父と娘
「生活保護?」
「彼女の父親がね。失業者で、実際仕事無くしたのはもう半年も前になるんだけど…
なにぶんこのご時世だ、中々職も見付からずに今日までズルズル」
娘である彼女も相当苦労していたみたいだよ、と告げてから、小松は一連の書類を伊野に差し出す。
そこには、恐らく家の近くでいくつも掛け持ちをしていたニコルのバイトの履歴書、写真、身分証などがあった。
家出したニコルがきっと自宅にこれらを置いていった理由は、ただ一つしか無いだろう。
「またこの男が厄介な奴でね~
娘にバイトいくつも掛け持ちさせる割に自分はその金で遊び呆けて、ロクに働く気ゼロっ
伊野くんもこうはなっちゃダメだよ」
「これは?」
書類の合間から出てきたのは、両端の糸がほつれた手作りの御守りだった。
赤ベースに黄色い糸で両端を縫われたそれには、ひらがなで「おまもり」とネームペンで書かれている。
「あっそれそれ。丁度よかった、これを伊野くんに届けてもらおうと思ってね
彼女どうやらこの御守りをスゴく大事にしてたらしくって。母親からもらったとかでね
家に帰らせられないから今は伊野くんに伝書鳩してもらおうと」
「なんで家に帰らせられないんですか」
ふと、語調が強くなっているのに伊野は、気付く。
何を焦っているのかはわからねど、どこか野生の勘とも言える、嫌なざわめきが胸にあるのを、さすがの人間失格も見過ごしはしなかった。




