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贄の花嫁  作者: 彩世 幻夜
狂想曲
84/111

花嫁に望むもの

 ほんの僅かな間に広まった、あの噂。

 そして、たった今聞かされた話。


 それを聞いた少女たちの目は、即座にダリオの方へと向いた。

 彼に選ばれれば、最高の栄誉と未来が手に入る。


 前回の夜、彼が手にした候補の数を考えれば、誰にも相応に可能性はある。


 そして、彼女たちの保護者としてついてきた者たちも。

 その夜、たった一枚――たった一人のみを選んだジルベルトの思惑を、それで理解できたとばかりに頷く。


 栄誉は欲しいが、娘を“贄”として差し出したくはないと思う“良心的な”者も、それでホッと胸をなで下ろす。


 前回の、彼の態度。

 そして例の噂を信じるなら、その一人は既に決まっていると見て良い。


 それで、彼女のような異色な存在がこの場に在る事も説明がつく。


 だから、彼女たちの保護者の殆どもまた、狙いをダリオのみに定め、ジルベルトやミリアを眼中の外へと追いやる者は多かった。

 ――ごく、一部。その多くの敵に打ち勝つ自信のない者たちだけが、娘へと酷な指令をこっそりと送る。


 不人気な男の“贄”として島へ行けと。


 「さあ、皆、席に着くといい。城の職人が腕を振るった菓子と、茶を存分に楽しみながら、この会を是非有意義なものとして欲しい」


 促され、彼女たちはそれぞれ席に着き、それぞれの思いを、めいめいがお茶とともに飲み込む。

 外からは、そうとは悟られぬ、完璧な仕草で。


 しかし、彼女たちはそのままカップをソーサーへとゆっくり戻しながら、じっと周りの様子を観察する。

 あまり出しゃばることを良しとはされない、良家のお嬢様方は、まず相手の出方を伺う事にしたらしい。


 けれど。

 そんな風にのんびり構える余裕のないヴァネッサが、まず口火を切るように口を開いた。


 「……では。単刀直入に伺わせていただきますわ。殿下方が、花嫁に望む、最たるものはなんでしょう?」


 この場に居る者たち全てが知りたい、最たる情報だが、誰もが聞きづらいと思うこと。

 それが分かれば、誰もがそれに倣うだろう。

 努力の結果であれば、それも良いだろうが、その種類によっては偽ることも可能かも知れない。


 もしもそれに、示された基準に、足りなかったら?


 聞きたいけれど、聞きたくない。


 複雑な思いで、皆が双子の兄弟をじっと凝視した。


 「最たるもの、か。難しいね。花嫁は、とても大事な存在だ。簡単には決められない。花嫁に望むものは、多種多様にある。無論、ある程度優先順位はあるが……」


 もともとあまり喋るたちではないジルベルトに先んじて答えたのは、ダリオだった。

 「最低限、コミュニケーション能力は備えておいて欲しいね」

 麗しい微笑みを浮かべながら、答える。

 「……最たるもの、とは違うかもしれないけれど。けれど、これがなくては話にならない」


 その答えに、少女たちはゴクリと喉を鳴らした。

 ……社交界において、女性同士のお喋りに加わるのに、それがなくては始まらない。

 貴族であり、既に社交界デビューを果たしている彼女たちにとって、それは持っていて当たり前のスキルである。


 彼の答えは、彼女たちに安心よりも、“他”について考えさせる事になった。


 「では、ジルベルト殿下は、いかがですか?」


 ヴァネッサに、触発されたのだろうか。

 一人の少女が、おずおずと尋ねた。


 「自らの役目を理解し、その役目を全うするのに前向きな事。それに耐えうる精神力を持ち合わせる事だ」


 彼は、表情を変えることなく、淡々と答えた。

 この答えには、少女たちは顔を引きつらせるしかない。


 先の話が本当なら――


 ダリオ狙いの少女たちは、より一層強い眼差しをダリオに向け、ジルベルト狙いを強いられた少女たちは、顔色を悪くした。


 ただ一人、ミリアだけは微笑みを浮かべ。

 それを、ヴァネッサは忌々しそうに睨みつけた。


 

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