悪魔の囁き
「無視」
トイレで同級生に出会してわざわざ挨拶する人間がどこにいる。
まず朝教室で会っただろうに。
冒頭の言葉を呟いてけたけたと笑う二人組を尻目に、男子トイレの奥へと進み用を足すべくスラックスのチャックに手を掛ける。
偏差値が高いとは高校の男子トイレなんて間取りは知れている
嫌でも聞こえてくる
いや聞こえるように言ってるんだろうけど
「あ、そーだおれ昨日の予備校の試験やばかったよ」
耳障りな雑音
「え?やばかったってどれくらい?」
「Aランク」
聞くなよ
「余裕じゃん(笑)ウケるんだけど」
聞くんじゃない
「いやいや。S狙ってたのにさ、今回K大設定してやって見たんだけどね」
「あれ?K大って確か誰かの第一志望じゃなかったっけか」
ちょっと待て
「あ?確か…」
なんでそれ。
つい素になってしまったのがいけなかった。
隣の二人と視線がぶつかる。
仕組んだのが成功したようで、二人は含み笑いを見せた。
我に返りその場を去る。
「頭の悪い人間は手も洗わないんですかァ」
二人の後ろを通り過ぎたところで呼び止められた。
舌打ちをして流しに手を伸ばす。
流れる水の音で心を落ち着かせよう、そう渥美は思考していた。冷たい水の感覚すらない。
両脇にそのクラスメイトが絡んできてやっと、全ての感覚を遮断していることに気がついた。
いっそこのまま遮断できていれば良かった。
「大変だなプライドばっか高い人間はよ」
「…」
「親が弁護士と医者?だっけ?一人息子って大変だね、親も不憫だよ。出来の悪い息子でも、期待を削ぐ訳にはいかない」
「……るさい」
「替えが効かないからなぁ」
「うるさい」
渥美の一言に微動だにせず、同級生のそれは続く。
嫌な汗がにじみ小刻みに呼吸する渥美のネクタイを取り、クラスメイトの一人は小首を傾げて見せる。
「渥美くん、お前いま特進クラスの先生に目付けられてんの知ってる?」
「教官室行ったら偶然きーちゃったのね俺ら。なんか順位下から5番目以内らしいよ」




