第27話 入試
大変おまたせしてもうしわけありません。
第2章の学院編開始です。って言ってもまだ入学してませんが。
新章ということで新キャラいっぱいでてきますよ・・・たぶん
俺たちは王都の学院内の体育館の前にいた。何をしているかというと、入試の実技試験だ。一昨日、学科試験が行われた。受けた感想は小学校低学年レベルの問題だった。よくよく考えると俺たちは年齢的には中学生に上がるくらいだ。世界的に見ても識字率などを考えるに十分この年齢で受ける試験では高難易度なのかもしれない。3人とも余裕だった。事前に俺が二人と受験勉強をしていたのもあるだろう。あとで知ったのだが、その時すでに学院卒業レベルの授業を行っていたらしい。
「それにしても、私達の出番はまだなのかしら?」
「武術と魔術の実技って話だからね。5人1組で試験してるんだろ?受験者は結構いるんだし、時間が掛かりそうだな」
「軽く準備運動でもしましょうか?」
俺の受験番号は173番、マリーが172番でリズが174番だ。番号的には同じ組で試験をすると思われる。現在、120番代の受験者が試験を行っている。つまりまだまだ出番はこなさそうだ。知り合いという知り合いも二人しかいないし、だからといって他の受験者と仲良くなるつもりもない。お約束なら、美少女二人をはべらした俺にバカ貴族のボンボンあたりが絡んでくるという展開もあるんだろうが、そのような展開なさそうだ。 リズの提案で軽く準備運動…っとも思ったが、他の受験者の目もあるのでやめておいた。きっと俺とリズが撃ちあうとドン引きされかねない。
「受験が終わったらどうする?」
「そうだなぁ…そういえばまだ冒険者ギルドの方へ行かないか?」
「あーそうね、登録申請しないといけないか」
ここでいう登録申請というのは、冒険者の登録申請ではなくラインバッハから王都のギルドへの移動登録の申請である。といっても大した手続きが必要なわけではなく、挨拶に行くみたいなもんだ。今後は学生生活の合間に冒険者をやることになるだろうからその手続きもやっておかないといけない。
「っと、俺達の番みたいだぜ」
俺たちの番号が呼ばれ、呼ばれた俺たちは体育館に入っていく。体育館の中は武術試験用の試合場と、魔術試験用の射撃場のようなものが作られていた。それぞれの会場に5人の試験官がいた。――正確には試験官は6人だ。アトモス学院長が両方を見るつもりらしい。
「それでは武術の試験を始めます。受験者の皆さんがどのくらいの武術の腕を見る試験です。そちらに数種類の木製の武器が用意してありますので、各々の得意な武器を使って試験官と5分間試合をお願いします」
「手抜きはしないでくださいね。本気でお願いします」
試験官の説明に注釈をつけるようにアトモスが手抜きをするなと言ってくる。それは俺にか?俺に言ってるのか?俺が本気でやったらどうなるかくらいお前わかってるだろ?っと心の中で苦笑する。
171番の受験者が木剣を片手に試験官と試合を始める。いちいち解析をするつもりはないが、受験者は剣戦闘レベル1、試験官がレベル3くらいか?俺は最初は槍で受験を受けるつもりだったんだが、アトモスがなにか言ってきそうな気がする。仕方ない、当初の予定を無視して目立つとしよう。あの野郎のことだから、魔術試験でも同じことをいいそうだ。
171番の試験が終わり、次はマリーだ。マリーは剣士なので当然木剣を持つ。マリーの剣戦闘レベルは2だ。もうちょっとで3になりそうな気がする。試験官ともいい勝負をしている。むしろ、マリーの場合は俺たちと討伐依頼などをここ数ヶ月行っているため、戦闘経験値が高い。それでなんとか食らいついていっている。時間いっぱい攻めていって終わったようだ。
「お疲れ様」
「勝てなかったわ」
ものすごくくやしそうにマリーは言う。いや、簡単に勝てたら試験官の立場ないだろう?いまからメンツ潰しちゃうんだが…。
俺はショートソードサイズの木剣を手にして試合場に上がる。なんでこんなもん用意してあるんだ。確実にアトモスのやつが仕込んだんだろう。いや邪推はいけない。力がない人が使うかもしれないし、慎重の問題もあるだろう。
「よろしくお願いします」
俺は試験管に一礼をすると木剣を構える。開始の号令と同時に間合いを詰めて試験官の剣を払い落とし、背後に回って首筋に剣を当てる。席に座っていた試験管が「なにが合った?」っとお互いに顔を見合わせている。アトモスは口元に笑みを浮かべながら俺を見ている。俺の相手の試験官はなにがあったのかわからないと言った表情をしている。その後に両手を上げて降参した。
「クエスト…なんなのあの動き」
「学院長が手加減するなって言ったからね」
「それにしたって…」
マリーがブツブツと納得がいかないといった表情で呟いている。2年前の模擬戦のことを思い出しているんだろうか?そんな風にマリーを見ていると試合場の方から人が倒れる音と試験管達のざわめきが聞こえた。試合場を見ると、試験管を見下ろすリズとうずくまって倒れている試験管がいた。……あいつ手加減しなかったな。
武術の試験が終わり、魔術の試験会場に移動する。アトモスも一緒についてくる。やっぱり両方見るつもりだ。俺とリズの試験内容にご満悦なのかものすごく嬉しそうだ。魔術を本気でって言われると正直困る。俺の最大魔術は広域殲滅型だからこんなところで仕えば会場というか学院が吹っ飛びかねない。多分、単体用魔法の最大を使えってことになるだろう。正直、アトモスに遊ばれてる感が半端ない。あいつは昔からそうだった。
「マリー、そういえば攻撃魔法使えるの?」
「一応、覚えたわよ、初級だけど」
「マリー様は回復・補助特化型ですから。大変でした」
どうやらリズが教えたらしい。もっとも、マリーの適正はたしか風と治癒。リズの特性とは全然違うが、攻撃魔法を使う魔力操作の基礎などを教えたのだろう。もともと治癒魔法はかなりのモノなのだから教えれば簡単に……とはいかなかったようだ。
「エアハンマー!!」
マリーは簡単な詠唱のあと、風魔法の初級であるエアハンマーを的に向けて放つ。圧縮された空気の槌が的を叩く。初級しか使えないといったわりにはなかなかの威力だ。的が大きく揺れている。マリーは治癒が中級まで使える。また治癒の魔法は魔力操作が鍛えられるので、初級とはいえマリーの魔力操作で威力が上がったのだろう。
「次、173番お願いします」
さて、どの魔法を使おうか。全力でやるといろいろマズイ。だがアトモスは全力でやれと目で言っている。いやまて、試験管にお伺いを立てよう。
「すみません、使える最大威力の魔法が範囲魔法で施設に影響が出てしまうので、単発魔法で最大威力の魔法でいいでしょうか?」
「それでかまいません・・・よね?」
「かまいませんよ」
試験官がアトモスにお伺いを立てて、アトモスもそれに了承する。そうと決まればあとは簡単だ。俺の最大威力の単発魔法を放てばいい。
「ミョルニル・サンダー」
魔法名を魔力を込めた声で唱える。俺は自分の使える魔法は無詠唱で使えるため、魔法名を唱えるだけ使える。雷魔法真級の単体攻撃魔法だ。なんでこの世界に俺の世界の雷神トールの槌の名前がついてるのかはよくわからんが、こんなこと気にしたら負けだ。俺の魔法で的が消滅する。やり過ぎたか?
「無詠唱……?」
「いやその前にあんな魔法しらんぞ?」
「まさか真級以上?」
試験官がヒソヒソと言い合ってるのが聞こえる。アトモスはまたもドヤ顔をしている。なんだろ、ムカつく。俺が消滅させてしまった的はアトモスが魔法で錬成する。あーあいつが作ったんか。きっとリズにもぶっ壊されるぞ。
そう思っていると今度はリズがアーススパイクで的を吹き飛ばす。アトモスがやれやれという顔をしている。これくらい予想通りなんだろう。マリーからリズまでの流れで、リズの次の受験者が唖然としていた。うん、規格外と一緒になるとつらいよね。俺たちのあとの受験者たちが見劣りされないといいけど。そんなことを思いながら、俺達は試験を終えて会場をあとにした。
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「学院長、彼らは?」
クエスト達の試験が終わった後に試験官をしていた教諭たちが私に詰め寄ってきた。試験開始前に私は『すくなくとも二人、私の知り合いでとんでもない逸材が受験する』っと注意してあったはずだが。彼らの想像を超える存在だったようだ。それに、一緒に受験をしていた姫様もなかなかよい成長をしている。どうやらクエスト達に付いていろいろ学んでいるようだ。
「私はいいましたよね、とんでもない逸材が最低でも二人は受験すると」
「逸材というより規格外ですよ!!??彼らは学院に通う必要があるんですか?」
「彼らが必要があると思ったから受けたんでしょう?この話はあとにして、試験の続きをしますよ」
無理矢理話を終わらせる。彼ら以外にもなかなかの逸材が受験をしていましたね。今年は多少豊作な年かもしれません。彼らが入学した後が楽しみです。
お読みいただきありがとうございます。




