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贄の花嫁  作者: 彩世 幻夜
狂想曲
74/111

新たな忠告

 改めて呼ばれた医者は、さすが軍属なだけあって、怪我の治療に慣れているらしい。

 素晴らしい手際で、塗り薬や湿布薬を、それぞれの傷の種類や状態を瞬時に見分けて使い分ける。


 傷の炎症や化膿、傷口から体内に侵入したかもしれない良くないものを抑える為の薬を注射され、同時に飲み薬が痛み止めとともに処方され、ミリアは丸薬を言われるがままに飲み下す。


 最後には栄養剤と発熱を抑える点滴を繋がれ、ベッドでの安静を言い渡された。


 疲労と痛み止めの副作用とで、ぼんやりする思考と、鉛のように重い体は、わざわざ言われるまでもなくベッドから離れられる状態ではなく……

 このまま眠ってしまえれば、どんなに楽だろう?


 だが――

 医者が部屋を去った後も、一人残ったカーラから向けられる、明らかな嫌悪がそれを許してはくれない。

 今回の失態を、ミリア自身理解しているだけに、痛み止めを飲んでも尚疼く痛み以上にそれは効いた。


 「……だから、ご忠告申し上げましたのに。あなたでは、力不足だと。けれどもう、賽は投げられてしまった」


 彼らの花嫁は、国にとって大事な贄。

 普通なら、我こそはと手を挙げ立候補するような者など居るはずのない役目。

 それゆえ、選ばれた者たちに、辞退する権利は存在せず、無理にそれを押し通そうとすれば罰せられる。


 「ジルベルト様がお選びになったのは、結局貴女ただ一人。だのに、ダリオ様がお選びになられた娘たちを見れば尚酷く、選ばれた者たちの中では、貴女が一番ましだと納得するしかない」


 彼女の口調に、ヴァネッサのような稚拙な刺は無く、ただ研ぎ澄まされたナイフのようなひんやりとした鋭さが、ミリアの心の痛い部分を的確に突いていく。


 「いっそのこと、この場で亡き者にすれば……。私は当然極刑に処せられ、私があの方の花嫁となるのは不可能となるでしょうが……、急遽新たな候補を選ばなければならなくなれば、身近にいる有能な者を選ぶ可能性は高くなる」


 ――彼女は、吸血鬼で軍人で。

 彼女がのその気になれば、ただでさえ非力な人間で、今はこの通りまともに動けもしないミリアでは、抵抗するのも難しい。


 ……それを、ミリアは怖いとは思わなかった。

 今回の自分の失態を理解しているだけに、誰かにそれを罰してもらうのは、むしろ楽だったから。

 罰を与えて欲しいと、先ほどジルベルトが呟いたのも、きっと似たような思いからだったのだろう。


 けれど、だからこそ苦しくてたまらない。

 自分が目指し、欲したものに対し、自分が全く届いていない事が。

 努力しようとしたのに、それが生かせなかった事が。

 結果として、こうして無様な姿を晒し、こうして非難される事が。


 自分の失態で、ジルベルトまで苦しませてしまうことが。

 しかもその上、彼に対して“つまらない”期待をしようとするなど。


 「……だが、あんなに取り乱して怒る隊長を、私は初めて見た」


 なのに、そんなミリア以上に落ち込んだ様子で、カーラはこれまでの鋭い口調から一転、覇気のない声で呟いた。


 「立場上、部下を叱り、激を飛ばす事は珍しくない。場合によっては激怒する場面だって当然ある。だが、そんな時でもあの人はいつでも冷静で、理性的で……。あんなふうに自分を責める様を、初めて見た」

 カーラは、声を震わせながら言った。

 「……あの人は、契約する前から、もう、あなたを主として見ている。唯一絶対の、譲れない存在として、あなたを認めてしまっている」

 心底、悔しいと。言葉無くしても分かる声音で。

 「一度主と認めた者を奪われることは、我ら魔の者にとっては身を割かれるような苦しみを伴う。そんなものを、あの人に強いるなど、できるわけがない……!」


 キッと鋭くミリアを睨みつけ、彼女は言い捨てる。


 「あなたの失態は、全てそのままジルベルト様の失態として、彼を蝕む。ましてや、他にフォローできる者の無い島では、それが直に響く。それを、忘れないで」

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