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贄の花嫁  作者: 彩世 幻夜
狂想曲
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もうひとつの世論

 本来、時の流れというのはこれ以上ないほど平等なもので、何人たりともそれを支配することはかなわないものである。


 ――しかし、それは客観的に見た場合の話。

 主観的な話をすれば、時に非常に早く過ぎ去るかと思えば、あるときは異常にのろのろ過ぎていくもので。人それぞれ、その時々でその感じ方は千差万別で。

 けれど、長い目で見ると大抵の者が歳をとるごとにしみじみ感じる事がある。


 一年が過ぎ去るのがどんどん早くなっていく。


 これは何も人間に限った事ではない。いやむしろ、人間の倍以上の時間を生きる吸血鬼たちこそがより身にしみて感じていることだろう。


 まだ年若い人間たちにとって、それが“そこそこ”と感じる程度の時間なら、年配の吸血鬼たちにしてみれば、“瞬きする間”――といえば流石に言い過ぎかもしれないが、“あっという間”に過ぎ去ってしまう程度の時間。


 人間の国主ならば、少し短い程度の在位期間も、吸血鬼たちの感覚からすれば、あまりに目まぐるしい代替わりで。

 事実、吸血鬼たちの貴族家の当主の代替わりの間隔は百から二百年位が普通で、長い者になれば500年近く前からその椅子に座っている文字通りの人外だって居るのだ。


 なのに、人間の感覚でもまだ若いと言われる年頃の若者が、人間の感覚ですら短いと感じる程度の時間しか生きられないというのは、それが平穏の代償と理解はしつつも納得しきれない理不尽を感じていて。


 ……運命を共にする“贄の花嫁”たる人間の娘次第では、もっとずっと長く生きられるのに。

 そうすれば、 公爵だって、五百年は無理でも、吸血鬼の感覚からしても少し短い程度の百年近い在位も可能となる。

 自然、侯爵が公爵位を継ぐまでの猶予も伸び、その間ゆっくり子育てができる。


 その子が育ち、十分に成熟するまで待って、それからの代替わりするのが、本来理想とされるこのシステムなのだが。

 実際の現実は、その理想とは程遠く。


 「……でもさ、あのお嬢様はその辺の箱入り娘とはワケが違う。何より、殿下とは相思相愛なんだから、そりゃあ安全な場所に置いてかれるより、危険でも一緒に居たいのさ」


 「何しろ、幼い頃から騎士になるのが夢と目を輝かせていた子でしたからなぁ、彼女は。……だから、戦闘向きでない使い魔と契約してしまった後は、人前でこそ気丈に振舞っておられたが、一人隠れてよく落ち込んでおられた。それが、殿下に選んでいただけたと、最近ではまたあの頃のように嬉しそうに日々鍛錬なされていますよ」


 「貴族の娘って言うけど、庶子だからなぁ、ずっと使用人の――それも下働きの仕事をしてたくらいだぜ? 使用人なんか居なくたって最低限の衣食住くらい自分でどうとでもするだろ、あいつなら。少なくとも毎晩夜会で見知らぬ誰かが作ったご馳走つまむより、家で“家族”と自分の作った料理を食う方を選ぶぜ、あいつは」


 「畑の面倒の見方くらい、あの方はとうにご存じですよ。少なくとも自分と“家族”の腹を満たす量程度なら楽勝でしょうなぁ。ええ、だって彼らは侯爵と違って真実夫婦の契りを交わすのですから、当然“家族”でしょう」


 「知らない? あいつ、こんな騒ぎになる前は惣菜屋をやってたんだ。当然料理の腕はピカイチだぜ? 鶏や魚だって見事に捌くぜ、ルドルフのオヤジが絶賛するくらいにな。少なくとも生活力であいつに勝てるお嬢様はそうそう居ないな。ああ、今日のアンタの飲み代分まるっと賭けてもいいぜ?」


 しかし。ふと、その夢のような話が実現するかもしれない噂話を耳にして。


 「さて。まあ、酒の席での世迷言であろうがの。たまにはそれに踊らされてみるのも一興よ。何やら宮廷でも妙な噂を耳にするしの。この間の若造の身の程知らずな“決断”にも思うところはある」

 老獪を絵に書いたような――素直さや純粋さなどとうにどこかへ忘れてきた――そんな人外たちが、珍しく重い腰を上げた。


 「久々に、“散歩”にでも出かけるとしよう」

 それはそれは軽い足取りで、颯爽と。 しかし、有無を言わせない迫力を乗せた微笑みを浮かべ、テオの肩を叩いて言った。


 「若造、一度口にしたからには男に二言はないだろう? さあ、付き合ってもらうぞ」



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