現在、過去、そして未来
まー、でもよかですよ、生きてんだから。
そんなことをいいもってこいつが機嫌いいのは結局のところ、禁煙解禁、それに尽きるからに違いない。
「タクシー呼んでるから帰りはそれで帰れよ」
「え、渥美は?」
「俺はこれから法廷。コブ付きの3日間のせいで秘書の機嫌取りも大変なんでね」
「一々当てつけがましいなあ」
むくりと起き上がってさんきゅ、そういつものテンポでいう伊野をまともに見られないのはなぜなのか。
おう、と軽く受け流して愛車に乗り込む前に、背を向けたまま呟いた一言を、伊野はきっと気づいてもいないだろう。
悪かった。
何度言っても、仕方が無い。
言ったところで、過去が変わるわけでも無い。
伏し目がちにキーを回しかけたエンジン。
発車する直前で、窓枠に金髪の少女が身を乗り出してきて、思わず仰け反った。
「渥美」
「な、なん」
「ありがと」
屈託のない笑顔を見せる、ニコル。
過去は変えられない。けれど。
救いなら、求められるのかもしれない。
「…うるせえよ」
「つんでれ」
「うるせえよ!」
危ないからどけ!そう言って伊野にニコルを託すと、渥美は今一度愛車をブルンと鳴らして、ハンドルを切った。
「…こちらこそ」
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