第9話 もう一人の転生者
「これはディメルディアのデスサイズ……」
テーブルにリズが置いたデスサイズを見た瞬間、俺は思わずつぶやいてしまう。それを聞いたリズが驚いた表情で俺を見ている。その表情は『なぜそれを知っている』っと言った顔だ。
「クエスト様、なぜ…それを?」
震えるような声でリズが俺に問いかける。
「質問を質問で返して悪いんだけど、なんでコレをリズが持ってるの?」
「そ…それは……クエスト様は転生というものを信じますか?」
その問いかけで俺はリズが言いたいことがだいたいわかる。俺も転生者だしね。
「転生というと、死んだ魂が別の人物に生まれ変わるってヤツだよね。当然知ってるし、信じたりするよ」
「信じられないかも知れませんが、私は前世の自分の記憶と力を受け継いで転生した人間なんです。こんなことを言って頭がおかしいと思われるかもしれませんが……」
リズが不安そうに俺を見ている。なんかかわいい。っとそんなことを考えてる場合じゃない。俺は自分の次元倉庫から神剣を取り出してテーブルの上に置く。神剣をみたリズの表情が驚きのものに変わる。
「どうやらこの剣に見覚えがあるようだね。ボク――俺もリズと同じだ」
目の前にある神剣とデスサイズ…1000年前の戦いで打ち合った武器が並べられている。
「クエスト様、私はかつて狂気の魔王と呼ばれたディメルディアの記憶と能力を受け継いだ転生者です。あ、勘違いしないでください。記憶と能力を受け継いだだけで、私はリーゼロッテという個人です。かの魔王のように狂っているわけではありません」
「わかったよ、リズ。ボクだってかつての勇者リンの記憶と能力を受け継いだ転生者だけど、クエストという一個人さ」
さすがに『さらに神坂忍という異世界の勇者の記憶も持っている』なんて言えなかったけど。しかし、1000年前の因縁の関係の二人が同じ時代の同じ場所に転生していたなんて…ほんとなんの陰謀もないのか、イセリア?疑っちまうぞ。
「リズ、一つ訪ねたいんだけど、俺は前世でキミを殺している。まぁ、相討ちだからお互いに殺し合ってると言ったほうが正解か。このことについて『ここであったが百年目、積年の恨みはらさで置くべきかっ!!』って感じでボクを殺そうとか思ってる?」
「いえ、たしかに私は前世でクエスト様と死闘の末に相討ちになりました。しかし、邪神の欠片から開放してくださった恩を感じている方が強いです。むしろ、開放してくださったクエスト様を殺してしまったという自責の念のほうが強いといいますか。
ですので、むしろクエスト様――勇者リンには感謝していると言った感じです。そして、生まれ変わってこうして貴方様に会えたというのは女神様の恩情だと思っています。ご迷惑でなければ、このままあなたに忠誠を誓いわせてください。死が二人を分かつまで、私はあなたの物です。どうかよろしくお願いします」
深々と頭を下げるリズ。なんというか重い。でも彼女は必死なんだろう。
「過去のことなんか気にしなくていい。それで、ボクに仕えることがリズにとって嬉しいのなら、ボクは全然構わない。もともとそうでなくてもボク付きのメイドとしてこの館に来たのだから、予定通りに専属メイドとしてよろしく頼むよ。
それに、前世に付いて話せる相手がいるというのもありがたいしね。」
「はいっ!!誠心誠意お仕えします!」
「ところで、この転生のことを誰かに話しているかい?」
「師匠様――お婆様には『前世で魔族でした。その時の記憶と能力を残したまま生まれてきて、少しのアイテムが次元倉庫にありました』くらいには話していますが、さすがに魔王ディメルディアでしたとは言っていません。証拠として、デスサイズ――魔王杖といくつかのマジックアイテムを見せてはいますが、1000年前の魔王の詳細は現在にも多くは伝わっていないので、そこまで疑問には思われていないと思います」
「ボクの方はキミにしか話していない。家族やスチュワート、ミレーヌは勘がいいからなにか隠し事をしているだろうとは思ってるかもしれないけどね。特に問い詰めてくることもないし。さすがに前世と異世界の知識でいろいろやってるから『なにかおかしい』って思われてるかなぁとは自分でも思ってる」
まだ10歳にも満たない子供が、料理などで知識をひけらかしたり、魔法や武術をすぐ覚える異常をどう感じているかはわからない。案外『うちのクエストは天才だなぁ』って本気で思ってるかもしれないが。ましてや、前世は伝説の勇者です、魔王ですって告白して証明してしまった日にはどういう扱いを受けるかわからない。この辺は、どうにかして王都にいるらしいアトモスと連絡をとって相談したいものだ。
「ボクたちのことがバレてそれが本当のことだと証明されると、いろいろ面倒なことが起こりそうだからね。本当に明かさなければいけない時までこの事は二人の秘密だよ。
王都にアトモス――勇者時代の仲間のエルフがいるらしいから、なんとか連絡をつけて相談したいところだけどね」
「そうですね、我々のことはいらない混乱を招くことがあるかもしれませんから、慎重に取り扱ったほうがよろしいですね」
「うん。ところで、一応聞いとくけど、リズの能力はどんな感じ?俺はレベル289で、魔法は地水火風光闇雷と治癒の魔法が使える。武術関連は剣と槍と格闘技って感じだけど」
「はい。まずメイドとしてのスキルはお師匠様に叩きこまれました。レベルは魔王の時と同様の262で、魔法は地水闇が使えます。治癒魔法はダメでした。」
「30以上レベル差があったのか…いや、そこを邪神の欠片で補ってたのか」
「はい、その通りです。クエスト様が邪神の欠片を破壊してくださったお陰で、狂気という暴走状態が解除されて私は生まれて来ましたから。あそこ破壊されなければ、魂と融合して、新たなる狂気の魔王として生を受けてたかもしれません」
グッジョブ!グッジョブだよ俺。またアレと戦うのは辛い。というかリズは俺より2歳お姉さんなわけだから、たぶん俺が元の力を取り戻すまでに世界に壊滅的な被害を出していただろう。その場合、イセリアの新しい勇者召喚とかあったかもしれない。よかったよかった。
しかし、俺達のレベルはこの世界だと高すぎる。レベルのカンストは300だ。イセリアに昔聞いた話だと、このレベルに達した者はまだいないらしい。俺があと11レベルだからカンスト目指すのもいいだろう。化け物になるけどなっ!!いや、今も十分化け物だけど。
ちなみに鑑定でレベルを調べた結果、お祖父様が172、父上が130で母上が63だった。お祖父様と父上は職務上魔物の討伐なんかも行っているし現役だ。母上は結婚するまでは冒険者などをやっていたという話だけど、結婚を気に引退してるのでそこからレベルの上昇はないっぽい。昔にちらっと聞いたら、現騎士団長はお祖父様より上、父上たち聖騎士の称号を持つ人間が父上クラスとかんがえると、俺達はかなり突出した存在だろう。グラント達冒険者に至っては、それこそピンからキリだと思う。こないだあいつらを鑑定したら平均で70近かった。はじめて出会った時は30くらいだったと思う。以前に言ったと思うが、レベルは戦闘経験で上昇する。ステータスは行動によって変動するので、一概にレベルが高い=強いとはいえないが、戦闘経験の蓄積なので基本的には強さのバロメーターとしては最適だ。10歳になって発行されるステータスカードという身分証明書にはレベルは記載されないらしく、またスキルもスキルレベルは書き込まれないそうだ。高すぎるこれらのレベルが表示されないと知って俺は安堵した。
「ふう、ちょっと話つかれたな、リズ、悪いけどお茶を淹れてもらえる?緑茶を飲みたいかな、お茶うけにつけものをよろしく。どっちも厨房のブラドに聞けば場所を教えてくれるから」
「かしこまりました、クエスト様。少々お待ちください」
リズはデスサイズ――魔王杖をしまうと礼をしてから部屋を出て行く。今まで同年代の知り合いが少ない分、リズの存在は嬉しい。かわいい女の子だし。それに俺の前世を知っている人間がいるっていうのは1人で貯めこまないためにも重要だ。いくら俺の方が立場が上とはいえ、愛想をつかれないように気をつけないと。そんなことを思いながら、リズがお茶を淹れてくれるのを待っていた。
お読み下しましてありがとうございます。
ようやっとメインヒロインその1登場です。
メイド服でデスサイズとか趣味丸出しですが気にしないでください。




