母と娘の絆
「…御守り…?」
そう呼ぶには、少し物足りない出来栄え。赤色ベースに黄色い糸で刺繍されたその小さな物体は、曰比谷の手中で何かを物語るようだった。
「ニコルはこれを取りに実家へ帰ったってのか?」
「母親からもらったものらしい。小松さん言ってた」
「しかしまぁ、これが自分の身を挺してまで守り抜く産物ですか」
物好きなのもいたもんだ、そう言って御守りを掲げ首をかしげる曰比谷から御守りをかすめ取ると、渥美はそれを伊野に突き出す。
「他人にわかり得ないものほど、当人にとってはかけがえのない物だったりする」
これはお前がニコルに渡せ。
渥美からゆっくり御守りを受けとるなり、人間失格は、曖昧な返事と、中途半端な頷きで応えて見せた。
「ニコルは?」
「別室で集中治療中。本人はあんなでも、大の大人の男に殴り付けられたんだ
体も気がつきゃ痣だらけだったよ」
なぜもっと早くに気が付けなかったんだ。もっと早く自分が。気付いてさえいれば。いや。ニコルの異変には薄々勘づいていた。
が、面倒がって何もしなかったのだ。
半ば強引に、大丈夫だと自分に言い聞かせて。
自分が動き出すことが億劫、ただそれだけの理由で。
「…つくづく…なんでもっと早く…」
「ガラにもねんだよ気色悪い」
世紀の弁護士は、御守りを持ちうつ向く市民=人間失格の横っ面を、容赦なくはたいた。




