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寡黙なニコルと人間失格  作者: 或田いち
弁護士とハーフ&ハーフ
53/65

日和見教育、その理由


 

「いつも。ユースケが無いとき、渥美はしぶらない。

 正直ユースケに、甘い」



舌っ足らずな面あって文章に欠陥が生じているが、言いたいことは、大まかに、わかる。

要するにニコルの言う伊野の“無いとき”というのは、食料や金品に関する点全てなのだろう。


それにしても、こいつ。



伊野の傍にいてへばりついてるから、油断していた。いや、というよりはてっきり、あんなユースケユースケ言ってるから、そこらへんはうやむやになってると思ってた。


意外に…


(見てるもん、だな)


「何で…か」


渥美は、呟き、ニコルに向き直ると、ソファに腰かけた。


「いいだろう。寝る前に、昔話をしてやる」

「…」


「人間失格より、最低最悪な男の話をな」



言うと、渥美は不敵に笑ってみせた。


弁護士とハーフ&ハーフ/終 & Next



―――――

―――



『それ、やったの、俺です』



記憶は、鮮明ではない。


だが、思い出そうとすれば、というか、思い出そうとしなくとも、あの時、あの瞬間。

あまりにも場違いな台詞を吐いたあいつの口調や、相変わらずの覇気の無さは今でもはっきりと覚えている。


記憶は、香りでリンクするとかいう。

だが俺の場合、いつも記憶を思い返すきっかけとなるのは、真夏に蝉が大合唱する、あの蒸し暑い瞬間だ



たまには昔の話をしようか

        「学生篇」・序

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