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贄の花嫁  作者: 彩世 幻夜
狂想曲
59/111

伯爵家の家族会議

 ――貴族の朝は、基本的に遅いものだ。

 特に、前夜に夜会があった翌朝等、当主でもない限りは昼過ぎまで休み、朝と昼とを一緒くたにしたブランチをいただくのは、割とどこの貴族の屋敷でも当たり前のように見られる光景である。


 特に今日など昨日の国を挙げてのお祭り騒ぎの後の翌朝だ。

 貴族に限らず、大抵の家庭では普段よりも少し遅めの朝を迎えるのが恒例である。


 だが。

 大半が眠りについた街の中、厨房の排気管から煙が立ち上る屋敷が、一つ。


 執事、侍女。厨房のシェフから下働きに給仕係。

 執事や侍女のような上級使用人はプロ根性で笑顔を保っているものの。

 下働きの少女たちは、不満げな表情を隠しきれていない。


 ――そして。

 彼らを叩き起したこの屋敷の主たちは、揃って食堂に集まっていた。


 けれど、彼らの前にあるのはティーカップに淹れられた紅茶と、申し訳程度のお茶請けの菓子が、少しだけ。

 それを囲む者たちが放つ、ビリビリと静電気すら含んでいそうな空気に、同じ室に立つ執事や侍女の表情も硬くなる。


 「それで?」


 その中、一際硬い声を傍らの家令へ投げかけたのは、これを招集したこの屋敷の当主だった。


 「は。あの者の娘は、例の店を始めるべくこの屋敷での職を辞した後、一人の男を従業員として雇い入れ、同じ家に住まわせていたとの報告が上がっております。……その男というのが、どうも人間ではなく吸血鬼だったとの事。しかし、最近、傭兵の集団に店を襲われ、以来営業が不確かになっているらしく……。特にここ数日は、以前この屋敷に雇っておりました元騎士団員だった使用人との接触が確認されているとのことです」


 求めに応じ、淡々と書類に記された内容を述べる家令の報告に、彼の眉間のしわが深くなる。

 

 「なるほど。たかだか使用人の娘が、粋がって出て行ったものの、うまくはいかずに困窮した故の賭け、か?」

 ――だが。

 「しかし、ただの庶民の娘が、招かれねば参加できぬ宴にどうして……。あの娘に招待状を工面したのは誰だ?」


 「確かなことは、まだ調査中でございますが――。先にご報告申し上げました例の吸血鬼の同居人の髪色は金。どこぞの貴族の縁戚の可能性も……。そしてもう一つ、我が屋敷では使用人の立場にありましたあの男も、元は騎士団員。……あの者の伝手の豊富さの恩恵には、私も幾度も助けられて参りました故……、直には無理でも、融通して貰うくらいであれば可能だったのではないかと」


 まだ、現時点ではそのどちらとも確証は持てず、他の手段の有無も確認が取れていない状況である事も併せて報告した彼は、難しい顔をする。


 「……元とはいえ、この国にて騎士は永久名誉職でございます。加えて、建前上こそ同等とされてはおりますが、国防上、やはり優先されるのは人間ではなく吸血鬼でございます」


 例えば招待状を渡したのが前者だったとして。彼が、下っ端貴族の遠縁程度の者であれば良いが、もしも伯爵家以上の傍系や分家の次男・三男坊が小遣い稼ぎや“契約者”を求めたのであれば、下手に手出しをすれば、公国どころか帝国の国防を脅かした重罪で一族連座の大罪扱いされる可能性すら生まれる。

 そしてそれは、あの男も――。

 雇い主としての命令を下す分には問題ないが、一度でも国の防衛に貢献した者を粗雑に扱えば、当たり前のように罪に問われる上、評判は地に落ちる。


 確証のない現段階で手を出すには、あまりにリスクが高すぎる。


 「だが。仮にも候補に選ばれたからには、あれにも相応の処遇がなされているはず……」


 このローズ家の周囲にも、昨夜から騎士団が配されている。

 ほぼ間違いなく、あれの周りでも同様の手配がなされているだろう。


 「……あのあばら屋にうちの者が近づけば、目立つことこの上ない――が――」


 苛々と、菓子を頬張る娘に目をやり、彼は微笑んだ。

 「――ヴァネッサ」

 そして、彼女に一つの命令を下す。



 「これは、お前のための策だ。――うまくやりなさい」


 「……はい、お父様」



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