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第14話 わかめと包丁

 今日は港湾部に行こうと思う。ホントはブラドと米料理についていろいろやったり、買ってきた香辛料でカレー粉を作りたいといった衝動に駆られたが、港を見ておきたいという願望が勝った。ブラドには米の炊き方を伝授したし、港湾部で潮風に吹かれながらおにぎりが食べたいとか思ってしまって、ブラドに頼んでおにぎりの弁当を作ってもらった。父上に港湾部にいくと伝えたところ、さすがにあそこは多少危険だからと、リズ以外に護衛としてグラントとエリックがついてくるということになった。グラント達全員でっていうのも物々しいということで、この二人がついてくるそうだ。ミリスとアリアは母上のお茶の相手をするそうだ。

 俺たち4人を乗せた馬車は、港に向かう。城塞都市ラインバッハの港は3つの区域に分けられる。まずメインとなる商船が留まる貿易港区域。当然ながら一番大きく倉庫なども多く建つ。当然ながら人の行き来が多く、やや治安が悪いが活気づいている。その隣は一般人は基本的に立ち入り禁止の軍港区域。我が国の海軍の基地の一つで近隣海域の取り締まりを基本的に行っている。海賊などが出たり、貿易港区域での犯罪取り締まりを行っている。最後に一番小さい(といってもそれなりの規模はある)のが漁港区域。街に海産物を供給している場所だ。ラインバッハという城塞都市の中に漁村が組み込まれた形から始まったと言われている。そんな3つの港を抱えているのがこの街の港だ。

 軍港については俺が入る権限がないので、今回は見学はできない。夜にこっそり抜けだして見学に行こうかと少しだけ思ったが、行く意味があまりないのでやめた。今回は、貿易港と漁港、とくに漁港の方に行こうと思っている。

 貿易港の入り口で馬車が止まる。外にでると潮の香りがする。海に来たんだなと改めて思う。貿易港の中は活気づいていた。貿易船から馬車で荷物が倉庫に運び込まれている。ガタイのいい船員やら護衛の冒険者やら商人やらで賑わっているようだ。石造りの港は正直ここまで整備されていると俺は思わなかった。商船もなかなか大きい。海賊対策に武装などもされているっぽいが、大砲などない世界なのでバリスタっぽい物が付いている。船から倉庫へ、倉庫から街へ馬車や人の往来がすさまじい。また南の大陸以外にもこの国の他の地域へ荷物を運ぶ船もあるそうだ。


「なかなか見事なもんだろ、クエスト」

「そうだね。正直ここまで見事なものだとはボクは思わなかったよ」


 この国は特に種族によっての差別はないので、こういった貿易港はいろいろな種族がいる。交易の主な相手は南の大陸なので、こちらの大陸ではあまり見ない魔族もちらほらと見える。人間も多いが獣人のとりわけ力自慢の多い草食獣型の獣人を多く見かける。逆にエルフやドワーフと言った種族はほとんどいない。いろいろ南の大陸のことなど聞きたいがみんな仕事をしてるわけで邪魔をするわけにもいかない。そのうち時間ができれば父上に頼んで、南の大陸と交易をしている商人に話を聞く機会をもらおうと思った。それ以外にも機会があれば船に乗せて貰いたいとも思う。南の大陸にも興味があるし。


「グラント達は交易船の護衛とかやったことあるの?」

「俺たちはないな。金はいいけど、かなりの時間を拘束されるしな。ミリオンの旦那から指名されることも多いから基本的にこの街近辺での仕事をしているのさ」

「あと、ボクは海の上ってのは落ち着かないからね。やっぱ大地の上がいいよ」

「はははは、エリックらしいや」


 そんな会話をしながら、そのまま歩いて、漁港の方へ向かう。漁港は貿易港ほど大きくはないが、いくつかの中型船と小型船が停泊している中規模というには小さい気もするがそれなりの大きさの港だった。こちらは入場制限も特になく、市民が釣りなどをしていた。俺は体を乗り出して、海を見た。港の壁面となる石壁には、ワカメのような海藻と岩牡蠣のような貝が付着していた。海藻を食べる文化はないらしいので、コレをとっても問題ないかなっと思ってしまう。牡蠣も市場などで見た記憶はない。さすがに牡蠣を取るのは無理だけど、ワカメはなにかで切ってなにかですくえばとれそうな気がした。ちょうどいい物はないだろうかとふと思って、リズを見る。――あった。


「リズ、申し訳ないんだけど、デスサイズ貸してもらえる?」

「え?別に構いませんけど、こんなところで何につかうんですか?」


 リズは疑問に思いながら俺にデスサイズを渡す。いきなり武器を取り出したので、グラントとエリック、釣りをしていた市民も驚く。俺はデスサイズに縄を縛りつけると、自分の腕にその縄を巻き付ける。もしも手が滑ってデスサイズを海に落とすとマズイからだ。主にリズ的に。

 地面に寝そべってデスサイズを使って石壁に付着したワカメを切り取る。切り取ったワカメをうまいこと鎌部分に引っ掛けて取り上げる。案外うまく行くもので、ひょいひょいとワカメを取った。


「私のデスサイズが潮まみれに……」


 リズが悲しそうにブツブツと呟いている。やべ、ちょっとかわいそうなことした。そろそろやめよう。俺はデスサイズを引き上げ、水魔法で綺麗に洗い、風魔法で乾燥させて、刃の部分にちゃんと手入れをしてから、リズに「ごめん、こんなことに使って」ってデスサイズを返す。リズは「いえ大丈夫です…大丈夫です」っとちょっと悲しそうにしながら受け取った。ホント悪いことしたな。


「クエスト、それどうすんだ?」

「どうするって食べるんだけど?コレを洗ってから茹でると食べれるんだ。味噌汁の具に最適かな。ほかにもサラダなんかもいいよ。」

「へー。こんなもんがねぇ」

「コレは家で試食用に持ってくけど、今度宿の方に持って行くよ」


 グラントにそう言ってワカメを次元倉庫にしまう。砂をつけて干して乾燥させようと思ったが砂がないので、塩ワカメにして保存しよう。それからワカメを取るための専用の道具を作らないと。たしか螺旋状にした金具を棒につけて引っ掛けて取るんだったかな?あとはあの牡蠣をどうにかして手に入れたい。焼き牡蠣やカキフライが食べたい。さすがに生で食べる勇気は俺にはなかった。

 釣りをしている人に釣果を聞いて魚を見せてもらったりした。どうやらハゼが釣れるらしい。天ぷらにするのもいいなぁ。そういえば揚げ物ってこっちでは作ってないな。油は少々高価なのでふんだんに使うってのは抵抗があるのかもしれない。今度試して見よう。唐揚げやフライなんかは絶対人気が出ると思うし。

 漁港を見学し終えたあと、適当な場所にシートを引いて昼食にする。昼食はおにぎりと漬物、ゆでたまごだ。こっちの世界にゆでたまごってのはなかった。ブラドに言って鍋に水と卵を入れて12分茹でるように指示して、10個くらい卵をゆでた。そのうち1つをブラドに食べさせると「このような食べ方があるんですね」っと半熟玉子を食べながら関心したように言っていた。湯で時間によって固まり方が違うから用途によって湯で時間を変えると説明した。


「この卵はなんだい、クエスト君」

「ゆでたまごって言って卵をゆでた物だよ。殻をとって塩をつけて食べるんだ。塩付け過ぎないように気をつけてね」

「へーこんな食べ方があったんだね」


 エリックは関心したように殻を剥き、塩をつけて玉子を半分齧る。中の黄身が半熟なのにビックリしながらウマそうに食べていた。グラントもそれをみてゆでたまごに手を伸ばしていた。おにぎりは鰹節の物とマスの塩焼きをほぐした物の2種類。どっちも魚系ってのがアレだけど、昆布の佃煮もないし、梅干しもない。たらこやシーチキンもないとあってはこのくらいが限度だ。

 それにしても潮風の中食べるおにぎりってのはなんでこんなにうまいんだろう。


「クエスト様、お茶をどうぞ」


 次元倉庫からお湯を取り出しリズがお茶を淹れてくれた。次元倉庫は覚えてしまえばほぼ無限に物を入れておける便利なスキルだ。それなりに習得は難しく仕える人は少ない。人口が10万人規模のこの街でも仕える人は1%に満たないそうだ。母上やミレーヌにも頼まれて教えたけど未だにできていない。ミリスが運良く覚えてグラント達はその恩恵を受けている。次元倉庫の中に生物は基本的に入れられない。なぜか植物はOKという謎仕様だけど。あと次元倉庫内では時間が止まり、中に入れたものを劣化させずに保存する機能があるため、出来たてのスープなどを入れて置けば、取り出したときにアツアツの物が食べられる。リズが出したお湯も沸騰したやかんを入れておいたらしい。漁港に来たのは運が良ければ捕れたて魚介類がゲットできるかもっという淡い期待もあった。先ほど港の関係者に話を聞いたら、今日は漁に出てないとのことで大変残念だった。刺身にいい魚を入手したかったのに。でも、この世界の人に刺身は受け入れられるかな?ちょっと不安だ。それにワサビがまだ見つかってないから実際食べるとしても物足りないかもしれない。ホースラディッシュがあったような気もするから、それで代用もいいかもしれない。


 ひと通り港関係をみた俺達は、馬車に乗ると今度は職人街にいってもらう。フライパンや鍋などはあるが、もうちょっと使い勝手のいいものを作って欲しいと思ったからだ。ほしいのは中華鍋。それからそば切り用の包丁。これがアレばいろいろと料理がしやすくなる気がする。中華鍋は特に炒める以外に揚げたりゆでたりもできるから重宝しそうだ。馬車はおすすめの職人の工房の前に止まる。中から出てきたのはドワーフのおっさんだった。白いヒゲを携えた見るからにドワーフって感じのおっさん。ブラドが鍋や包丁を頼むならここがいいと推薦してくれた。どうやらブラドが懇意にしてもらってるらしく、紹介状も書いてくれた。


「はじめまして、ブラドの紹介でこちらに来ました。クエストといいます」

「ほう、あいつの紹介か。ワシはコリンドじゃ。ふむ、ほんとうにそうみたいだな。で、何をつくってほしいんだ?」

「ちょっと変わった形状かもしれませんが厚手の鍋とこれまたちょっと変わった包丁みたいなものなんですけど」


 俺は予めイメージを描いてきた紙を職人に見せる。コリンドは興味深そうに俺のイラストを見る。俺は自分はまだ子供なので子供用の小さい物と通常の大きさの2種類の鍋を作って欲しいと説明をしながら依頼する。そば切り包丁の方はとりあえず1本でいいと頼む。コリンドは「おもしろい注文じゃ」っとやる気を見せた。実際問題、俺は鍛冶のスキルを持っているので自作してみてもいいと思ったが、自分の工房がない。両親に工房を作ってくれと頼んでも無理だろう。そもそもまだ10歳にも満たない子供が鍛冶仕事をするのをたぶん認めてもらえない。

 コリンドはいろいろ試してみたいから2~3日したらまた来てくれと心よく依頼を承諾してくれた。せっかくなので工房の店舗側でコリンドの作品を見る。フライパンや鍋、包丁と素晴らしいできの物が並んでいた。グラントも包丁を見ながら「あのおっさん、武器を作ってもすげーんじゃないか?」って言っていた。当然、質がいいので値段も高めだ。俺ももうちょっと大きくなったら彼の包丁が使いたいと思った。子供用の包丁は売ってなかったし。

 その後に、まだ時間があったのでグラントが行きつけにしている武器工房と防具工房を見学させてもらった。どちらもドワーフの職人だった。助手の中には人間も居たが、やはり鍛冶周りはドワーフの独壇場っぽい。服飾などはどうやら人間の方が得意らしく、そちら系の工房は人間がメインだった。

 グラント行きつけの工房の主もかなりいい腕前だった。今グラントが使っている大剣もその人の作品だということだ。過去に消耗した忍具の一部を見本として渡して補充しようかとちょっとだけ考えた。防具の方は現状は特に必要がないのでほっとくことにした。

 ついでに武具屋で武器をみたり、露店を見たりした。露店は露店地区に店舗許可を取った冒険者がダンジョンで見つけた物などを並べたり、市民が不要になった衣服や道具を売っていた。ちょっとしたフリーマーケットである。なにか掘り出し物はないかなと探してみたが、特に俺がほしいような物はなかった。ただ、ちょっといいかな?っと思った琥珀で作られたブローチがそこそこ安い値段で売っていたのでそれを購入した。特になにか効果のあるアクセサリーではないが、デザインが結構いい。なによりリズに似合いそうだった。


「リズ、さっきのお詫びじゃないけど、コレをプレゼントするよ」

「クエスト様、使用人の私にそのような気遣いは不要です」

「買ってしまったし、リズに似合いそうだったからプレゼントするんだよ。気にしないでいけとって」


 俺は強引にリズにブローチを渡す。リズは遠慮はあったが受け取ってくれた。そのまま首にかけると目立たないように衣服の中にしまってしまった。見えなきゃいみないじゃないかと思いながらもこれ見よがしに宝石をつけているメイドってのもどうかと思ったので黙っておく。


「クエストもなかなかやるじゃねぇか」

「ホント、隅に置けないですよね」

「いや、そーいうんじゃないから」

「照れるな、照れるな」


 リズにブローチを送ったところを見ていた二人が俺をからかってきた。この兄貴分二人はまったく。っと思いつつこーいう関係が築けるのは嬉しい。


「さてと、屋敷にいるみんなになにかおみやげでも買って屋敷に戻るとするか」


 俺はそう告げると露店を再び物色した。



お読みいただきありがとうございます。


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