第36話 試食会
そーいや定番のアレを出してなかったなぁと…
おまたせして申し訳ありません
試食が始まった。俺はまずディルム先輩の作った熊鍋を食べる。美味い。肉は柔らかくて油ものっているが煮込まれていることで思ったよりさっぱり食べられる。味の染みた野菜も美味しい。トリス先輩の焼き魚は塩加減が絶妙だし、ふっくらと焼けている。ナユタ先輩の焼き鳥も塩味だが皮がカリカリに焼けていて、それでいて肉はジューシーで、この研究会の料理レベルは高いな。
「クエスト君のこのおにぎりだっけ?食べやすくていいね」
「うちの故郷だと、冒険者にとても人気があるですよ」
「あーなるほど。これなら歩きながらとかでも簡単に食べれるもんな」
「今回はたけのこ御飯でつくりましたけど、普段は白米と塩でつくるんですが、これに醤油や味噌を塗って焼くのもおいしいんですよ。あとは中にいろいろな具材を入れてバリエーションも増やせます」
「奥が深そうじゃな…」
みんなは、おにぎりを片手にそれぞれの用意した料理を摘んでいる。どうやら気に入ってもらえたようだ。
「この筍ってのもいい食感だね。他にもなにかこれで作れるのかい?」
「スープの具材にも使えますし、その他にも煮物や炒めものなんかにもできますよ。本当は今日は煮物をつくろうとおもったんですが、みんなのメニューを聞いておにぎりに変えたんです」
「なるほどね。また今度つくってみてよ」
「了解です」
ディルム先輩はけっこう料理に関してはグイグイとくる。きっと料理が好きなんだろうな。腕もとびきりだし。今開発中のアレの試食などに付き合ってもらおうかな。様々なスパイスは用意できたんだけど、未だに完成していない。日本では市販品を作っていたからな。調合の比率を調べておけばよかった。
「あ、クエストに頼まれたばら肉の固まりを渡しておく。これをどーするんだ?」
「ベーコン――燻製にするんだ」
「それはうまいのか?」
「俺は美味いし大好きだが、市販されているのを見たことないな。ま、こっちに来る前につくったこともあるから楽しみにしてくれ。大体1週間ちょっとかかるけど」
「長いな」
「まぁ、楽しみにしとけってことだよ」
そんな会話をリュースとしていると、肉を焼く音と匂いがした。そちらを見るとマグ先輩がイノシシ肉を焼いていた。最後に何かをかけていた。生姜と醤油の焦げる香り。どうやら先輩は生姜焼きを作っているようだ。それにしても醤油を持っていたんだな、マグ先輩。
「生姜焼きできたぜ、リュース、まずはお前が食ってくれ。このイノシシを捕ってきたのはお前だからな」
「あざーっす。うぉっ!!うめぇ!!」
リュースは目の前に置かれた大盛の生姜焼きを嬉しそうに食べる。この香りは暴力的だよな。俺も食べたい。こんなことなら白米も炊いておくべきだった。白米と生姜焼きの組み合わせは最高だからな。
「あー美味いっすね。マグ先輩、醤油って王都でも売ってるんですか?」
「おう、ラリック商店ってとこで取り扱ってるぜ。ラインバッハ辺境伯の領地で作ってるらしいな」
「王都にも持っていくって言ってたけど、本当だったんだ」
「あれ?クエストは知ってたのか?」
「ああ、俺の地元がラインバッハなんで」
さすがに俺が作ったとも、ラインバッハ辺境伯の息子ですとも言えなかった。それにしてもラリック商店は王都にも出店していたんだな。今度行ってみよう。
「生姜焼きをつくるんだったら、普通に白米も炊けばよかった」
「白米とやらは生姜焼きに合うのかえ?」
「抜群の相性ですね。あ、でも……すみませんが、だれかキャベツを千キャベツにしてもらえません?」
「あたしがやるわ」
「それじゃ俺はっと」
俺は卵と油、酢、塩に胡椒を用意する。それをボウルで混ぜあわぜて撹拌する。定番のマヨネーズを作っている。そういえば今まで作っていなかったなっと思いながら混ぜる。
「それはなんだい?」
「マヨネーズっていうドレッシングの一種です。ちょっと味見してみます?」
俺は希望者全員にマヨネーズを少しずつ味見させる。
「酸味があるけどまろやかでおいしいわね」
「野菜とかに合いそうだな」
「クエスト、もっとくれ」
「クエストってけっこうものしりね」
いろいろな感想が出てくるが、概ね好評だ。俺は次元倉庫からコッペパンを取り出す。黒パンがメインのこの世界でコッペパンといえども白パンなのでやわらかく美味しい部類に入る。コッペパンに切れ目を入れてマヨネーズを塗り、切ってもらった千キャベツと生姜焼きを挟み、更に上にマヨネーズを少量かける。
「どうぞ、マグ先輩の生姜焼きをアレンジしてみました」
「うぉっ!!これも美味い」
「マヨネーズの酸味と生姜焼きの味がマッチして、更にキャベツのシャキシャキ感もいいし、美味しいね」
「こんな食べ方があったのか」
「クエスト、グッジョブ!!うまーうまー」
セリアさん、なんかアホの子になってますよ。まぁ、いいか。
「とりあえず、今日はマヨネーズの作り方を教えてもらえるかな?これは増産して確保しておきたい」
「あたしも」
ディルム先輩とトリス先輩がマヨネーズに食いつく。どうやらマヨラーが誕生してしまったようだ。俺は丁寧に材料と作り方を研究会のみんなに教える。ビックリしたことだが先輩達全員、次元倉庫を持っているということで、できた大量のマヨネーズを各自確保していた。このあと、食堂でマヨネーズを使っていた先輩たちやリュースを見て学院に空前のマヨネーズブームが訪れるのは別の話である。
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