No.1とNo.2
「てことで、今月も営業成績トップは曰比谷くんです、おめでとう!!」
月曜日。
都内の某社三階フロアにて、朝礼の時間立ち並ぶスーツや制服の男女社会人一同はパチパチと拍手喝采する。
昨今ズラを諦めたバーコード頭の加茂部長は、営業成績を表すグラフ、抜きん出る余りホワイトボードに載り切らず天井まで到達しているグラフのひとつを指差して、ご満悦の表情。
「いやあ~さすがは曰比谷くんだね、この調子でこれからも我が部引っ張ってって頂戴!」
「よっ切り込み隊長!」
「どーもどーも」
曰比谷くんかっこいい、という女子社員からの羨望の眼差しと、男性社員からの表向き応援と裏では嫉妬の視線を浴びて、営業部ルーキーにしてナンバーワンの青二才はへこへこと自分の席に戻る。
「お前ほんとすごいね、俺たち毎日アホみたいに駆けずり回ってもあそこまではいかないよ。ここだけの話、一体どんな手使ってんだ?」
「いやー、別になんも。普通に仕事してるだけっスよ」
「またまた。しらばっくれちゃって。まぁその気わからんでもないけどね、自分の“ツテ”ってのはひけらかすもんじゃないし」
俺も若い頃そうだったわー、
とか言いもって、人の隣で足を組み、胡散臭さ千万セールスマンを助長する趣味の悪い扇子をぱたつかせるのは、営業部No.2のやり手・明渡である。
明らかに目にもの見せてる系のお高いスーツは弁護士のそれと酷似していて、よくよく見たらマジでどっかの先輩弁護士と同じメーカーのスーツで反吐が出た。
扇子をぱたつかせる度漂う香水の香りに、笑顔のまま鼻をつまむ。
「んまでも、そのツテたまには人のために使ってみるのもアリかもよ。センスのない奴って何処にでもいるから」
明渡が顎でしゃくってみせる先に、バーコードに叱られている先輩営業マンにしてこれ以上にないモブ感満載の地味男がいた。
灰色のスーツは低身長な彼に身丈があっておらず、足元でくすぶっている。
「田茂く~~ん君さ~~ほんと早く辞めてくんないかな~~また目標到達してないじゃ~~んこれで何度目よ~~」
「す、すいません…」
「次達してなかったら辞めてもらうって前も言ったよね~~?もう限界だから荷物まとめといてくれる~~?」
「そ、それだけは…お願いしますもう一度チャンスをください、お願いします!!」
「向いてないんだよあれには」
扇子をぱたつかせる明渡は、ニヤニヤしながら田茂を見ている。笑顔で見返す曰比谷に、明渡はセンスだけに、とかクソつまらない冗談を吐いたのち、自分の爪を剥いた。
「俺の“ツテ”もそろそろ潮時かしら」
「と言うと?」
「具体的には言わないよ。ひけらかすもんじゃないって言ったでしょ曰比谷くん?までもきみ純朴げだから教えたげる。
ようはセンスが無いから、代わりに請け負ってやってるわけよ。バカでもわかるように言うとね」
曰比谷の肩に手を回していた明渡の手が、指先が。そっと日比谷の心臓のあたりを撫でる。そしてちいさく、「横領」と囁いた。
「やだー、先輩セクハラッスね」
「可愛いといじめたくなんのさ、女子受けも良いしね」
言うなり んでは、一狩り行って参る。と起立する明渡に、それを見送る曰比谷。
確かに二枚目な明渡とイケメンな曰比谷の掛け合いを好む女子たちは多いようで、たった今繰り広げられた十数秒のボディタッチに
周りは黄色い悲鳴をあげていた。




