駐在員の恫喝に恐れをなさないこと
絶対的な不利に陥ったらやる気もくそも起きない。
負け戦に得られるものなど何もない。
人間失格こと、伊野はそんな考えを持っていたため
「吐け。おまえが彼女を誘拐して自宅に監禁してた事実は割れてんだ!」
「もうそういうことでいいから、早く返してくんないかな」
事実を偽装して難を逃れようとしていた。
「そういうことってどういうことだ!
お前のことだろ自分で罪を認めんか」
「だからそれでいいって」
「それって何だそれって!」
「まあまあ山さんそのくらいにしといて」
甲高い声で叫ぶ警察官の肩を叩いて現れたのは、市内の駐在所で面識のある、小松だった。
交代の意味合いなのか小松は笑顔で右手を左右に回すと、ヒステリック警察官の座っていたソファに腰を降ろす。
「や、久々だね伊野くん」
「どーもです」
「最近見なかったけれど、生きてた?」
「死んでたら誰がこんなとこ来るかしら」
やけくそ任せで奇声を上げてソファにもたれかかったら、足がダルかったため机上に足も置いてみた。
周囲からは怪訝そうにする視線を四方八方から受けるが、小松自身はニコニコしている。
「で、ヤったの」
「質問に何か嫌らしさがあるのはなぜ」
「伊野くんは悪い子だからねえ」
小松の年齢は、今年26の伊野からしたら丁度親世代にあたる。その為、親ともロクに連絡を取っていない伊野にとっては一番身近な父親代わりでもあった。