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第19話 アトモス学院長

 謁見の翌日、俺は王都にある学院の学院長室にいた。

 ――ローレンド王立学院。王都にある12歳以上の男女に入学資格がある学院だ。武術や魔法以外にも商業や工業の技術を学ぶために用意された学校である。基本的には王国民が入学資格を持つが、国交のある各国の推薦者も留学が許されている。俺も12歳になったらリズとともに入学予定だ。

 なぜ俺が、そんな学院の学院長室にいるかというと、1000年前の仲間であったハイエルフの魔術師であるアトモスが学院長をしていたからだ。母上が学院在学中にアトモスの直弟子となったため、そのコネを使って面会を求めた。その内容を認めた手紙に仲間にしかわからないサインを入れた。たぶんそれが決め手になったのだろう、俺とリズの二人の面会を許可したのだ。


「はじめまして、アトモス学院長。ピューリスの子、クエストとその従者のリーゼロットです」

「はじめまして、当学院の学院長、アトモスです。

 ところでクエスト君、どうしてキミがこのサインを知っているんです?」


 直球で手紙にあるサインについて聞いてくる。


「俺のコレとリズのコレを見てください。あ、危ないので気をつけてください」


 俺は神剣を、リズが魔王杖をテーブルの上に置く。それをみたアトモスが目を見開く。


「コレをどこで?」

「アトモス学長は転生を信じますか?いや、あなたの仲間である霧島燐が前世の記憶をもって転生していたことは知っていますよね」

「まさか……」

「俺の前世は『霧島燐』。その能力と記憶を継承しています。リズはディメルディアの」

「そんなことが……しかし、この武器を見せられて信じないわけにもいきませんね。

 しかし、ディメルディアの転生者とは…危険ではないのですか?」

「かつての戦いで勇者リンは私が狂っていた原因を取り除いてくださいました。なので今の私はかつての魔王の能力と記憶を受け継いだリーゼロットという1個人です。クエスト様に忠誠を誓っています」


 リズは真剣な表情でアトモスを見つめる。アトモスも見つめ返す。


「信じますよ。あなたの目はまっすぐだ。それで私にどのような御用で?」

「とりあえず、仲間であったお前にだけはこのことを伝えておこうかとな。さすがに1000年経ってると他に生きている仲間もいないわけだしな」

「なるほど、ついでにいろいろ私に1000年間のことを聞きたいと」

「そういうことだ。一番聞きたいことなんだけど、なんでこんなに人類が弱体化してるんだ?この国だけなのか?」

「っと言いますと?」

「1000年前だと冒険者とかでも200レベルとか結構いただろ?いまだと上位冒険者と言われるBクラスくらいでも100レベルちょっと、王国の聖騎士である父上クラスで130前後。お祖父様や騎士団長クラスでも200行かないってのはいくらなんでも弱体化しすぎだろう?」


 アトモスは俺の発言の内容を聞き考えている。


「それに魔法もだ。魔法の威力が低くなってる気がする。まぁ、これはレベルが低いってこともあるのかもしれないが、魔力の制御が下手な気もする」

「そうですね。実際に私もそれは感じていました。1000年前に比べると魔物の活動も抑えられてかつてほど脅威がないということで、実戦経験が少ないというのはあるかもしません。魔法についてもかつてほどは魔力制御を学ぼうとしていない…というか魔法を使えればそれでいいと思い込んでいる風潮がある気がしますね」

「やっぱり実戦経験が少ないのか…実際力ある騎士とかは父上の話を聞くとかつて冒険者をしていたことがある人がほとんどだしなぁ」

「学院のカリキュラムにもダンジョン探索や野外活動をいれましょうかね、そうすれば多少の底上げは可能かもしれませんね。あと魔法のカリキュラムに魔力制御関連を増やして。

 しかし、今は平和な世の中です、そこまで戦闘力を上げる意味がありますか?」

「ん~。あくまで俺の杞憂で終わればいいんだけど、1000年もの間特に大きなことが起こってないんだろ?そろそろなにか起きそうな気がするんだよ。

 うちの街の近くの魔物の森をちょこっと奥に偵察にいったんだが、思いの外魔物の数が多かったんだ」


 本当に杞憂であればいいんだけど。津波のように1000年もの間引いた波がいきなり襲い掛かるかもしれないと。この1000年後の世界にかつての勇者と魔王が能力を盛ったまま転生したのだ、なにかがあると疑ってもおかしくないだろう。イセリアは今のところ問題はないと言っていたが、あくまで今のところだ。どこかでなにかの予兆があるかもしれない。ならば少しは方策を考えてもいいだろうと思ったわけだ。


「アトモス、俺とリズのことはお前の心にとどめて置いてくれ。俺達はまだ家族にこの事は伝えていないし、陛下たちにも当然報告はしていない。勇者と魔王がいるなんてしれたらどんな混乱があるかわからない」

「そうですね。なにかがあるまでは黙っておくべきでしょう。特に隣国であるグランベルトがどう動くかわかりませんしね」

「グランベルト?たしか女神と勇者を祀る宗教を国教とした宗教国家だったか」

「そうです。あの国の王族は勇者リンの末裔を自称していましてね…あなたに子供がいないのは私は知っていますけど。そしてあの宗教は人間至上主義を掲げていますからね」

「支配のために俺の名前を勝手に語る国か…しかも人間至上主義とかふざけてるのか?」

「この国とは相容れないですね。この国ではかの宗教の布教は禁止されてます。しかし、愚かな貴族の一部にシンパがいるらしいですね」

「まったく…困ったもんだな」


 詳しく聞くと500年ほど前に俺の子孫を名乗る一族が、女神と勇者を賛える宗教を広め始めたのが始まりらしい。俺の仲間であったエルフ、魔族、獣族、竜人、ドワーフの5人は、魔王によって虐げられていたところを俺に助けられ従属した種族であり、人間が彼らを従え導かないといけないと言っているらしい。しかも女神に認められた勇者の言葉なのだと。ふざけるにもいい加減にしろと言いたい。俺は彼らを仲間と思ってはいたが、下僕だなんて一度も思っていない。アトモスも抗議をしたらしいが、エルフの言い訳など聞かないと突っぱねられたらしい。ローレンド王国としても国の主義に反すると国交は持っていない。多少の小競り合いはあったものの大きな戦争には発展していなかったそうだ。

 現状は俺もなにか手を打とうとは思わないが、なにかちょっかいをかけてくれば潰すくらいの気分だ。


 俺たちはそのあと1時間くらい他愛のない会話を楽しんだ。2年後はよろしく頼むといって学院を後にする。アトモスも楽しみにしてますよっと俺を見送った。

 




お読みいただきありがとうございます

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