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高鳴る鼓動を胸に
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原チャリをかっ飛ばして、伊野が向かうは書類に書かれたニコルの実家である。
ネズミ取りが見かけたら間違いなく職質をかけられる、そんな高速違反で道路を滑走しているので、頭に被った見せかけのメットも次の瞬間には後ろにずれてしまった。
だが、それどころではなかった。
『なんで家に帰らせられないんですか』
『ぇえ?いや、だからその男が君以上にろくでなしって言ったろう
暴力を奮うんだ、娘に
彼女自身は誰にも相談してなかったみたいだけどね…言えなかったんだろう、可哀想に。』
鼓動が、うるさい。
はやく。はやくしないと。
「ニコル…」
いつになく必死に、人間失格は一般道を滑走していた。
家出少女の失踪/終&Next
「………」
自分の家に戻って来るのは、実に1ヶ月ぶりだ。
この家。
実質ここで過ごした時間の方が長いと言うのに、別の場所に“乗り替えた”だけで、まるで他人の家のように見えてしまう。
忌まわしい。家。
「…」
ニコルは小さく頷くと、自分の家の門に手をかけた。




