第43話 タリウスのダンジョン 20階層まで
「女の敵はっ!!」
「殲滅っ!殲滅ぅーっ!!」
現在15階層。マリーとセリアはオークの群れを蹂躙している。あーたしかに地上にいればこいつら女の敵だからな。ダンジョンの中では繁殖はしないらしく、ただの魔物なんだけどな。まぁ、一般常識で女の敵だから仕方ないか。しかし、こいつら困ったことに豚肉をドロップしたりする。こいつらの肉なのか?まぁ、みんな普通に食べてるからもうそういうものと割り切るしかない。実際普通に豚肉だし。あ、マリーがまた1匹倒した。っていうかどんだけオークが出てくるんだ。俺の索敵にはあと8体ほど引っかかっている。すでに二人で15体ほど倒しているんだが。
「まったく、無駄にいっぱいいるわね」
「負ける気はないけど、もしもの時はちゃんと助けてね、クエスト」
「当たり前だ」
そんな会話をしながら、セリアは撲殺していく。殴られたくねーな。あ、最後の1匹のトドメを刺した。
「そういえば二人はレベルはどのくらいになった?」
「私は84かな」
「あたし78。マリーに負けた」
「戦闘経験考えたら仕方ないでしょ」
「そうだけど、なんかくやしいの」
6レベル差ならどっかで追いつけるかもしれないが…とにかく100を目標に頑張ってもらいたいと思っている。最も今日1日でそこまで上げろとか無茶は言わない。普通の冒険者なら数年かかるレベルらしい。まぁ、母上なんか、冒険者に復帰して2年で120レベルとか言ってた気がするけど、高レベルの父上やお祖父様と一緒に戦ってるからだろう。マリー達も同じことが言えるわけだけど。とりあえず、できれば夏までに上げてほしいとは思ってたりするわけだけど。
「それでも、もう4レベルくらい二人共あがってますよね?素晴らしいです」
「ありがとう、リズ」
16階層に降りる。相変わらず、石造りの古めかしいダンジョンだ。本当に31階層に降りると変わるんだろうか?
「あ、ジャイアントスパイダーが2匹進行方向に巣を張って待ち構えてる」
「了解。火魔法が使えれば楽なのに~」
巣を焼くんですね、わかります。
「巣に絡まるとアレだから、魔法で遠距離攻撃しようか」
「そうだね」
二人は魔法の詠唱に入る。マリーはウィンドカッター(風の刃)、セリアはレイ(光線)の魔法だ。どちらも中級の単体魔法だ。二人共魔力操作は俺の特訓でかなりのものだ。その威力は上級に迫るものがある。ただし、それは時間をかけて魔力制御を行えた場合によるもので、今回のように遠方の敵を狙うならまだしも、咄嗟ではそこまでの威力は出せない。普通に使うならば同ランク程度の威力になる。マリーの風の刃は魔物を切り裂き、セリアの光線は貫いて一撃でトドメを差す。今回は魔力制御をじっくり行えた結果だ。
「この辺りの敵じゃまだまだ余裕っぽいな。訓練の賜物かな?」
「たぶんね。基礎のステータスがレベルより高目なんじゃないかしら」
「そうかもな」
以前にも説明したかもしれないが、ステータスは訓練などで上昇し、レベルは戦闘経験によって上昇する。模擬戦などの訓練でもレベルが上昇するが、それだけではやがてレベルアップをしなくなってしまう。正確にはレベルを上げるための経験値が模擬戦ではほとんど得られなくなってしまうのだと思う。(この辺は未だに検証中なんだけど)逆に、命のやりとりをする戦闘を経験することはレベルアップに直結する。なので、模擬戦ばかりの一般兵に比べると、冒険者の方がレベルは高かったりする。ステータスも訓練により上昇すると言ったが、剣をふるう、魔法を使うなどの行動によって経験を蓄積させて上昇するため、実戦でも実際は上昇したりする。ただ、どうしてもそれ専門の訓練よりは効率が下がると言ったわけだ。だから、俺は朝の基礎訓練や、学校の実技訓練をおろそかにしないようにしてステータスアップに勤めている。レベルが上がるとどうなるのかというと、基礎のステータスにレベルによって修正が加わる。なので、同じレベルでも基礎のステータスの違いによって、差が出てくるというわけだ。一応、レベルは300が最大と言われている。もっとも現在までにそれに到達した人物はいない。寿命がほぼ永遠と言われたハイエルフにすらいないのだ。(もっとも彼らは好戦的ではないので、戦闘をあまり自分から率先してしないのが理由だろうが)
「さて、そんなこんなで20階層のボス部屋前か」
「案外楽勝だったわね」
「うん、思ったよりサクサクこれた」
「油断は禁物ですよ。とりあえず、休憩がてらに作戦会議を挟んで、ボス攻略と行きましょう」
「そうだな。この階層のボスはわかるな」
「えっと、ストーンゴーレムよね」
「そう、マリーは武器的には相性は悪い。以前教えた魔法剣を使えばダメージはある程度は与えられると思うけど、やれる?」
「うーん、試してみるわ。まだスキルレベルが1なのよね」
「覚えたてだからね、ともかく試してみよう」
「あたしは?」
「セリア様は打撃ですので、相性はさほど悪くはないでしょう。ガンガンせめて削るといいと思います」
「それじゃ、今回はセリアメインで、私は魔法剣を試しながら回復サポートって感じかな」
「それでいいと思う」
「俺とリズは10階層のとき同様にピンチになったら介入するから、全力で頑張ってくれ」
一応戦闘方針は決まったようだ。俺たちはボス部屋に入る。ボス部屋は広い空間で、真ん中に岩の塊が鎮座している。俺たちが部屋に入るとその塊が動き、巨大な人の形を形成していく。大きさはウッドゴーレム同様に3mほど。今回は岩石製のゴーレムだ。
「それじゃまずは、いつものエンチャントっと」
セリアが自分とマリーに攻撃力と防御力増加の付与魔法を使う。その後に、今回はマリーも速度上昇の付与魔法を使用した。回避力を上げるためだろう。ストーンゴーレムの一撃はとりあえず耐えれはするが当たらないに越したことはない。
「マリー、魔法剣を使う時は使うときにだけ発動したほうが今のお前には使いやすいと思う。維持をしたまま回復魔法は使いづらいだろうから」
「わかったわ」
その後に魔法剣を発動して維持をしようと考えたようだったマリーに釘を指しておく。まだマリーの魔力量とスキルレベルでは魔法剣を維持するには無駄が多く、ここぞの時に魔法が使用できなくなってしまうおそれがあるためだ。
魔法剣はその名の通り、武器に魔法を付与するスキルだ。通常のエンチャントと違い、その武器に付与した魔法の効果を武器に乗せて攻撃ができる。つまり、マリーの場合、ウィンドカッターを付与したのなら剣撃に風の刃の追加攻撃が、エアハンマーならば風圧の衝撃が追加されるといった具合だ。これを攻撃時に一瞬だけ発動させる方法と維持をする方法がある。ある程度スキルレベルがあり、かつ魔力量がある場合は後者の方が魔力消費は抑えられるわけだが、まだ慣れていないマリーの場合は前者の方が消費を抑えられる可能性が高いわけだ。
「魔法剣『エアハンマー』!!」
マリーの魔法剣が炸裂する。斬撃より衝撃のほうがダメージを与えられるとエアハンマーを選択したのは正解だと思う。そして、魔法剣最大の特徴は、武器攻撃を魔法ダメージに変更することにある。ストーンゴーレムは見た目からわかるように物理防御力は高いが魔法防御力はそれよりは低い。ならば魔法で攻撃すればいいと思うわけだがあくまで物理防御よりは低い程度。ガンガン攻めてくる相手に接近戦をしながら有効打を与える魔力制御を行いながら攻撃魔法を撃つ技術はまだ二人にはない。そして、基本的には接近戦がメインのマリーには、魔法攻撃を物理攻撃に乗せて攻撃できる魔法剣は有用なスキルだということで、俺が教えたわけだ。
「あたしも魔法剣覚えたほうがよかったかなぁ…物理で殴るだと効率が悪いかも」
「魔法剣は消費が激しいから連発できないのよね。早くスキルレベル上げないと」
二人で愚痴をいいながら、ストーンゴーレムを確実に削っていく。なんだかんだで危なげなく戦えている。頼もしい限りだ。
「セリア、魔法剣でわたしがコアを露出させるから、トドメをお願い」
「了解、ちょっと溜めに入るね」
セリアが後方に飛び退き、その場で溜めに入る。これから放つ技の予備動作だろう。その前にマリーが立ち、剣に魔力を集中させる。
「いくわよっ!!魔法剣『エアインパクト』!!」
エアハンマーの上位魔法であるエアインパクトを剣に乗せて放つ。その一撃はストーンゴーレムの胸部の装甲を弾き飛ばし、コアを露出する。
「飛翔脚!!」
セリアが力強い叫びを上げ、ジャンプし空中で一回転、そこから勢いよくコアめがけて飛び蹴りが炸裂する。……ライ○ーキック?
ともかく、セリアの飛び蹴りでコアを破壊されたストーンゴーレムはその身を崩壊させた。
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