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フェアリーランド

だいぶ昔に考えていたお話を投稿します。

ほのぼのと続けていただけたらよいなあと考えています。

どうぞよろしくお願いします。

 妖精って知ってる?

 ちいさくてふわふわで可愛らしい生物。

 だけど、その性格は可愛いだけじゃなくて、何というか、ひどく個性的だったりする。

 意地悪だったり、とぼけていたり、怒りっぽかったりもする。

 彼らは愛しくもこわい隣人。


 わたしが住んでいるのはそんな妖精が普通に存在する世界。

 世界の名前?

 それを知っているのはきっと神さまくらい。

 おそらくわたしたちには想像もできない素晴らしい名まえがあるんだと思う。


 だけど、名まえがないのは呼びづらいよね。

 そこで、私たち「人」は、愛すべき隣人である妖精たちに敬意を払って、

「フェアリーランド」と呼んでるんだ。




第一話 フェアリーランド


 さわさわとざわめく森の木々。

 パステルカラーの花々が明るい日差しを受けて楽しそうにゆらめいている。

 春の陽気も手伝って、うっかりすると眠ってしまいそう……。

 いや、いや、だめだ。今は寝ている場合じゃない。

 わたしは両目をぱっちりとひらきなおし、地面に置いた箱をにらみつける。


 ここはフェアリーランドのとある森。

 森といっても、山のふもとには村があるので、それほど危険はない。

 わたしのような駆け出しの「妖精研究家」にとっては、自然が多くて、危険度の少ない森は本当に助かる。

 学校を卒業したばかりのころは、うっかり遠出して死にかけたことが何度あったか…。

「はっ、いけない。えっと、もうすぐだと思うんだけどなあ」

 思わず昔の苦労を思い浮かべてしまい、我にかえる。

 目の前に置いてある金色の箱には、とくに変化はない。

 いや、その箱は日の光にまけないくらい金ぴかで、さらに赤や青の宝石が輝いた特別なものであった。

 さらにさらに空気中から透明な文字が生まれ、箱のなかに吸い込まれていたけれど、それはわたしにとって「ふつう」のことだ。

「むむ…フェアリースポットが弱すぎるのかな…」

 わたしは大きな皮カバンに入れた妖精辞典をひっぱりだす。これだけで立派な武器になるのじゃないかと思うほど、分厚くて、重い。運びにくいことこの上ない代物だ。だけど、これがわたしの商売道具。

 丁寧にページを開いていく。もう何度も読んでいるので、すぐに目的のページをひらく。

「ええと、森のなかでフェアリースポットを見つけたいなら、まずは若木がたくさん生えている開けた場所を見つけるべし! あったかくて眠たい陽気はフェアリーは大好きなのさ! さあ、観察するんだ。きらきらとした妖精たちの足跡を! ……」

 わたしは、ぱたんと辞典を閉じて、思わず目元を指でつまむ。

 うう、このノリはちょっとつらい。なぜ、妖精辞典の説明文はこんなにテンションが高いのか。

 しかし、そうも言っていられない。いや、別に読む必要はないのだけれど。

「とはいえ、条件には十分合格してるんじゃないかなあ…?」

 きょろりと周囲を見回す。村に近いとはいえ、花々も元気に咲いているし、陽光もさんさんと降り注いでいる。かといって、木々がないわけではなく、この周辺だけぽっかりと開けている好条件。

「なにがいけないのかなあ」

 むむーっと眉をよせると空から笑い声がふってくる。

「モモ! ひどい顔だなあ」

 見上げるとこちらを面白そうに見ている青年の顔。大きな青い目がキラキラ輝いて、整った顔立ちを愛嬌のあるものに見せている。

 しかし、その体はひどく小さい。わたしの顔ほどしか身長がないのだ。

 それもそのはず、シオンくんは妖精なのだ。

 彼は赤色のマフラーをまいており、髪の色は明るい黄緑色。長い髪をひとつに縛っている。

 妖精はいろいろな姿をもつが、シオンくんは人に近い。身体が小さいことを除けば、見た目はほとんどいっしょだ。

「だって、なかなか思うとおりにいかないんだもの」

 わたしはむうっとくちびるを尖らす。子どもっぽいといわれても、くせなのだから、仕方ない。

 シオンくんと反対にわたしはふわふわの薄ピンク色の髪をしている。とんでもないくせ毛で、朝起きたらいつも大変な苦労をするため、ふわふわよりもストレートに憧れる。

 瞳は空色。おばあちゃん譲りのこの色はとても気に入っている。

「ねえ、シオンくんはどう思う? フェアリードロップが精製しない理由」

「さあ、知らないなあ」

「えーっ」

 興味なさそうな声にがっくりと肩がおちる。彼はわたしの肩に立って、「仕方ないだろ?」と苦笑した。

「だって、おれは妖精だし、人の知識はもっていないもの。もっていたら、モモの仕事がなくなっちゃうだろう?」

「うう。たしかに学校にでも行ってない限り、知らないよね」

 学校とは、わたしが通っていた「妖精研究家専門学校」だ。妖精が存在するこの世界でも、妖精はやっぱり特別な生物だ。妖精研究家を目指さない限りは、たとえ「人」でも知るはずないだろう。

「しかし、フェアリードロップがないと、今晩は宿なし? おれはともかく、モモは厳しいだろう? 今、いくらもってるんだ?」

 妖精のくせにひどく現実的な話をする。彼はそういう意味では妖精らしくない。

「う…、10000エンかな」

「…微妙な金額だなあ」

 フェアリーランドの単価は「エン」だ。宿屋に一泊するには素泊まり5000エンほど。ほかの客と同室ならもっと安いが、治安があまりよくないので、それは避けたい。

「それだと一泊だな。ん~、食費も節約しないとまずくないか」

 シオンくんは眉根をひそめる。本当に妖精らしくない発言だ。

「だからこうしてフェアリードロップ精製をしているんじゃない! シオンも応援してよ」

 わたしは金ぴかの箱をにらみつける。にらんでドロップ精製するならいくらでもにらむ。

 金ぴかの箱、いや、「ドロップ精製器」は、フェアリースポットに置くことで、そこに発生するエネルギーを固めて、フェアリードロップという宝石を生み出す装置だ。

 シオンくんは同じようにドロップ精製器を見つめて、ため息をつく。

「たしか、指先程度のくずフェアリードロップでも30000エンで売れるんだっけ。食べられるわけじゃないのに人の感覚はよくわからないな」

「宝石としても価値があるけど、それ以上にふしぎな力が使えるようになるもの。シオンくんは妖精だから普通かもしれないけど、人には無理でしょ」

 ふしぎな力と連呼してアレだが、そうとしかいえない力だ。

 種に使えば花になり、水につかえばお湯になる。宝石の色によって効果は違うが、どれも「人にはできないふしぎな力」をもたらしてくれる。

 専門用語では「マジック」と呼ぶそうだ。

「人は不便だものな」

 シオンくんはドロップ精製器に降り立って私を見た。

「だけど、妖精だってなんでもできるわけじゃない。野菜の妖精はその野菜にしか影響をもてないし、風の妖精は風を吹かせることしかできない。そういうふうに生まれただけなんだ」

「そうだね」

 夢を壊して悪いが、妖精とはそういうものだ。人とは違う魂と役割をもっているから、人のできないことをできるだけ。何もふしぎなことではない。シオンくんの言いたいことはそういうことだろう。

「お、モモ。すこしだけど、ドロップしているぞ」

 シオンが足元の箱をのぞき込んだ。

「え! 本当!」

「ああ。でも、すごい小さい」

 取り出したドロップをシオンくんが見せる。彼が片手で持てるくらいだから、5ミリにも満たないだろう。しかし、まったく精製できないと思っていたので、朗報だ。

「たしかに小さいけど、きれいな緑色だから、5000エンくらいになるよ!」

「これって、ほとんど砂みたいじゃないか。ああ、でも、色はきれいだな。色が濃いほどマジックが強いんだっけ?」

「そうそう。緑色だから、プランターにいれると野菜の味が美味しくなるね!」

「……それって本当にふしぎな力?」

 シオンくんがつっこみを入れてくる。こんなに小さいし、効果はたいしたことはないだろう。だけど、野菜の味がよくなる効果は、大変人気がある。

「食にはかかせない効果だからね。需要があるから、小さくてもドロップショップでそれなりの値段で売れると思う。本当に助かったわ」

 シオンくんからドロップを受け取り、なくさないように専用の箱に入れる。

「とりあえず、今日はこれくらいにしようか。売り物もできたしね」

「キノコとかとらなくて平気か?」

 晩御飯の心配をしてくれるシオンくん。

「さっき採取したから大丈夫。あ、野生の人参も見つけたんだよ」

「ふーん、晩飯の心配はいらなそうだな。採取の腕があがるのはなによりだけど、妖精研究家の仕事はできたのか?」

「それを言われると…」

 わたしはドロップ精製器を片付けながらがっくりする。

「ドロップ精製も本当は研究のついでなんだよね…」

 妖精研究家とは文字通り妖精を研究する者のことだ。新種の妖精を見つけたり、妖精の生態を解明することがお仕事。しかし、お金にならない。仕事柄、妖精が集まるフェアリースポットを見つける機会が多い我々にとって、ドロップ精製は大事な副業になっている。

「まあ、フェアリースポットを見つける機会が多ければ、それだけ妖精に会える可能性が高まるさ」

 シオンくんが慰めるようにいい、わたしの肩にとまる。

「さあて、リーフ村に戻ろう。まだ日は高いけど、戻るころには夕方にだろうな」

「そうだね。今晩の御飯のためにも、肉屋でウサギ肉も買っておきたいし、ほかにもフェアリースポットがないか、村でもうすこし情報収集したほうがいいね。明日がんばろう」

「そうだな」

 シオンくんがニッと笑う。

「今日はウサギ肉のホワイトシチューがいいな!」

「そうね、そうしよっか」

 うきうきするシオンくんに笑いかける。

 彼は妖精なのに人間の食事が大好きなのだ。わたしとしても、一人のごはんは寂しいので大歓迎だ。

「よーし! 早く帰って晩御飯だね」

 ドロップ精製器をカバンにいれながら、わたしとシオンくんは意気揚々と歩き出した。




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