第44話 タリウスのダンジョン 30階層まで 前編
「ここまでくるとわりかし敵も強くなってくるんだね」
コボルトの顔をぶん殴りながら、セリアが呟いた。殴られたコボルトは数歩よろけるが、再びセリアに向けて突進してくる。案外根性あるな。日本のファンタジーの定番だとコボルトってゴブリンと並ぶザコだったりするのに。こっちの世界だとオークより上の存在だもの。コボルト>オーク>ゴブリンって感じの強さ。だからといってどうということでもないんだけど。
「そうだな、一般的には21階層から30階層までがC+ランク冒険者あたりが活動する範囲って言われてるからな。マリーやセリアのレベル帯が来る場所ってことである程度は手応えがあるのかもな」
俺の横にきたコボルトをバトルスタッフ(金属)の方で叩きのめす。あ、これ結構使いやすいわ。
「クエスト様、新しい武器ですか?」
「ああ、カリンドに頼んで作ってもらった。魔術師用の杖を金属加工して打撃武器に使えるようにしてみたんだよ」
「なるほど、クエスト様もいろいろ考えますね」
ゼロ距離からファイヤーアローをコボルトに炸裂させているリズとバトルスタッフに付いて話す。さすがに21階層以下だとマリーとセリアだけでは数できつくなってくるということで、俺達も消極的ながら戦闘に参加している。
現在は23階層。今までよりフロア攻略の速度が遅くなっている。今日中に30階層をクリアして、カードにクリア記録をつけて明日から31階層に挑みたいわけなんだが。
ステータスカードの冒険者ギルド機能には迷宮のフロア登録機能が付いている。ダンジョンによって様々だが、一定の階層に設置されている魔道具にカードをかざすことによって、フロア登録ができるようになっている。これを登録することにより、次回からそのフロアから再開するようになる転移陣が使えるようになるのだ。このタリウスのダンジョンだとそれが30階層のボス部屋を抜けた先の小部屋に設置されており、30階層をクリアして登録すれば次回はそこから再開できるというわけだ。また、その魔道具を使うことによって、地上へ帰ることもできる。便利なものだ。
「ふう、なんとかコボルトの群れは倒したわね」
「だいぶ苦戦するようになってきたな。その分、経験も稼げるだろうけど」
「そうね、さっき1レベル上がったわ。この分なら案外レベル100もすぐかもね」
「期待してるよ」
戦闘に勝利して気分がよくなっているマリーはレベル100まですぐっと思っているようだ。実際はそんなに簡単なものではないが、それでもややスパルタ気味に戦闘をクリア返しているので、成長は速いのだろう。
「このヘルハウンドの炎が厄介だよ~」
27階層、ヘルハウンドの口から放たれる炎を避けながらセリアが叫んだ。ヘルハウンドは、ドーベルマンのような黒い犬型も魔物で、口から火を吐く。また獣型ということで、やや敏捷性に長け、この辺りの魔物では強い部類に入る。弱点となる水魔法を使えるのはパーティーでは俺だけなので、使えない二人はやや苦戦をしている。
「さて、とりあえず30階層のボス部屋前に到達したんだが…マリーとセリアは大丈夫か?」
「ちょっと休憩したいわね。正直つらいわ」
「あたしもー。あとちょっとお腹空いた」
「そこの小部屋で食事休憩と作戦会議をしてボス戦にするか」
俺たちはボス部屋の近くにあった小部屋に移動する。入り口に鍵をかけ次元倉庫から前もって作ってきた食事を出す。メニューはおにぎりと豚汁だ。豚汁はできたての鍋をそのまま次元倉庫に突っ込んだのでアツアツである。ちなみに野菜と豚だけで出汁を取るのが俺流。かつお出汁などの出汁を入れる豚汁に慣れている人には薄味と思われるが、この世界で豚汁を作るのは今は俺くらいなので味に疑問は持たれないだろう。
「豚汁は好みで、唐辛子を入れてな。あとニンニクのすりおろしも欲しければ。匂いがきになるかもしれないから必要ならってだけで」
「ニンニク入れると美味しくなるんだけど、ダンジョンで息が臭くなるのはなぁー」
「消臭用の薬を用意してありますから安心してください。クエスト様が豚汁を作っているのを見て用意しました」
「さすがはリズね」
用意がいいなリズは。女性陣は消臭薬があると知り、遠慮なくニンニクのすりおろしを投入する。この方が美味しいのだからしかたない。俺だって入れる。しかもこの消臭薬はかなり強力で、ホントにニンニク料理などの匂いのきつい料理を食べた際に飲む薬としては貴族では割りと常識だったりする。だからリズが持っていてもおかしくはないわけだ。
おにぎりと豚汁でお腹を満たし、作戦会議を始める。
「とりあえず、ボスのメタルゴーレムはアイアンゴーレムより少し硬い。鉄をメインにいろいろな金属が混じった金属でできている。だからドロップで稀に希少な金属を落とすことがあるんだが」
「私たちの武器では相性が悪いと」
「そうだね、特にマリーの剣やリズのデスサイズの刃は通りが悪いだろうね、普通に考えれば」
「一般的に考えればそうなりますね。もっとも私のデスサイズは材質が材質なので、たぶん普通に斬ることは可能ですが」
「まぁ、あのデスサイズは神器クラスの武器だからね。でもそれで最初からやられるとあたし達の練習にならないのよね」
「そういうことだ。なので、リズは地魔法と闇魔法でサポートを頼みたい」
「分かりました。地魔法で強度と切れ味の増幅、闇魔法で一撃の重さを増やせばいいのですね?」
「特にあたしなんて、軽いから重い一撃って難しいもんね」
「俺も今回はカリンドに造ってもらったこのスタッフを試したいから攻撃には加わる」
「それなら心強いわね」
「さすがにこのダンジョンの最初の難関と言われるボスだからな。申し訳ないがマリーとセリアだけじゃ荷が重い」
「わかっているわ。さすがにそこまで自分の力を過信してないわ」
「最終的につらそうだったら、二人も俺のサポートに回ってくれ。そうすれば俺がカタを付ける」
「そうならないように二人で頑張るよ。あたし達だってクエストの力になりたいし、いつまでもおんぶにだっこってのはアレだしね」
もう少し作戦を詰めてから俺たちは準備をしてボス部屋に入った。
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