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贄の花嫁  作者: 彩世 幻夜
狂想曲
90/111

リスク

 例えば今回の茶会や前回の夜会のように、回りくどく“お決まり”の手順を踏んでいくのは、それが必要とされるから。


 誰もが、贄の花嫁になどなりたくはない。進んで手を挙げるものなどない。


 それが当たり前で、それを前提としているからこそ、名誉や財産といった人参を鼻先にぶら下げ、丁寧に周囲への周知を行い、その運命へと続く道を固め、逃れ得ないレールに乗せる必要がある。


 ――伯爵位だって、建前上はともかく、本心から喜び勇んでその位を継ぐ者など、そうは居るまいと誰もが思うからこそ、明確な決まりごとが定められている。


 全ては国と、そこに住まう民の安寧の為にある仕組み。

 無論、長い歴史の中ではそれに不具合を感じる機会が全くなかったとは思えないが――

 しかし、ここまで裏目に出るのは、ここに在る者の知る限りでは初めての事だ。


 安寧のための仕組みが足枷となるだけならば、一時の特例は認める。


 本来魔に属する吸血鬼を頭に据えている時点で、この国の人間は、必要とあれば柔軟な考えも出来る。

 本来餌でしかないはずの相手を尊重し共存できるこの国の吸血鬼たちもまた、臨機応変な対応のできる者たちだ。


 けれどどうやら今回は、単に特例を認めただけでは足りないらしい。


 既に期限が目前に迫った伯爵位の代替わりに、待ったは有り得ない。

 もしも順当にダリオが伯爵位を継いだ場合、彼が一体何年保つのか。考えたくはないが、数年と保たずに代替わり、という可能性も捨てきれないと、そろそろその事実から目をそらしたがっていた頭の固い者たちも認めざるを得ないところまできてしまっている。


 例え譲位の後、すぐに順調に子が生まれたとしても――間に合うかどうかはあまりに微妙で。

 それでも無理を通せば、代を重ねるほどに“次”が危うくなる未来がちらつく。


 が、侯爵とて、ただ子を残すだけが仕事ではない。


 この国に、どんなに特殊な事情があろうとも、貪欲な皇帝は、この国の戦力を欲してもいる。代々の侯爵たちは、公爵の名代として、国益を守り、また他国との交渉を上手く纏め、国政を有利に導く事もまた大事な役目。


 この国の事を全く知らず・考えず、では困るのだ。


 その点、確かに腹芸など期待できそうもないジルベルトだが、この国の国益を第一に考えるその姿勢は充分評価に値する。

 必要最低限の使用人の同行しか認められない伯爵と違い、侯爵ならば優秀な補佐官を何人でも――多すぎれば無論、要らぬ警戒をされようが――同行させられる。


 ベストには程遠いが、こちらもダリオを行かせるよりは現実的に思えてしまう。


 ――要は。


 (問題は、ダリオ殿下か……)


 どちらにつけても、デメリットが目立ってしまう。

 より、被害の少ない方へつけるしかない。

 そんな風にしか考えられない現状に、危機感を覚える。


 「いつかは、この時が来る。分かっていながら問題から目をそらし、先送りにしてきたツケが回ってきてしまったようですな」

 「……せめて、次はこんな事にならぬよう、改めて制度や教育など、考え直すべきだ」

 「無論、次も重要だが、しかし今は――」


 天を見上げれば、日もだいぶ傾いてきている。


 そろそろ茶会も終わる。


 茶会終了後、改めて、二人の公孫子達が選んだ娘の家へと正式な手紙が届けられる。

 ――公邸の庭の散策という名目の、公開デートへの誘い。


 正式に、それぞれの花嫁が明確にされる日。


 既に、ジルベルトの花嫁に関しては街にまで広まっているが。

 果たしてダリオは誰を選んだのか。


 外野たちの興味はもう、既に未来さきへと向けられていた。

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