誘い
5歳になりました。
この2年は自分の実力を隠しつつ魔法の修練をしていた。全属性覚えられると言っても教えられる講師がいないということで、母上が地水火風の4属性と生活魔法を、実は治癒魔法が使えたミレーネが治癒魔法を教えるといった形で練習を行った。5歳時で教えてもらった魔法は初級(スキルレベルで言ったら1程度)をすべて使えるようになっているという程度の実力にしておいた。これでも5歳時としては破格のレベルらしく、家族はみんな大満足といった形だ。
5歳時になった俺はそろそろ肉体の方も鍛えたいと思い、祖父と父上に武術の稽古をしたいと申し出た。二人共「待ってました」とばかりに俺の申し出を承諾、午前中を武術に、午後を魔法と教養にといった割り振りで過ごすことになった。
武術の方だが、祖父からは槍術、父上からは剣術を習うということに決まった。父上自身は公務もあることから、基本は祖父からの槍術がメインだ。剣術自体はスキルレベル的にも極めているが槍術は経験がないので、素直に打ち込めそうだ。父上の方はばれない程度にうまくやらないといけないが。
5歳になるまででいろいろ検証してみたが、どうやらステータスは年齢補正で下がってはいたが、レベル補正はそのままのようで、数値以上の能力を発揮できることが判明した。
なので、自分のスキルをうまく使用し、こっそりと早朝に館を抜け出し、野外で走り込みやモンスターとの戦闘を行って自主的な修練を行っていた。 レベルはともかくまだ5歳時の体である。無茶はできないので早朝訓練は1時間程度と決め、4時に起床し準備移動を含め4時半に訓練開始、6時前には部屋に戻るという生活をした。驚くことにこの時代には時計があったので行動しやすかった。ミレーヌが俺を起こしにくるのがだいたい6時半~7時くらいなのでそれまでに間に合えばいいわけだ。
今日もミレーヌが俺を起こしにやってくる。部屋に入る際にノックをするので、それで俺は目覚めた振りをして起きる。着替えは自分でもできるが、ミレーヌが手伝ってくれる。断ってもいいのだが、彼女の仕事を奪うことになるので、素直にそうしているだけだ。
その後は1階の食堂にて家族と朝食を取る。パンとサラダ、スープに果物と言った感じの食事だ。個人的には少々物足りない。もともと朝はしっかり派なので仕方ないんだが、目玉焼きとか玉子焼きとか、それ以前にご飯と味噌汁と焼き魚的な朝食を取りたい。贅沢を言っても仕方ないんだが。目玉焼き程度なら頼めば用意してくれそうだが、俺は目玉焼きには醤油派である。(正確には塩コショウ少量に醤油だけど)でも、俺の知る限りこの街には醤油などない。なので目玉焼きだけ出されても満足できない気がする。かといって、玉子焼きは砂糖がそれなりに貴重なのでそれこそ贅沢を言えない。いやそれなりの貴族なんで言ってもいいかもしれないけど、あんまりわがままに言いたくはない。ある程度大きくなって自分のポケットマネーで支払えるようになったら考えようと思ってる。
「クエスト、今日の鍛錬なのだけど、前に村に行ってみたいっていってたよね?父上とピューリスにも許可をとっているから隣村への視察に付き合わないか?」
「よろしいんですか、父上」
「いろいろ知っておくというのも勉強になるだろう?それにいつも同じようなことばかり繰り返してるっていうのも飽きが苦しね」
「それでは、父上、ご一緒させてください」
こっそり街の外に出てるとは言え、自分の行動範囲外に出れるというのはありがたいことだ。そして農村にいけば何かしら発見もあるかもしれない。何よりひと目を憚らず街と村を見れるというのは嬉しいものだ。
「それじゃ9時に出発するからそれまでに準備をしてね。まぁ準備というほどのこともないだろうけど」
食事を終え、外行き用の服に着替える。その時、ミレーネさんから1本の短剣を渡される。多分護身用なんだろう。まだ5歳児だし短剣でもそれなりの大きさだ。最も鍛錬ではショートスピアを振り回してたりするわけなんだが……あれは護身用としてはでかすぎるしな。我が家の家紋が刻印されているので身分証明にも使えるっぽい。
本来、この世界で身分証明にはステータスカードと呼ばれるものが使われるらしい。(本で読んだので実際に自分のものは見たことがない)基本的に10歳になった時点で発行されるらしく、俺はまだ持っていない。この世界は15歳で成人なのになんで10歳?って疑問にも思ったが、そういうしきたりということで納得しておくことにした。ちなみに1000年前にはそんなものなかったので、この1000年の間に作られた技術なのだろう。
準備が終わり館の玄関に9時少し前に移動する。玄関には馬車が止められており、護衛と思われる集団と何やら話をしていた。
「父上、おまたせしました」
「特に待ってはいないよ。
あ、グランド君、紹介するよ息子のクエストだ。今回の視察に一緒についてくることになった。
クエスト、こちらは今回の視察の護衛をしてくれる冒険者のグランド君とそのパーティーだ、ほら挨拶をして」
「クエストです。今回の護衛、よろしくお願いします」
「ミリオンの旦那から紹介されたがグランドだ。あっちの細いのがエリック、あっちのローブを着たのがミリス、法衣を着たのがアリアだ。よろしく頼むぜ、坊っちゃん」
グランドは20代後半くらいの筋肉質のおっさんだ。イケメンってわけではないがなんかワイルドな感じがする。背中に大剣を背負っていて、見るからに戦士って感じだ。エリックと言われた男は見た目は20歳くらい。耳が長く尖っているのでどうやらエルフっぽい。感じ的に斥候職か?ミリスといわれたローブを着た女性は幼さを残した感じだ。胸も小さいがコレをいうと怒られそうなので黙っておく。いかにもって感じの杖を持っているので魔法使いだろう。アリアと呼ばれた女性は、いかにも神官っぽい。多分治癒魔法を使うことができるんだろう。腰にメイスを下げているからたぶん戦闘もこなせるっぽい。
「御者のフィリップは知っているよね、クエスト」
「はい、ミレーネの旦那さんですよね?」
「そうだよ。今回はこの7人で近くの農村の視察に向かう。
さすがに野盗とかはでないと思うけど、モンスターは出てくるかも知れないからちょっと危険な旅になると思うけど、グランド君達がいるから問題ないだろう。」
御者のフィリップ。さっき言ったとおり、俺付きのメイドであるミレーネの旦那だ。こういう時は御者をやるらしいが、普段はスチュワート同様、執事として館で働いている。
「それじゃ出発しようか。馬車にはボクとクエスト、それからミリス嬢とアリア嬢。グランド君とエリック君は馬でヨロシクね」
父上に言われて馬車に乗る。俺の隣に父上で、向かいの席にミリスとアリアという感じだ。俺たちが乗り込むとフィリップは馬車を出発させた。さてさて、これからいく農村はどんな感じなんだろうか?ちょっとだけ楽しみである。
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