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贄の花嫁  作者: 彩世 幻夜
序章
8/111

公爵家の兄弟

 「昨日、カルロの奥方の体調が、優れないという報告があった」

 彼は執務机に背を向け、窓の外の景色を眺めながら、執務机の前に二人並んで立つ彼らに、伝令役から受けた報告を伝えた。


 「……いよいよ、ですか。――では、今日、私たちを呼び出された用件というのは」

 「うむ。近いうちに、お主らの花嫁探しの宴を開く。もしも心当たりの相手が居るなら招待状を用意しておけ。そろそろ、覚悟を決めて貰わねばならない時期だ」

 ――ギリっ、と。

 二人並んだ青年のうち、肩甲骨まで伸びる美しい金の髪を流した方の男が拳を握り締めた。


 「もう――ですか。……ここのところ、代替わりの間隔が随分と狭まってはいませんか?」

 「いいや、元からこんなものだ。確かにここ数代、平均よりは少々短かったかもしれんが、所詮、五十歩百歩、大して変わりはせんよ」

 押し殺したような青年の問いに、彼は青年に背を向けたまま答えた。


 「しかしっ、叔父上はまだ戦えるのに! ……娘が死ねば、叔父上も――……私も……」

 ギリギリと、牙を食いしばり、声を震わせて訴える。

 「……彼女たちは、あまりにも脆すぎる」

 「それは、当然である。彼女たちは本来、守られるべき者であり、我らは守るべき者であるのだからな。……だが、伯爵の花嫁は、その守られるべき者から一歩踏み出し、守るべき者になる。――その責任は、重い。その重みに耐えうる然るべき娘を選ばねばならん」


 そこで初めて、彼は青年たちに向き直った。

 「まあ、花嫁探しの件でお前に関する心配はあまりしておらんがな。……むしろそちらで頭が痛いのは、お前の方だ、ジルベルト」

 彼は深くため息を吐きながら、頭を抱えた。

 「無愛想、粗暴、目つきが悪い、口が悪い。私の耳に入るだけでも随分な噂だ。だが、お前にもまた、次代を儲けるという義務があり、あちらで新たな献血者を見繕う事が出来ない以上、真剣に相手を選んでもらわねばならん」


 「……その件に関して、実は私から一つ、提案があるのですが」

 「何だ、申してみよ」

 「――はい」


 そして、彼の口から告げられたその提案に、他の二人は息を飲んだ。

 「本気か?」

 「冗談で、こんな事を言い出す程性格は悪くありませんよ。……前々から、考えていた事ですから」

 「しかしジルベルト、そうなるとお前……、尚更どうするつもりだ。お前についてきてくれるような奇特な娘に、心当たりはあるのかね?」


 「………………」

 その問いに、押し黙ってしまった彼は、半眼を向けられ、慌てて頭を下げた。

 「――探して参ります。必ず、“その日”までに見つけてきますから」

 腰を直角に曲げ、深々と頭を下げた彼は懇願した。

 「ですから、しばらく暇をいただけませんか? 三月みつき……いえ、二月ふたつきで構いません。どうか――」


 その熱心さに、男は溜息を吐きながら渋々といった様子で頷いた。

 「まあ、いいだろう。……腕っ節に関してはお前の方に分があるのは確かだしの。ただし、猶予は最高三ヶ月までだ。無論、その前にその一報が届いた場合は、その時が期限だ。――良いな?」

 「――はい。ありがとうございます」

 「では、二人とも、もう下がって良いぞ」


 部屋の主の許しを得て、執務室を出る。


 「――本気なのですか、兄上」

 後から退出し、部屋の扉を閉めた彼は、前を行くジルベルトを呼び止めた。

 「貴方には、生まれながらにしてルカーノ侯爵の地位が、さらにはロマーノ公爵の地位が約束されている。……なのに、何故――」

 ジルベルトは、震える声で問う弟を振り返ることなく答えた。

 「ダリオ、俺たちは双子だぜ? ……生まれてくる順番を間違った、と、俺らはずっと言われ続けてきた。年の離れた兄弟なら、その順番をひっくり返すことはもう出来ないだろうけど、双子の俺たちなら、それもアリかと思っただけの事だ」


 答えながら、一歩足を踏み出し、そして歩き出す。


 「次期ルカーノ侯爵は、お前だ、ダリオ」

 「……けれどそれは、あなたが“主”を見つけられなければ立ち消える話ではありませんか、兄上」

 だが、残された彼は扉の前で立ちすくんだまま、兄の背を睨みつけた。

 「ルカーノ侯爵という飴も無しに、見つけることが出来るのですか、貴方に。貴方と地獄まで連れ添ってくれる、そんな女性を――」


 「確かに今のところそれが一番の難点なのは否定しない。だが、まぁ期限までには何とかしてみせるさ。……ロマーノ公爵家の血を引く者としての誇りにかけて、な」

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