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贄の花嫁  作者: 彩世 幻夜
開幕
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兄弟の宿命

 ロマーノ公国は、代々オルランディ皇帝より爵位を与えられたロマーノ公爵が治める、オルランディ大帝国傘下の公国である。


 そして、次代のロマーノ公爵を継ぐ、ロマーノ公爵の長男にもルカーノ侯爵の位が、やはり代々オルランディ皇帝より与えられる。

 かの者は、ルカーノ侯爵の位を戴いたその日からロマーノ公爵の位を継ぐまで、公国を出て、帝国の皇都での暮らしを義務付けられ、また次代を作る事が最優先課題として課せられる。


 しかし、この公国で、最も重要視される爵位はこのどちらでもない。

 この公国、いやこの大帝国――引いてはこの大陸において最も重要とされる位、それがブリアーニ伯爵位なのである。


 ルナフィリア大陸にあって、最もオーク大陸に近い国、ロマーノ公国。

 その公国領の中でも、港から船で一時間近くかかる場所にある島、ブリアーニ島。

 ここより先は、もうオーク大陸の圏内となり、ルナフィリア大陸への侵攻を狙うオーク大陸の魔物たちが最も欲する場所である、ブリアーニ島。

 その地を拝領し、島を守り抜き、大陸への魔物の侵攻を最前線で食い止める。

 それが、ブリアーニ伯爵の務めである。


 代々その名を継ぐのは、当代ロマーノ公爵の孫に当たり、当代ルカーノ侯爵の次男として生まれた者と定められている。

 

 当代ブリアーニ伯爵がその勤めを果たせなくなり、その位を次代に譲り渡す時。

 ロマーノ公爵、ルカーノ侯爵もまた揃ってその位を次代に明け渡す。


 ルカーノ侯爵はロマーノ公爵位を継ぎ、ルカーノ侯爵の長男は侯爵位を、次男は伯爵位を継ぐ。そして、ロマーノ公爵位を降りた前ロマーノ公は――。


 

 ブリアーニ島がオーク大陸の魔物に奪われれば、ロマーノ公国は連日魔物の襲撃を受けるようになるだろう。そして、ロマーノ公国か陥ちれば、帝国が、そして大陸が魔物の驚異に晒される事になる。

 ――これこそが、帝国がこの公国を吸血鬼が治め、吸血鬼と共存する国であることを認めざるを得ない理由。

 そして、帝国がルカーノ侯爵を皇都に住まわせるその理由は勿論、彼を人質として保険をかけるためである。


 つまり。

 当代ブリアーニ伯であるカルロは現ロマーノ公爵の次男であり、現ルカーノ侯爵の弟に当たる。

 しかし、次代のルカーノ侯及びブリアーニ伯となるべき兄弟は、この制度が定着して以来初めて、双子として生まれてきた。


 元より、長男・次男がそれぞれの位を受け継ぐときっちり定められている理由は、その位を争って余計な内紛が起こる事を避けるため。

 その争いによって空位期間が生まれ、その隙を魔物に突かれるような事が無いようにと定められたもの。


 ――だが。

 それが、たとえ年子で、一年足らずの差だったとしても、幼い頃はほんの数ヶ月の差でもその違いは明らかで、兄弟の順が取り違えられる事はありえない。

 ……しかし、流石に数時間程度の差で生まれてきた双子の場合は話が違ってくる。

 唯一の救いは、彼らが一卵性ではなく二卵性双生児として生まれてきた事だろう。

 それも、性格的な面では正反対に近い、似ていない双子であった事は、幸いであった。

 もしも、ぱっと見では見分けられないほどそっくりな一卵性双生児であったなら、話がもっとややこしくなったかもしれない。


 ただし、彼らが物心つく年頃に達して以来これまで、ずっと囁かれ続けてきた事。

 「彼らは生まれてくる順番を間違えたのではないか」

 


 ブリアーニ伯爵に元も求められるのは、当然魔物との戦いに耐えうる腕っ節であるが、ルカーノ侯爵にもまた、人質として国を出なければならない分、それなりの処世術というのが求められる。

 無論、代々の彼らの誰しもが、その役目にぴったりの性格をしていた訳はない。

 だが、今回に関しては、それがあまりにも顕著であった。彼らが双子であった事もまた、大きく関係しているだろう。


 武芸に優れ、防衛策の立案でも一定の成果を上げながら、無愛想で人付き合いが得意でない兄と、人当たりもよく社交的だが、あまり荒事には向いていなさそうな弟。


 彼らを遠目で見るしかない一般庶民はともかく、多少なりとも彼らと接する機会のある者たちは皆、溜息を吐きながら口を揃えて言うのである。

 「もしも、彼らの生まれた順番が、逆であったなら」――と。



 そして、ジルベルトは早い段階で気付いていた。

 弟のダリオが、ブリアーニの名を継ぐ事をいとうている事に。

 更には、無条件にルカーノ侯爵、そしてロマーノ公爵の地位を継ぐことが決まっている兄を疎んじている事に。


 それならば――と。

 だから、ジルベルトは一計を案じたのである。


 ただし、その計画を現実にするために、一番重要なピースだけがまだ、手元に無い。

 このままではただの机上の空論、絵に描いた餅になってしまう。

 ひとまず街へ繰り出してみたものの……。


 さて、どうしたものか。

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