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贄の花嫁  作者: 彩世 幻夜
狂想曲
98/111

波乱の水際で

 通常、“彼ら”の花嫁を選ぶ儀式は、数ヶ月かけて行われる。


 今回も既に行われた、候補選びの舞踏会から始まり、選んだ候補を見定める茶会を経て、その後“彼ら”個人のサロンにそれぞれ招かれる。

 初回の舞踏会で選ばれた娘たちの全てが“彼ら”のサロンに招かれるということはまず無い。

 それは、ただ一人しか選ばれない“贄の花嫁”だけでなく、侯爵の花嫁となる娘にも言える事。

 一対一での逢瀬を経て、選び抜かれた娘のみが、最後に控える再びの、“特別な”舞踏会への招待状を手にすることができる。


 ――しかし。

 此度のそれは何かと異例続きで、人生のうちそう何度もある事ではない人間たち以上に、吸血鬼たちもその成り行きを固唾を飲んで注視していた。


 そこへ次から次へとやってくる、様々な噂と、情報。

 それから導き出される、現在と未来。


 国の将来という表の事情、自らのためという裏の事情を抱えて血眼になっている所へもたらされた、まるで両極端な話。


 本来の慣例を破り自ら伯爵に志願し、本来最後の舞踏会で選ぶはずのたった一人、自らと命運を共にする大事な花嫁を、最初の舞踏会で既に決めてしまったジルベルトと、おそらく彼に選ばれたと思われるローズ家の庶子だという娘。


 ……ジルベルトの方は公爵の孫として、――将来の侯爵として、貴族や役人も相応に情報は持っていたが、娘の方はそうもいかず。

 伯爵の“寿命”はほぼ、花嫁が左右するといっても過言ではない。


 だからこそ。

 表面化でお互いの腹を探り合い、それぞれ派閥を形成する貴族たちの間でも、意見は割れ、また貴族と平民との間にも徐々に無視できない亀裂が生まれ始めていた。


 「……知らせは」

 「――今のところは、まだ。しかし、数日前に受けた報告からすれば、もう、時間の問題。正直、今日明日にその知らせがあってもおかしくない」

 「やはり、捨て置くわけにはいかんな。議長に、連絡をとれ。緊急議会を召集しろと」


 本来、まだ2行程が残る、儀式。

 状況柄、急ぐ必要のある場合、それらが簡略化された例ならば過去にも幾度か例があるのだが、ここまで異例尽くしの今回、それはあまり好ましい選択とは言えず。

 だからといって、伯爵位を空位にはしておけない以上、何らかの手を打つ必要はある。


 「こうなった以上は、最早本人たちの口から直接話させるしかあるまい。貴族連中のみならず、民も参加できるようはからえと伝えろ」


 その知らせはまず貴族家に、そして街へと降りて行き――



 「これを、良い知らせと取るか、悪い知らせととるか……」

 同じ知らせを部下から聞かされたジルベルトは、挑発的な笑いを浮かべながら、振り下ろされた剣を易々と受け止めた。

 「……腹芸の類は不得手ですから。直接真意を語れる場を与えて頂けるというのは、ある意味良い知らせだと思うけど」

 楽しそうに、しかし少し悔しげに剣を引き、ミリアは額の汗を拭いながら口元を緩ませた。

 「でも、上手い話し方なんて、腹芸以上に知らないし。話したあと、それをどう受け止められるかとか、その辺色々仕込まれたら不理だって事を考えると、悪い知らせね」

 再び剣を構え、彼の隙を伺う。


 騎竜隊の訓練場で、隊員たちの訓練が全て終了した後、ほんの少しの時間を使って、ジルベルトに練習に付き合ってもらっているのだ。


 ……いかに昔は優秀な騎士だったとはいえ、既に老齢の身である人間の彼と違い、現役で優秀な若い吸血鬼の彼に、もちろんミリアが敵うはずもなく、こうして打ち合っても軽くあしらわれてしまう。


 でも、こうして剣を握る自分を受け止めて貰える事が、ミリアにとっては嬉しいことで。

 だけど、こうも簡単にあしらわれると、分かっていても悔しい。


 「基礎はしっかりしているし、動きも悪くない。今後の訓練で経験を積めば、能力値も自然と上がってくる。――お前たちも、そう思うだろう?」


 ジルベルトは、自分たちを囲む隊員たちに声をかけた。


 町に溢れる噂は、当然ジルベルトの足元にも届き、隊員達は目の前の少女に様々な視線を向けていた。

 好奇、疑念、嘲笑……。種類は違えど、どれもが決して良いものではなく。


 だからジルベルトは、彼らの前にあえて彼女を出した。


 良くも悪くもここは軍で、腹芸などという面倒事を好まない、単純明快な者の集まりだからこそ選んだ手段だ。


 「確かに、不得手だからと言い訳していていい局面ではない。だからこそ、お前たちの助力が必要だ」


 ジルベルトは、自らが持てる力である彼らに頭を下げて言った。


 「……お前たちも、家の立場や自らの意見はあるだろう。だから、強制はしない。これは命令でも、仕事としての任務でもないから、結果がどうでも褒賞の類も無い。それでも良ければ、俺たちに力を貸してはくれないか……?」


 

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