第11話 クエストについて
今回はちょっと視点を変えた話にしてみました
クエスト・ラインバッハについて
――リーゼロッテの場合
私はリーゼロッテ。通称リズ。ラインバッハ家のクエスト様専属メイド。お婆様であり、師匠でもあるラインバッハ家王都屋敷侍従長であるメイリンよりメイドとして必要なメイド道を叩きこまれ、この城塞都市ラインバッハに送られた。
私の前世は1000年前にこの世界を破滅の危機に追いやった狂気の魔王ディメルディア。その記憶と能力を引き継いで生まれた。狂気の部分は前世で勇者リンのおかげにより、その原因の邪神の欠片を取り除かれていたため、私の心は私のままだった。前世の記憶は、邪神の欠片に侵され、狂気のままに世界を破滅させた後悔があった。
お婆様に魔王であったことは触れずに、前世の記憶と能力があり、次元倉庫にアイテムがあることを伝えた。気味悪がられるかもしれない、捨てられるかもしれないという不安はあったが、
「前世がどうであっても、今のお前が私の孫であることは変わりないのだろう?それならそんなもん関係ない。人よりスタートラインが大分前にあってラッキーくらいに思っときな。それにそんなのメイドとしてはなんの役にも立たないだろう?あ、戦闘能力は少しは約に立つか」
っと笑って言ってくれた。私は少し救われたような気がした。だから、お婆様が胸を張って『コレが私の孫で最高の弟子だよ』って誇れるくらいのメイドになろうと誓った。
「過去のことなんか気にしなくていい。それで、ボクに仕えることがリズにとって嬉しいのなら、ボクは全然構わない。もともとそうでなくてもボク付きのメイドとしてこの館に来たのだから、予定通りに専属メイドとしてよろしく頼むよ。」
ラインバッハの屋敷で、クエスト様に自分のことを打ち明けたとき、クエスト様は優しくそう言ってくれた。驚くことにクエスト様は私の魔王杖――デスサイズを見るなり、私の前世を当てた。何を隠そうクエスト様が私の前世の大恩人である勇者リンの生まれ変わりだったのだから。この巡りあわせを女神様に感謝した。もともと仕える予定だった方が大恩人だったのだ、心から誠心誠意忠誠を誓って仕えようと私は誓った。
クエスト様は8歳という少年にもかかわらず、そのお心は大人顔負けだった。特に知識という点ではこの世界では考えられない先を行っていた。私が尋ねると、
「リズだけ教えておくね。ボクは勇者リン――霧島燐以外にもその前世でもある神坂忍という男の記憶も受け継いでるんだ。だから都合40歳分くらいの記憶があるんだよ。それもこの世界とは別の魔法はないけど科学が発達した世界のね」
なんということでしょう。クエスト様は二人分の記憶を受け継いでいる転生者だったのです。さすが私のご主人様です。ただ、そのほとんどが食への追求なのが気になりましたが……。でも美味しいは正義だと私は思いました。王都で食べた料理より、この屋敷で食べる料理の美味しいこと。初めて食べたとき、思わずお母様に問い合わせてしまいました。なんでもクエスト様が発明した味噌と醤油という調味料や、今まで食べられていなかった食材が使われているそうです。特に豆腐という食材が大変気に入りました。醤油とネギと呼ばれた野菜、そして鰹節と言われる木くずのような魚の加工品で作った冷奴という料理がとても素晴らしい。クエスト様曰く、豆腐はカロリーも少なく栄養がありヘルシーらしいです。素晴らしい、本当に素晴らしいです。そのうち王都にも流通させるそうです。きっと人気になると思います。
話がそれました。クエスト様はとにかく素晴らしい方なのです。私はお婆様から教えられたメイドとしての技術をクエスト様のために使いたいと思っています。
――ミリオンの場合
ボクの息子であるクエスト。彼について時々考えさせられる。5歳のころからボクと父で武術を教えているのだが、父が教えている槍術は本当に初心者といった感じで鍛錬をしているのだけど、ボクが教えている剣術には、まるで経験者のようなというより熟練者以上の冴えを感じる。才能という言葉で片付けていいのかと我ながら疑問に思う。なにより、魔法に至っては7属性に治癒魔法と8系等を仕える才能を持ち、魔力量まで高い。たしかに妻はかなり高位の魔術師だった。ボクと結婚するのが早く引退をしたのが早かったため、そんなに有名ではないが、王都の学院の学院長であるアトモス師の直弟子でもある。そしてボク自身も自慢ではないが、風の聖剣に認められた聖騎士だ。だからクエスト自体がその二人の血を次いで生まれながらのエリートでもおかしくはないとは確かに思う。しかし、異常な気がする。
彼は6歳くらいから、早朝に訓練をしたいと言い始めた。訓練と行っても走りこみくらいというので、やり過ぎない程度に許可をした。最初は練兵場を周回する程度の運動だった。それがいつしか、土のうを背負って走りだした。そしてその後にグランドに穴を掘っては埋めるという作業を開始したのだ。最初は何をやってるのかわからなかった。
「ボクはまだ幼いですからそんなに重い荷物を持てませんが、日頃から荷物を持って走る訓練をしていれば、装備をしていても気にせず走れるでしょ?それに傷ついた仲間や市民を担いで移動できる。穴掘りはなにかの本で読んだんですよ。詳しくは覚えてませんが、筋力とか単純作業で精神を鍛えるとかそんな感じだったかと思います。違っているかもしれませんが」
彼に尋ねるとそのように答えた。穴掘りはともかく、荷物を背負ってのランニングについては納得がいった。なので、教官と話をして兵士達の訓練に加えることにした。従軍装備をしてのこの訓練はかなりきつかった。(自分でも試した)しかし、これはたしかにいい訓練だとおもったので、現在はボクも行っている。
彼の才能というか知識はそれ以外にもいろいろあった。5歳の時に視察で一番近い農村へ行ったときにクエストを同行させた。そこで彼は、枝豆の塩茹でという新しい大豆の食べ方を実践した。そして、この枝豆をつかった料理を屋敷の料理長であるブラドに考えさせた。この他に、塩田のある漁村への視察に連れて行った時は、塩を作るときに出る苦い汁――クエストはにがりと呼んでいた――を使って、豆腐というコレまた大豆を使った加工品を作った。その副産物である豆乳とおからという物も含めて。またその時に村で見つけた鰹節に大変興味を持った。そして鰹節は本来粉々に砕いて使うものだが、クエストは大工が使うカンナのような物で鰹節を薄く削った。こんなふうにするのは初めてだった。それをブラドに渡し、あたらしいスープの取り方を教えていた。おかげで我が家の料理のレパートリーが増え大変美味になった。更に、鰹節を見つけてから大豆と小麦などを使ってなにかの調味料を作り出した。茶色い味噌というものと黒い醤油というものだ。これがまた素晴らしい調味料だった。どちらも先ほどの鰹節のスープの味付けに最高の愛称だった。他にもいろいろな料理に使えた。いまやラインバッハ領の特産品だ。豆腐も近々特産品として流通予定だ。
彼のおかげで、ラインバッハ領は更に豊かになった。他にもなにかしたいようだがどうやら遠慮をしているようだった。
「書物で得た知識ですよ。それに父上の…領民のためになるなら嬉しいです」
どこから知識を?という質問にはそう答えた。屋敷の書庫にある本をすべて読んだわけではないが、そのようなことを書かれていそうな書物はなかったような気がする。でも、彼から本当のことをいってくれるまでは親としてそのように思っておくことにした。妻や父にもそのように頼んである。
「父上、いままではあまり屋敷から出るようなことをしませんでしたが、今度から街に出てもいいですか?もちろん1人では行きません。リズも連れて行きます。」
そんなことをこの間訪ねてきた。隠れて護衛はつかせるが、OKを出した。さてさて、彼が街にいくことでどんなことが起こるのかとても楽しみだ。
――グラントの場合
俺がクエストと初めてあったのは彼が5歳の時にミリオンの旦那に頼まれて近くの村への視察の護衛依頼を受けた時だ。今回は息子も連れて行くといった旦那に連れられてきたのが彼だ。聡明そうだがなんとなく生意気な小僧っという印象だった。
村について旦那が村長と話している間に子守を押し付けられた。最初はくだらねぇと思っていたが、クエストは大豆の青い豆を使って塩茹でを作った。それがすげー美味かった。シンプルなのにだ。ものすごく酒に合いそうだった。これを街の方でも食べれるようにするように旦那と村長に掛け合ってくれた。
この時だったか
「あ、グラントさん、いやグラントってボクは呼ぶからグラントもボクのことをクエストって呼んでよ。」
っと言われ、俺達は呼び捨てで呼び合う仲になった。もっとも20近く離れた相手だったが…まぁ、あいつは貴族で、俺は平民なんだがそこのところは考えてなかったようだ。俺のパーティーのメンバーもそのように言い合うように言っていた。
それから、旦那の視察にクエストがついてくるようになるたびにいろいろと冒険者について教えることになった。俺たち冒険者は冒険者ギルドに所属し、様々な依頼をこなす。当然法に触れるような仕事はしない。ランク分けがされていて、俺は現在B+だ。ランクはE~Sまであり、E、E+、D、D+っといった感じで段階を踏まえて上がっていく。俺が旦那に雇われ始めたのはCランクの時だった。そこから考えるともう4年くらい指名してくれている。旦那からの依頼がない場合は、討伐依頼などでモンスターを狩って素材を売って稼いでいる。そういえば、パーティーの魔術師のミリスがクエストから次元倉庫を教えてもらってものすごく重宝している。本人が次元倉庫を仕えることは旦那に内緒にしてほしいと言われているので黙っている。次元倉庫は、別次元とかいうのにアイテムを入れることができるスキルだ。どうやらある程度の魔力がないと使えないらしく、俺は使えなかった。ミリスが覚えてくれたのでありがたい。配達系の依頼などはミリスを守ればよくなり、かなり楽になった。当然素材を持ち帰る討伐系でもいつも以上に討伐することができるようになったのだ。
あいつとの付き合いはクエスト本人が言っていたようになんだかんだで本当に長い付き合いになりそうだと思った。今日も旦那から、「クエストが専属メイドと街にお忍びで出ることがあるから暇な時は護衛をしてください」っと依頼があった。街で会ったら一緒に行動してくれというわけだ。一緒に行動すれば少ないが報酬がもらえる簡単なお仕事だ。あいつのことだからどんなことをしでかすのか今から楽しみで仕方がない。街にいても当分退屈はしなさそうだ。
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