運命の転換点
――ああ。
思わず、ため息が漏れそうになる。
目の前には美味しいそうなお茶とお菓子が置かれている、というのに。
……仕事柄、城に出入りしているとはいえ、貴族階級ではないラウルにとって、こんな高級な菓子は滅多に食べられるものではなく、こんな時でなければ、喜んで手を出していただろうが。
ここは、“花嫁”を選ぶ場で、ここに集うもの者は、選ぶ立場にある自分の主を含めた公爵家の者以外は皆、人間だ。
それも、ある程度の身分を持つ、肉体労働や荒事は皆、人に命じてやらせる事があたりまえの者たちばかり。
しかも、あちらは若い娘ばかり。
吸血鬼の腕力を持つラウルなら、簡単にあしらえる相手。
……この国で暮らす以上、“そういう”考え方は禁忌とされていはいるが――自分たちが本来捕食者であり、彼らが被食者である事実は変えられない。
本来、自分は彼らを喰らう者であるはず。
……なのに。逆に獲って食われそうな心地になる。
あくまでエスコート役に過ぎない自分が居るこちら側は、場外戦で、本戦はあちらなのに。
あの中に居る彼女――ミリアが感じているプレッシャーは如何程か。
ただでさえ、まだ彼女の体調は万全とは言えないのに。
あのフィールドの中、それをコントロールすべき立場にあり、唯一彼女を守れる存在である主――ジルベルトをちらりと見やる。
その彼は、中央に立つ公爵をダリオと挟んで並ぶ形で、この国の最高権力者に頭を下げている。
「急な招集、申し訳ない。だが、これも民を守るべき身分に在る者の宿命」
公爵が、まず重々しく口を開く。
「――その、宿命に対し、皆に改めて伝えねばならぬことがある。後には、広く民にも知らしめるが、まずは当事者であるそなたたちに話さねばなるまい。それ故、本来、若い者たちのみで行われるこの茶会に、こうして私を含め、一人につき一人の同道者を許し、この場に在ってもらっている」
その視線を、頭を下げ続けるジルベルトに向ける。
「我が公爵家に於いて、長男として生まれた者は、侯爵として皇帝の膝下で次代をもうけ、その後公爵位を継ぎ、国を守る。次男として生まれたものは、伯爵として島へ赴く。それが、我が公爵家が負う、宿命」
そして、その宿命を全うするために、花嫁が選ばれる。
「すなわち、今代で言えば、ジルベルトが侯爵に、ダリオは伯爵となる宿命。――だが、これらの適性について、疑問に思う者らが居る旨、我が耳にも届いていた」
気まずげに目を逸らす者の多くは、ラウルと同じ卓についた者たちだ。
例えば、恋の話や、ドレスなどの流行りものの話が主である彼女たちにとって、そんな事はどうでもよく。
しかし。見目麗しく流行にも敏感で優しい当たりクジに見えるダリオが選ぶのは、贄の花嫁というハズレくじで。
本来、当たりクジであるはずのジルベルトは、年頃の娘にとって憧れとは程遠いハズレくじのように
見えていて。
だから、それとは少し違うけれど、彼女たちもまた、それに似た事は思っていて。
こくりと、胸に詰まる気まずさを何とか飲み込もうと喉を鳴らした。
唯一の例外の彼女は微笑んだ。
「この度、この者――ジルベルトが、侯爵位でなく、伯爵位を継ぎたいと申し出た」
その言葉に、この場にいる誰もが息を呑む。
自分と、彼女を除いた、誰もが……
「そして、それを私は了承し、許可を出した。それを、皆が認めるならば、と条件付きでな」
言葉を失い、目を見張る。
特に、愕然と目を見開いた少女が、一人。
「……まさかそんな、嘘……、でしょ……」
呆然と呟いた。




